ゼツヤVSミズハ
12月15日。
ミズハはある山に向かっていた。
辺境エリア『支援の山脈』という場所で、工房オラシオンが存在するフィールドである。
色や形は現実とほとんど変わらない。だが、ファンタジー系のゲームにしては広大であり、自らの足で行くにしてはかなり重労働になるフィールドだった。
「待ってたぞ。ミズハ」
ゼツヤが山頂にたっている。
「ゼツヤ君。久しぶり」
「リアルではかなり会うが、こっちでは確かに久しぶりだな」
「ここが、オラシオンなの?」
「ああ、そうだ。七年前から存在する。俺の拠点だ」
「工房の近くでしたいっていったのは私だけど、こんな辺境にあるだなんて思わなかった。しかも、マップが使えないようになっているし」
「この山脈のデメリット効果だ。しかも、ただここに来ただけでは絶対に気づかないように偽造している」
「用意周到ね」
「そうだな。さて、始めるか」
ゼツヤがウィンドウを操作する。
ミズハの前に『ゼツヤからデュエルが申し込まれました。受諾しますか?』というシステムメッセージが出現する。ためらいなく受諾した。
カウントウィンドウが出現する。
ミズハは夜空のように黒い弓を構える。
ゼツヤは、背には黒い長剣を背負っているが、構えなかった。
「抜かないの?剣」
「本気を見せるとは言ったが、折角だしな。あんまり早々に決着がついても面白くない。抜剣させてみな」
「分かった」
ミズハは矢を構えずに引き絞る。エネルギーの弓矢が形成された。
そして、カウントゼロ。
ゼツヤが次の瞬間には抜き手を放ってきていた。
だが、ミズハはすでに跳躍スキルで後ろに飛んでいたので、距離を作ることに成功していた。
矢を放つが、グローブで弾かれる。いったいどんな素材でできているのだろうか。
分かっていることだが、近接の練習をしていないわけではないが、ミズハはアーチャーだ。接近戦はたしなみ程度と言ってもいい。とにかく距離をとることだ。
だが、逃げているだけではどうにもならないのも事実。
それも、ゼツヤが教えてくれたことだ。
跳躍していくなか、ミズハは直径三センチの球状のアイテムを地面に叩きつける。
そして、地面に光が走った。
そしてそれは、隠れて設置させていた。丸められたスクロールに到達する。
「器用なもんだ」
放たれた範囲系魔法の射程範囲外にすぐにお互いに移動した。
「ふう、考えたもんだな。しかし、今まで戦ってきたものとは違うな。どうもやりにくい。理由もわかっているけどな」
ミズハの最大の武器は、『勘のよさ』である。
複雑なことは自分では考えず、思ったことをそのまま行うのだ。
VRMMOにおいてプレイヤーVSプレイヤーと言うのは、『相手に虚偽の情報を与える』と言うことと『相手の仕草から判断して先を読む』と言うことが重要である。
相手の持っている情報が真実でないなら、それを利用して裏をかくことができる。先を読むことができれば、回避するなり受け流すなりして、次の自分の行動に繋げることができる。
NWOの強者は、虚偽の情報を与えることができるほどこが狭くないので、それはほとんどのプレイヤーが苦手分野だ。
その分、相手のしぐさを読むことに特化している。
だが、ミズハの場合。ほとんどの動作を直感で行うため、仕草から判断するのはとても難しい。
「まあ、それくらいはないとな」
ゼツヤが突進してきた。
ミズハは、そのポイントには、次の瞬間からはもういなかった。
「はっ?」
斜めから狙い打つが、気づかれたようで、すぐに弾かれる。
「早い……いや、少々違うか」
ゼツヤはミズハのステータスをある程度理解しているはずである。AGIを上げていないわけではないが、最優先してあげているわけではないということも知っている。
ゼツヤが呟いたように、早いのではないのだ。
それからは、その連続だった。ゼツヤはミズハをとらえ続けることができなかった。
そして十数発目、かなり遅れてゼツヤが反応した。
当たる。そう確信した。
だが、その矢も当たらなかった。
ゼツヤに目付きが、あまりにも鋭くなっていた。
「ゼツヤ君の雰囲気がかなり変わった……」
何かをしたのだろう。
同じパターンがあったが、またもや弾かれる。
「成る程な。一瞬だけでも、視界から消える理由がわかった」
「ためしにいってみて」
「『予備動作なしの跳躍』だろ」
ミズハは驚愕した。ほんの数秒で見破られるとは思わなかった。
ゼツヤが突進してきたとき、どの方向に行くのか。それすらミズハは自分では決めておらず、直感に委ねている。
ミズハも人間である以上、法則が全くないわけではないが、それでも少なすぎるのだ。それが、読みにくい理由でもある。
そんな状態で、読むための材料である予備動作がなかったらどうなるのか。
追い付くことなどできない。
だが、ミズハもアバターである。消えるということを実行するのには、それだけでは足りない。
ミズハは跳躍スキル。そのはせいスキルもしっかり鍛えた。
それにより。予備動作がなくとも、跳躍スキルを適用させることができる。
これによって、初速が早くなるのだ。しかも、突進中なので視界はかなり狭い。それらを複合させることで、相手の視界から一時的に姿を消すことができる。ということがおこるのだ。
ミズハ自身ですら、何をするのかを決めていないということ。そして、直感から来る予備動作のない初速の早い行動。これにより、一瞬消えたように見えるのだ。
たとえ消えたように見えなくとも、反応するために一瞬遅れるのは避けれないだろう。
「予備動作のない行動においてもっとも重要なのは『フォームチェック』だ。何万回と練習したんだろうな」
「そうだね」
「しかも、まだ何かありそうだな」
確かに、まだかくし球がある。
「俺も本気をだそう」
ゼツヤは剣を抜いた。
まだまだ続く。




