アップデート・シー
「ゼツヤ君!船作って!」
「……何言ってんの?」
オラシオン・タブレットのために『ダークマター・ヘキサゴン』という石板みたいなものを作っていた時、工房に突入してきたミズハがいきなりそういった。
ちなみに、よく工房に突入してくるミズハだが、勘に寄って突入してもいいタイミングをしっかり把握できるので、迷惑になったことはない。
さらに言えば交際中なので、迷惑にさえならなければ特にいうことはない。
「……何を作ってるの?」
「オラシオン・タブレットって覚えてるか?」
「うん。製作道具を当てるとそれに適したアイテムになる素材アイテムだよね」
「あれから弟子たちを巻き込んで検証したら、所有スキルや職業も関係すると分かったが、まあそれはいいとして、あのタブレットを作るためには、『ダークマター・ヘキサゴン』というものが必要になる」
「……『六角形の万能物質』?」
「そんな感じでいいぞ。それを作っていた。コイツを土台として作るんだが、材料だけがあっても剣で複製できないんだよね……だから自分で作る必要がある。この石板があれば、後は剣の力で一気にタブレットまで行けるんだけどな……まあそれはいいか。で、船だって?」
「うん。船。作れるでしょ?」
「そりゃ作れるが……どういうことだ?」
生産用のプログラムに関係がありそうなアップデートしか確認しないゼツヤが悪いのだが、なぜなのかわからない。
「海に大規模なアップデートがあるんだよ。昨日のメンテナンス期間はいつもより長かったでしょ?」
「ああ。確かに」
「それでね。海にも大規模なアップデートが追加されて、造船ギルドに注文が殺到しているほどなんだよ」
「海ねぇ……」
NWOは基本陸続きではあるが、もちろん海も広大だ。
ただし、オブシディアン海賊団みたいに船を持っているプレイヤーは多くはない。
リアルでも、国家間における大量運搬に関してはもちろん船が使われている。
島国である日本はなおさらだ。
リオが会長の系列会社にも海運はそこそこ多いと聞いている。というか、リオは普通に小国の経済を動かせるレベルの財産を持っているけどな。借金大国日本の国債の八割をリオが持っているんだぜ?一体どうなっているんだよ。
「船か……久しぶりに作ってみるのもいいな。ただ、海がアップデートされたと言う情報だけだと、何を重視すればいいのかわからんぞ」
「海の底にいろいろと素材アイテムがあるみたいだね。鉱石とか、植物の化石とか」
……。
「モンスターも強化されているんだろ?」
「いろいろ出てきたみたいだね。転覆事故も多いみたい」
「……モンスターが船を転覆させるって、漫画かよ」
「それに、鉱床とかもあるみたいで、プレイヤー同士でも資源目当てで争ってるみたいだよ」
「……え、すでにそういう状況になってるのか?」
NWO海賊時代の到来か?
「様子見をしない人もいるんだよ。確か、エルド……だったかな」
誰だっけ。
「……ああ。思いだした。一昨年から兵器関係で動いていて、俺がことごとく無意味にしているあれだ。ヘリオスの傲慢兄貴だ」
「私も思いだした。去年は戦車を作ってたよね」
そう、ヘリオスの元ネタだ。結局グレネートで焼いたけどな。
「そうか。あいつが動いてたのか。ていうか、アイツ戦艦持ってたな」
オブシディアン海賊団が遭遇しているはずだ。ルナードあたりが射出されたバリスタの槍を斬り落としていたような記憶がうっすらとある。
「ブリュゲールはかかわっていると思う?」
「無理だと思うがな……ヘリオスもギルドの運営についていろいろ方針変更してたしな。だから、そのエルドとそのチーム単独で動いているだろう。確かに、新しく設定されたその素材に関していえば俺もまだ持っていないからな」
……いや、錬金しまくっていた過程でどこかで作っている可能性も否定できないが、それは置いておこう。なんか面倒になってきたからな。
「まあ、とりあえず船がほしいね。頑丈さとか、居住性とか、積載容量とか、後、秘密兵器とか」
「とりあえず考えられるものを全部作って。と言われている気がするのは俺の気のせいか?」
「そうだとするとどんな感じになるの?」
「わからん」
だって船はあまり作らないしな。
オラシオンには生産領域がすごく多いので、洞窟内部ではあるが外と変わりないのは事実だが、それでも水がかかわるエリアは多くはないし、そんなエリアであっても船は使わない。ボートで十分。
「……そう言えば、VRMMOの船ってどうやって動いてるの?」
「どうやって……というのは逆に質問の意味が分からんが……」
「あまり風とかないよね。帆は結構動くけど」
なんでかよくわからんが、外気にさらされている布製品は、風もないのに時々すごく動いたりするし、留め具も固定具もないのにまるで誰かが支えているかのようになっていたりする。遊○王ア○ファの赤眼鏡のマフラーみたいな感じだ。
「専用のマジカルスクロールを使って魔法で動かすか、召喚獣(特に精霊)と交信できるスキルを使って動かしてもらうか……あとは、鉄工スキルがあれば蒸気船も作れるぞ」
「え、蒸気船あるの!?」
一応水蒸気も発生するし、タービンだって回せるからな。NWO。
「去年エルドが動かしていた戦艦だって蒸気船だ。まあ、ほとんどの場合はマジカルスクロールで動かしてるはずだ」
「魔法式と、召喚獣式と、蒸気船式、速度的にはどれが一番早いの?」
「蒸気船→魔法式→召喚獣の順番で、蒸気船が一番早いな。移動コストの方は、蒸気船はそもそも燃料調達で苦しくなるしコストもすごい。課金アイテムを容赦なく使えるのなら話は別だがな。魔法式はマジカルストーンがあれば問題はない。スクロールではあるが、一度船を止めるまでは継続的に使えるからな。MPを供給し続ける必要があるが」
「召喚獣は?」
「風とか水の精霊を捕まえる必要がある。個体によってはMPが不要なものもたまにいるが、大量に仲間にしていないと実用的とは言えないな」
まあ要するに。
「定番としては魔法式だが、小舟やボートなら召喚獣で十分。みたいなかんじだ」
「ふむふむ。ゼツヤ君のオススメは?」
「魔法式がいいだろうな。というか、スクロールは自前でいいし」
「あ。スクロール持ってるんだ」
「オラシオンだからな」
「わかった。それなら、魔法式でよろしく!」
そう言うとミズハは走って行った。
「……元気だなぁ。それとも俺が爺クサくなったのかね」
ゼツヤは溜息を吐いた。




