ミズハがリオの天敵だった件
ゼツヤはミズハが次々と流星を放ってクリスタルを破壊するのを見たあと、『これ修理するの大変だろうなぁ。シュラインに丸投げしようかな』とか色々考えた。
そして、通路を強引に作ったようなのでそれを使ってリオの場所に直線ルートで行く。
そこには、胃薬をのみながらため息を吐くリオがいた。
誰がどう見ても色々と疲れている感じだった。
ちなみに、オラシオンから任務完了メールが来たので、すでに回収してある。
「リオ、大丈夫か?」
「さすがの僕も胃が痛いね。はっきり言うと、今回の攻城戦は時間制限オーバーで勝てると思っていたんだ。少なくとも、僕の予想ではそうだった。しかしまぁ、あそこまでピンポイントでバカスカ壊されるとは思ってもいなかったからね。あと、ホールにいる人間が無駄に賢い分(一人除く)、今も不毛な戦いを続けているし、ドレイクの趣味、いやまあ全面的な否定はしないが、思った以上にメンタルが低かったし、想定外ばかりだったよ」
圧倒的に広いし、それは面積だけではなく、上下も含む。クリスタルの位置は高いところにあったが、スーパーノヴァには強度が足りなかった。
というか、今でも現役アイドルなのにあんなに過激なことをするとは夢にも思わなかったのだろう。
リオは遠くを見るかのような雰囲気になった。
「まあいい、恐らくだが、この戦況はほぼ変化しないと言っていい。まああるとすれば、レイフォスやセルファがここに来るくらいだろう。それは僕にとって問題ではない」
「なにか問題があるかのような言い方だな」
「私だね」
自覚はあるようだな。
「思えばもっと早く気づくべきだった。直感というものの恐ろしさを。シエルもこれが僕に関することだけ直感が働くんだが、すさまじい精度だからね。この前なんて、僕が理事長を勤めている大学でなかなか可愛い研究生が猛烈にアタックしてきたんだが、内心ちょっとドキッとしたけど、ふと窓を見ると般若の顔をしたシエルがいたんだ。あれは怖かったよ」
しかもあのあと監視カメラをみたが、シエルは写っていなかったんだよねぇ。と続けられた言葉に、ゼツヤは乾いた笑い声を出した。
「まあいい。かかってくるといい。僕の後ろの扉の向こうに、クリスタルはある」
「よし、やるか」
てか普通に考えて二人で勝てるような相手だったかな。
まあそれはいい。
ゼツヤはオラシオンを構えて突撃する。
リオは静かに剣を構える。
そのままつばぜり合いに持ち込むが、やはり押しきれないな。
「ん?」
リオがチラッとミズハを見る。
ミズハは弓を構えていた。
いや、それはいいのだが、その矢の先にあるのは……ドアだった。
ミズハは容赦なく矢を放つ。
「ちょっと待て!」
リオはすぐさま矢に追い付いて切断する。
「なかなか容赦ない性格だ。僕だっていきなりこんなことはしないよ」
「それは私には関係ありませんよ」
確かにそうである。
それと同時に、リオは異変に気付いていた。
リオのスキル『摂理の中心地点』が、ミズハに対して機能していないのだ。
今までに無かったことなので再分析するが、まあ要するに侮っていたということになるだろう。
ミズハが直感に頼っていることはリオも知っている。いや、運で気づくことが出来たと言うべきだろう。
リオは直感や闇雲なことであっても、その運のよさで自らにとっていい方向に進むものだと思っていたし、今までもそうだった。
しかし、ミズハに関しては異なるのだ。
運のよさによって気づくことが出来たが、何が起こっているのか。
簡潔に言おう。
ミズハは、その直感によって、摂理の中心地点に必要な前提を全て壊すようにしながら行動しているのだ。
前提を揃えることでリオのスキルは発動する。であれば、前提が揃わないのならリオの思い通りにはならないのだ。
そしてそれは、ゼツヤたちがこの宮殿に入る前に、リオについて確認していたことである。
あんなところでフラグが立っていたとは思わなかった。
「これは凄まじいほど天敵だな」
「私の直感はすごいからね」
「俺もわかったけど……まさかこんなことになるとは……」
ミズハはあまり敵に回していい存在ではない。
とはいっても、それだけでリオの勝利を覆すのは少々しんどい。
リオはそもそも数多くの才能がある。
先程だって、つばぜり合いの状態からすでに放たれた矢に追い付いて切断するという、紛れもない神業をしたばかりなのだ。
しかし、ミズハだけなら、リオも苦戦はしなかった。
リオは運によってそもそもセンスが高い。ミズハと言えど一人で戦えば、その瞬間に条件が成立するだろう。
もとはといえば、摂理の中心地点は攻城戦のような大規模なイベントで機能するものだ。だからこそ、リオは今回の様なことを計画したのだ。
まあそれも、一人の少女によって覆されたのだが。
そしてもうひとつ、直感が物凄く優れているのはミズハだが、間接的に、ゼツヤにも当てはまる。
「はぁ、今回は僕の負けか」
「そうみたいだな」
オーバーライド『マリオネット・ストリング』起動。
「思えば負けるのは久しぶりだな」
「負けたことがある言い方だね」
「ああ、ある人物と、とあるゲームをしたのだが、完全に敗北したよ」
リオは誰にも聞こえない声で『まあ、この世界を産み出した人だけどね』といった。
「さて、始めようか。まあ、大体決まっているようなものだけどね」
「ある意味、都合がいいんじゃないか?敗けの方が」
「そうとも言える」
(切り札の一つや二つ、恐らくあるだろうが、今使うのもリオにとって最善ではないだろうしな)
(厳密に言えば勝つ手段はあるが、まだカードを切るべきではないしね)
再度激突する。
しかし、摂理の中心地点が全く機能していないという現状、そして、攻城戦というルール下においては、リオは苦戦条件が整いすぎていた。
リオのHPは無くならなかった。
しかし、決着はついた。
ゼツヤたちの勝利によって。




