第60話 まだガキな部分
「お見事ね、バトムス」
「ど、どうも」
初級ポーションの中でも上位の質を持つポーションの製作に成功し、大喜びしていたバトムスに近づき、頭を撫でるファエリナ。
ルチアの様なまだまだガキんちょには興味を持てないバトムスだが、ファエリナは見た目は完全に十代後半から二十ほどの美人エルフ。
精神年齢に関しても十代後半と、前世のバトムスよりも数歳上。
姉弟子ではあるが、完全に姉ではないため、バトムスとしても近づかれ、頭を撫でられれば……普通にどぎまぎしてしまう。
「バトムス君、このポーションはどうする? 君さえよければ、私の店で売ろうと思うけど」
「っ!!!! よ、よろしくお願いします」
エルリックが、自分の店で売っても構わないと告げた。
これまた、バトムスにとって自身が成長した証とも言えた。
店で売っても構わない……つまり、師であるエルリックが自身の店で売り物になると判断した。
店で売っても、自身の看板に影響を与えることはないと判断した……それだけのポーションを自分は造れたのだと、確かな自信へと変わる。
「良かったですね。ですがバトムス、自信を持つのは良い事ですけど、それが慢心に繋がることを忘れないように」
「う、うっす」
バトムスの目線に合わせて語ろうとするファエリナに、思わず目を背けながら返事してしまう。
そうなってしまう主な理由としては……ファエリナはしっかりと肌が隠れる服を着ているのだが、それでもブルんと揺れてしまうほど大きなたわわを持っている。
目線を合わせる為に移動した際、見事に揺れ……更に、大人の女性が持つ特有の香りに何故か恥ずかしさを感じる。
普段話す分には特に問題は無いが、それはそれでこれはこれ。
前世の年齢にまだ今世の年齢が追いついておらず、女性経験も特にないバトムスは既に思春期真っ只中と言っても過言ではない。
(ふふ、こういうところは、まだまだ子供なのね)
女性の中でも、エルフの女性は特に異性から色欲の籠った視線を向けられるのを好ましく思わない。
ただ、現在のバトムスのように反応を取られると、まだ子供ということもあって少々からかいたくなるお姉さん心が芽生えてしまう。
「……それにしてもバトムス君。相変わらず錬金術師への道に進もうとはしないんだね」
「? はい、そうですね。のんびり自由に生きたいんで」
実際のところ、エルリックは錬金術師として現役で活動し、店に置くマジックアイテムを造るだけではなく、冒険者や騎士たちから依頼を受けてオーダーメイドの品を造ることもある。
ただ……今以上の腕を求めて、更なる研鑽を積もうとはしていない。
(そう簡単に気持ちが変わることはないか……いずれは、この子に店を継いでもらっても良いかなと思っているんだけどね)
エルリックは、一応独身ではない。
妻がおり、子供もいる。
その子供は現在錬金術師として研鑽中……ではなく、エルリックの冒険者として活動していた部分に惹かれてしまい、子供たち全員その道へ進んでしまった。
本業はずっと錬金術師であったものの、必要な素材を自力で集めようとする行動力があり、尚且つエルリックには錬金術の才だけではなく、魔法の才も有していた。
そのため、なんだかんだで錬金術師としてだけではなく、冒険者としてもそれなりに成功を収めている。
「勿体ないですね。これだけの才と、鍛錬し続けられる継続力があるのに」
「だって、商品を造る為に大量の同じ物を造ったり、原価から計算して利益を出すにはどうたらこうたらって考えるのも面倒だし」
バトムスは八歳という歳には似合わず、大人もびっくりな大金を有している。
前世の知識を活かしてギデオンに売り込み、ギデオンはそのアイデアを面白いと思い……従者の子だからってあくどい契約を結ぶのではなく、しっかりとした割合をバトムスの取り分に定めた。
そのため、バトムスはアイデアを出した権利料によって毎月貯金額が増えている。
現在は商人たちが在籍している商人ギルドに溜め込まれている。
バトムスにとっては、何も計算せず……特に何かを考えなくとも済むので、非常に楽。
「全く……それがあなたらしいと言えば、そうなのかもしれませんけど」
残念そうな言葉を零すファエリナ。
しかし、彼女もバトムスの気持ちは解らなくもなかった。
現在弟子としてエルリックの店を手伝っているが、活動の半分は上を目指す求道者
として時間を使えている。
錬金術が完全に仕事となってしまうと、求道者としての時間が大幅に減ってしまう。
「あっ、エルリック師匠。後で少しお時間良いですか」
「? 勿論構わないよ」
ファエリナが自身の研鑽の時間に移り、家のリビングで紅茶を飲みながら……バトムスは自身が考え付いたアイデアをエルリックに語った。




