第50話 それだけは、解る
「ねぇ!!」
「……なんだよ、お嬢」
パーティーが終わった後、バトムスはお嬢から……ルチアから声を掛けられた。
「なんで……なんで、助けたのよ」
バトムスが突拍子もない行動を起こし、その意図を……一応は理解し、直ぐ傍に居る味方を使い、場を征した。
その後も上手く話せていた……話し続け、有意義な時間だった。
それでも、パーティーが終わるまでの間、ずっと頭の片隅で残り続けていた。
何故、あそこで……あの男は、自分を助けたのだと。
「別になんでも良いでしょ」
「良い訳ないでしょ!!!!」
どうして? と思ってしまうバトムス。
だが、ルチアからすれば明確な答えを聞かなければ、ずっとモヤモヤが残ってしまう。
因みに……今この場にはメイドとギデオンの執事、シャルトしかいない。
「バトムス君、答えなければルチア様の頭にモヤっとした感情が残り続けてしまいます。ただ、答えるだけで良いのです」
「…………了解っす。分かりましたよ」
シャルトにそう言われては、答えるしかない。
バトムスはため息を吐きながらも、当時……何故あぁいった行動を起こしたのかを答えた。
「お嬢が強くなる為にだれだけ頑張ってるのかは、知ってるからな」
「…………そ、そんな理由、なの?」
「そうだよ」
理由を聞いた。
ただ、ルチアにとっては尚更訳が解らないと感じた。
「お嬢はただ強くなる為に頑張ってるだけだろ。にも拘わらず、あの三人はただ嫉妬して、暴言を吐いて……挙句の果てに、関係無い事を口にしてた」
バトムスは……中学生の時に死んだ。
身内でもない生意気な美少女を可愛いと……メスガキ最高!!! といった癖もない。
高校受験はしておらず、大学受験もしておらず……転生してからの約七年、屋敷で生活し続けたバトムスの精神年齢は生前に追い付いておらず、死んだ頃と何も変わっていない。
何故なら……段階を踏んで成長する機会がなく、環境の変化によって自分は成長してるんだなと感じることもない。
依然としてルチアは気に入らないし、この先も人として好きになることはない。
ただ、それでも幼いながらに真剣に頑張っている……頑張り続けるという事が、どれだけ凄い事かは解っている。
立場があれば、どうせ出来る?
バトムスは……そうは思えなかった。
「だから、自然とイラっとしたっつーか、なんか……あのまんまにしとくのは、何かな~~~って思えたんだよ」
「っ……そ、そう。けど、あんな行動を、いきなり」
「そこに関してはアルがいたからな。お嬢が上手く対応してくれなくても、アルが上手くやってくれると思ってた」
思うところがあった。
とはいえ、バトムスは考え無しで動くバカではない。
アルという最強のジョーカーが味方だからこそ、最も上手く……理屈上では自分は悪くないというスタンスを取れる方法で、ガキ三人に自分たちが何をしているか思い知らせた。
「上手くいくという作戦があっての行動だったのですね」
「えぇ。仮にアルが中立を保ったとしても……一応、やりようはあったので」
思い付いた内容を実行しよう。
そう思った時点で、バトムスの腹は決まっていた。
「…………なん、で?」
会場では、バトムスの行動理由を一応察し、上手く立ち回ったルチア。
それでも……まだ彼女は、七歳の子供。
バトムスが普段なら絶対に取らない行動を取った理由を聞いても……何故、どうしてという疑問が消えなかった。
「だ~か~ら! お嬢が戦闘訓練に関しちゃぁ、頑張ってたのを知ってたからって言ってんじゃん。はい、この話はもう終わりで」
そう言うと本当に勝手に切り上げ、自分の部屋へと戻って行った。
「まっ………………」
本当に出て行ってしまった。
追いかけることも出来たが、まだ頭の中で整理出来ておらず、ルチアはその場から動けなかった。
「……ルチア様。バトムス君が伝えた事は、本当に言葉通りのままだと思われます」
「言葉通りって……けど…………」
「バトムス君は、まだルチア様の事を嫌っているでしょう。ですが…………本当に不思議な事ではありますが、バトムス君は頑張るという事が、頑張り続けるという事がどれだけ素晴らしく、難しい事なのか解っているのでしょう」
また一つ、彼は本当に七歳の子供なのかという疑問が増えた。
それでもシャルトは話しを聞いた時、やはりと……良い意味で思った。
「でも、それはバトムスも同じ事をしてるでしょう」
「頑張り続ける、努力をする……それと、楽しむという事はやや異なります」
貴族の令嬢とはいえ、まだ七歳の子供であるルチアが理解するにはまだ難しいという事は解っている。
それでも、シャルトは同じ目線に立ち、真剣に……丁寧に説明していった。
「……彼の行動理由を、少しは理解いただけたでしょうか」
「………………ごめんなさい」
これまでの関係性があるからこそ、ルチア本人だからこそ、何故という疑問が残ってしまう。
だとしても……解ったことは、ある。
「でも、あいつが……私を助けたっていう事だけは、解るわ」
ルチアが零した言葉に、シャルトはとても満足そうな笑みを浮かべながら、小さく頷くのだった。




