第58話 どこに向かっているのか
「………………」
「大丈夫か、アル」
「うん……大丈夫だよ」
アルフォンスがアブルシオ辺境伯家に来てから三日目の夜。
現在、アルフォンスはバトムスの家のソファーに座りながら、ゴルドが淹れたリラックス作用がある紅茶を飲んでいた。
普段と比べて、明らかにテンションが低い。
その理由は、本日初めてモンスターとの戦いを経験したためだった。
「バトムスは、直ぐに乗り越えられたんだよね」
「まぁ……そうだな。人間に被害を出してる存在だし、遭遇したらしたらで向こうから容赦なく襲ってくるし」
結果として、アルフォンスは遭遇した低ランクモンスターとの戦闘では、全ての敵に勝利を収めた。
初戦闘も……事前にバトムスから話を聞いていたからか、実力の全てを発揮するには至らなかったが、半分以上は発揮することに成功した。
ただ、戦闘終了後にはモンスターの体内を見てしまい、朝食をリバースしてしまう。
因みに今日の狩りにはアルフォンスだけではなくルチアも同行しており、これまたバトムスから事前に話を聞いていたが……努力虚しく、乙女の尊厳が砕かれるリバースを行ってしまった。
「辛いか?」
「……少し、感じるところがある。ただ……うん、そうだね。考えても、仕方ないんだろうね」
見事遭遇したモンスターを討伐し続け、戦場の恐ろしさを経験して成長した。
だが、その中で命を奪うという行為に、思うところを感じた。
とはいえ、本当に七歳かとツッコまれてしまうが、アルフォンスは直ぐに考えるだけ無駄だと判断。
主な理由として、既にアルフォンスの騎士としての才を見抜いているものから、いずれは同じ騎士に対し……死んでくれと命じなければならない時があると教えられていた。
王族とはいえ、七歳の子供に教えるにはあまりにも速過ぎる残酷な現実ではないかと思われるが、それを教えた者はアルフォンスの聡明さを加味した上でその事実を伝えた。
「それにしても……パーズは本当に強いね」
「へへ、だろ」
現在バトムスにもふもふされているマーサルベアの子供、パーズはバトムスたちが狩り中にオークと遭遇した際……本来なら陰から見守っているゴルドやジーニス、ジェナたちが対応するところ、あまり戦えていなかったこともあり、勢い良く襲い掛かった。
現状の体格ではオークの方が勝っているが、子供とはいえ身体能力はBランクである
パーズの方が上。
戦闘に関しても騎士として熟練者である者たちと模擬戦を行っていることもあり、遅れを取ることなく、見事一人でオークを討伐。
(バトムスにとって、相棒と呼べる存在…………僕も、と思ってしまうね)
以前、従魔に関してバトムスと話したことがあり、それを忘れてはいない。
非常に難しいことも理解しており、アルフォンスは下手に父親である国王に相談しようとは思わない。
とはいえ……羨ましいと思ってしまうのは、致し方ない。
「……そういえばさ、バトムスはこれからも狩りを続けるんだよね」
「ん? ん~~~~……そうだな。それがどうかしたか?」
「これからも強くなり続けて、その強さで何をしたいのかなって思って」
冒険者を目指す、騎士を目指す、国に仕える魔術師を目指す……だから強くなる為に頑張る!!!! というのは、誰から見ても非常に納得出来る強くなる理由出る。
だが、従者に……執事になるつもりがないバトムスは、当然騎士になるつもりもない。
しかし、それじゃあ自由を求めて冒険者に!!!! ……なるつもりもない。
だからこそ、アルフォンスは純粋にバトムスがこれからも強くなり続けて、その強さを何に使うのか気になった。
「…………………………何を、するんだろうな。一応鍛冶や錬金術に必要な素材を自分と取ってこれるようになりたいとは思ってるけど」
「でも、冒険者になりたいという訳ではないんだよね」
「そうだな。成り行きで冒険者ギルドのギルドカードは発行することになるかもしれないけど、冒険者を本業にして頑張ろうとは思わないし」
「そっか……けど、鍛冶師としても錬金術師としても活動するつもりもないんだよね」
「だな。あぁいうのは趣味だからこそ超楽しいって感じだ」
物を造るという感覚が楽しく、その物が自分がカッコ良いと感じるものであれば、尚更楽しい。
だからこそ、バトムスは鍛冶も錬金術も全て趣味で良いと考えている。
(……バトムスは凄いけど、どこに向かってるかだけは、本当に謎だね)
従者や騎士にならなければ、冒険者にもならない。
趣味を活かして料理人や鍛冶師、錬金術師にもならない。
バトムスがどこに向かって進んでいるのか解らないというアルフォンスの疑問も、致し方ない。
何故なら……バトムスが進もうとしている道は、やりたい事だけをしながら生きていくニート? スローライフ。
ニートや引きこもりという感覚、存在が殆どないと言っても良い王族や貴族の世界にいるアルフォンスが解らないのも無理はない。
とはいえ、仮に意味を理解したとしても……アルフォンスとバトムスの縁が消えることはない。




