Interlude. 海緒とアイツのreunion
りんりんが会長さんと話している間、アタシは病室の外にあった待機室でボケーッと空を見ていた。既に日は沈みかけで、一面を茜色が支配している。こんな空を見ていると、あの日のことを思い出すんだ。
それは五年くらい前の今日みたいな暖かい夕暮れのことだった。アタシと同じくらいの古株だったアイツの引取先ができて、いよいよ孤児院からの別れって時だ。アタシはアイツと別れるのが嫌で、メチャクチャ駄々をこねていたんだっけ。泣きじゃくるアタシに対して、アイツはいつもしてくれたみたいにアタシの頭をそっと撫でながら、周りには聞こえない声で囁いてくれたんだ。
「これは永遠の別れじゃない。生きていれば絶対にまた巡り会える。その時は、海緒ねえが大好きな映画を見ながら一緒にケーキでも食べよう」
アイツは同い年だってのにアタシのことを海緒ねえって呼んでくるし、そのクセしてアタシよりもずっと大人びていてカッコいい存在だったよ。それでいて魔術の扱いも上手くってさ……。何で孤児院にいるのか分からないくらいに優秀な存在だった。
引き取ってくれる家も所謂上流階級の家柄ってことで、それはもう羨ましいという言葉以外ない。だから心の中ではいつか来る別れを分かっていても……それを受け止めるということはどうしてもできなかった。
だからその日からアタシはみんなのお姉ちゃんになったんだ。またアイツに何の因果か巡り会ってしまったときに恥ずかしくない人間になりたいから。アイツにかかっていた孤児院の負担もちょっとだけこっちに回ってきて大変なこともたくさんあった。それでもアタシはアイツにふさわしい人間になりたいと。魔術適正がメチャクチャな私でも強くなってみせると。そう思ってたんだけどなぁ……
「まさかああも手も足も出ないとはね」
自嘲しながら視線を天井に移す。りんりんには救護のためにリタイアしたって言ったが本当は違う。私はアイツと……東條裕貴と戦った上で惨敗している。突然彼のいるフロアに落っこちたせいでまともに戦闘できなかったってのもあったけど何より、私の弾丸は一発も彼を貫くことはなかった。そうして頁戻しされない程度に嬲られてリタイアして……それで私はりんりん達の救助に回ったんだ。
「あっ、海緒さん!」
「おー篝ちゃん。しかしこっぴどくやられたねぇ」
篝ちゃんは身体のそこかしこに傷を負っているものの、どれも致命傷に達するものではない。アイツ、さては手加減してたな? そこら辺の優しさというか優柔不断さというか、時間が経っても変わってないもんだなぁ……
「実力不足でした……華凜殿や海緒さんの分まで戦ったのですが面目ない……」
「いーのいーの、アイツ相手に首根っこ掴めそうなとこまで行けただけ十分だよ。りんりんもそこら辺はちゃんと見てくれてると思うから」
「かたじけない。ところで、華凜殿は今どちらに?」
「病室でお取り込み中だってさ」
まさかアタシたちがいない間に部屋の中で筆舌に尽くしがたい行為に及んでいるとかないだろうか? まぁ流石にないだろう。一応生徒会長なんだし。真面目な話があるって言ってたし!
「そういえば海緒さん、『共盟』の相手はもう見つけていらっしゃいますか?」
「あー……あったねそういうの……めんどくせー……」
共盟、まぁ要はタッグみたいなものだ。個人技を競うものもあるが、魔術を用いた武力の行使という場合はどうしても多対多を真っ先に想定する必要がある。そうなると問題になるのが人によってあぶれるまぁぼっちに対する問題だ。それを解消する制度こそが共盟。一年間限定のタッグ結成を義務づけるためのもので、その対象は学園の生徒であり、同じ等部であれば誰でもいいというとても自由度の高いものだ。
「んー……こういうのはふーちゃんに頼んじゃえばいいんだけど……今回はこれ使えないからなぁ」
風花に頼めば二つ返事で了承してくれるだろうが、そうなるといろいろと問題が発生する。特に魔闘面では最悪だ。風花は、魔闘を一切行わないという条件の下で照葉学園への入学を許可したという経緯がある。魔闘を行いたい私とはどうしてもソリが合わない。
「でしたら私と組んでくれませんか?」
「篝ちゃんとかぁ……」
普通にアリ、というか是非とも組みたい。近距離と遠距離、火力と速度、陽と陰、アクセルとブレーキ、全ての意味で最高のタッグになり得る。
「最高じゃん! てか、むしろアタシでいいの? 本戦まで進んだんだかしさぁ、みんなから引っ張りだこになりそうだと思うけど」
「本戦まで進んだのがフロック扱いされているのでそこに関しては問題ないかと。私も海緒さんのような実力者と学べるというのは貴重な経験になります」
まぁ篝ちゃんの能力的にバトルロイヤルに向いてるからね。ずっと身を隠し続けてきたみたいな風に思われてるに違いないだろう。
「『共盟』には名前を付ける必要があるんですよね。どんな名前にしますか?」
「使い捨て廃棄物軍団!」
「それは流石に嫌です」
「えー」
篝ちゃんに真顔で即答されてしまった。そう言われると流石にへこむ。やっぱりアタシの感性はおかしいところがあるのだろうか? おかしいとしてもそれがアタシなので変えることは無いのだが、こういう時に上手いこと場の流れに乗れないのは痛い。
「わかんねー! もう篝ちゃんが適当に決めていいよぉ!」
「……では、『草薙』などどうでしょう?」
「いいんじゃない? アタシ達に草要素無いけどさ!」
後から聞けば、篝ちゃんの魔装『堕血』と、アタシが青の魔術しかまともに使えないことから神話のヤマタノオロチを想像してのことらしい。一般教養って大事だよねホントに。
……まさかあの会長、りんりんを共盟の相手に誘いに来たんじゃないだろうか? いやまさかあり得ないでしょ。一年生でしかも予選落ちの挙げ句に大けがしている人を誘おうという気がしれない。が、ここで風花の言葉をふと思い出した。
『この数値を見るに君は白の観測者、もしくはそれに近しいほどの能力の持ち主ということになる』
……ふーちゃんの魔装での隠蔽が効いてたらいいんだけどなぁ。
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