第56話 そもそも喋らない
「ってところな」
「なるほど……本当に、色々な戦い方があるね」
「ま、まぁな」
ルチアが到着するまで、アルフォンスは本気で戦いに関する質問をアルフォンスに幾つも尋ねた。
ゴブリンやホーンラビットとのもっと細かい戦い方、感じる雰囲気や……ゴブリン
を相手であれば、どういった戦い方が有効なのか。
友人が本気だからこそ……バトムスは本気で回答した。
狙うならまずは顔。
その次に足元や手……そしてまた顔。
上手く接近出来たのであれば、脚を掴んで転ばせる。
普通に考えれば、どう考えても貴族の令息が、正真正銘の王子が取る戦法ではない。
だが、そういった答えを友人が欲しているのだと解っているからこそ、バトムスは隠さなかった。
そんなバトムスの答えに、ゴルドやジェナは……まったを掛けなかった。
何故なら、彼らも戦場では正々堂々と、小細工を使わずに勝つことが正義だと、絶対に正しい訳ではないと解っているから。
「お、お待たせしましたわ!!!!!」
「やぁ、ルチアさん」
「やった来たか、お嬢」
「うるさいですわ、バトムス!!」
ようやっと学習時間を終わらせて訓練場にやって来たルチア。
元々時間を決めて行っている授業だが、ルチアの耳にアルフォンスが訪れたという情報が耳に入り……物凄い集中力で本日学ぶはずだった範囲を吸収。
そして、本来ならもう十五分後で終わる筈だったにもかかわらず、教師に納得させる成果を上げて授業時間を早く切り上げた。
「ところで、何をしてたのでしょうか」
「バトムスの家で色々と話してた後、ここで模擬戦を行ってたんだ」
「そうなのですね」
「模擬戦ではバトムスに完敗だったけどね」
「っ!!」
本当なのかと、ルチアは同じく訓練場にいる騎士たちに目を向ける。
実際にバトムスの十一戦十一勝という戦績を考えれば、アルフォンスの完敗という言葉は妥当だった。
「勝負ですわ、バトムス!!!!」
「はいはい、お嬢のウォーミングアップが終わってからな。つか、勝手にそっち側に立ってんじゃねぇ」
何をアルフォンスを同士のように扱ってんだとツッコむバトムス。
嫉妬云々ではなく、単純にうぜぇと感じるも、バトムスの言葉は……ウォーミングアップだけしか入っておらず、ルチアは早速走り込みと素振りを行い始めた。
「相変わらず仲が良さそうだね」
「……アルフォンス、さすがに疲れたか?」
友人ではあるが、一応アルフォンスが王子だという事は忘れておらず、目が腐ってるのか? とはツッコまなかった。
バトムスにとって、ルチアは相変わらず気に入らない存在である。
だが……人間関係といった部分では、バトムスよりも多くのものを見てきたアルフォンスの方が広い視野を持っていた。
「まだまだ頑張れるよ。それとね、バトムス……本当に仲が悪かったら、そもそも喋ることすらしないんだよ」
「………………そういう、もんか」
まだそれなりに前世の記憶が残っているバトムスにとって、アルフォンスの言葉は割と納得出来る内容であった。
「うん、そういうものだよ。だから、ルチアさんとバトムスは仲が良さそうに見えるよ」
「……この前のあれを見てそう思ったなら、違うって否定したけどな」
「ふふ。そういう事にしておくよ」
相変わらずバトムスは否定する。
自分はただ、ルチアの努力に関しては認めているだけだと。
だが……幼くも大人びているアルフォンスや初老執事のゴルドは、ある事を知っている。
そもそも、本当に仲が良くなければ……嫌いだと、憎いと思っていれば、その相手が努力していることすら認められないと。
しかし、バトムスはルチアの努力に関しては間違いなく認めていた。
「ふぅーーーー……っし!! 戦るわよ、バトムス!!!」
「へいへい。ルールは…………いつものじゃないから、普通の模擬戦のルールで戦るか」
「良いわね。今日こそ勝つわ!!!!」
(……知らんし、幼いから簡単に口にするんだろうけど、物っ凄いズバッと負けフラグを口にするな)
これからルチアと戦うバトムスがそれを考えるのは、あまりにも上から目線、ルチアを嘗めていると捉えられる。
だが……普段のルチアの足裏以外が地面に付いたら負けという特別ルールではなく、通常の模擬戦ルールで戦うも……約二分後にはルチアの首にバトムスの剣先が添えられていた。
「~~~~~~っ!!! ま、参ったわ」
「はいよ」
素直に負けは認めたものの、勝って当然という態度を取られ、分かりやすく青筋を立てるルチア。
ただ、直ぐに傍にアルフォンスがいることを思い出し、直ぐに心を落ち着かせる。
「…………」
「ねぇ、バトムス」
「なんだ」
「バトムスに勝つとしたら、どうすれば良いんだい」
ルチアが一人で悩んだ渋い表情を浮かべるのを見て、アルフォンスはバトムスにとんでもない質問を投げた。




