第49話 カッコ良いのか?
主人の傍を離れる。
従者候補としては、人間としての尊厳を保とうとする時以外は、あり得ない行動である。
だが、バトムスはルチアに一言も声を掛けず、その場を離れ……ある場所へ向かった。
その先は…………先程まで、ルチアに対する悪口を口にしていた者たちがいる場所。
「「「っ………………」」」
従者候補が主の傍を離れ、こちらに向かってくる。
その行動に何かを感じ、ガキ三人は何事かと表情を歪める。
そして、同じ従者候補として普通ではないと感じた従者候補たちは、直ぐに彼らの前に出た。
しかし、バトムスはガキ三人の前までは行かず、その手前で止まった。
「ふん。怪物が何を勘違いしてるんだか」
「それな」
すると、何を思ったのか……先程まで彼らが話していた内容を口にし、一人芝居を始めた。
「けど、アルフォンス様がアブルシオ辺境伯家に行ったって話を聞いたことあるんだけど」
「バカ。そんなの、アブルシオ辺境伯家と良好な関係ってやつを結ぶためだけだろ」
「そうだぜ。アルフォンス様みたいな人に、あんな怪物が隣に立つなんざあり得ねぇっての」
「ふふ、それもそうか」
全てではないが、バトムスは彼らがルチアに対して向けていた悪口を殆ど思えていた。
そして、一人で三役行う一人芝居を……バトムスは割と大きな声で行った。
当然……そんな事をすれば一応現在は主であるルチアや、傍にいるアルフォンスたちの視線。
そしてガキ三人の回りにいる子供たちや……他の場所で会話を行っていた者たちもなんだなんだと視線をバトムスの方に向ける。
「というか、あんなのに婚約を申し込む奴なんていねぇよな」
「だな。でも、あれだよな。一応辺境伯家だし、申し込むこともあるだろ」
「そうなると、申し込まれた側の令息が可哀想だね」
「本当にそれな」
何をしているのか、解らない。
そんな事をしてなんの意味になるのか……子供たちがそんな事を考えていると、一人芝居が終わったバトムスはルチアの元へと戻った。
「お嬢様、先程彼らが行っていた行動、会話を真似してみたのですが、どうも自分はあれがカッコ良いとは思えませんでした。自分としては、彼らがカッコ良いと思っているからこそ、あの様な会話をしていると思ったのですが……お嬢様、自分の感覚がおかしいのでしょうか」
淀みなくスラスラと、そして静まり返った会場中に聞こえるような声で、バトムスは爆弾発言を落した。
その言葉を耳にした子供たちの表情は様々だった。
驚きを隠せない者、頭がおかしいのではとバトムスに視線を向ける者や、意味を理解して小さく吹き出す者。
そんな子供たちの中でも……ルチアは大きな衝撃を受けていた。
戦闘に関してはパワーで押すのが得意なルチアではあるが、それでも脳みそや思考回路まで筋肉な令嬢ではない。
今しがたバトムスが行った行動は、自身に悪態を突いていた者たちへの辛辣な返しであり、主である自分を助けるもの……そんな行動を、自分を嫌っている筈のバトムスが起こした。
それが、本当に解らなかった。
たった数秒間とはいえ、本気で頭をフル回転させても、解らない。
ただ……一つ、解ることはある。
それは、バトムスの行動によって、自分の心が非常にスカッとしたこと。
「ふっ……ふふふ。その感覚は間違ってないわ、バトムス」
「いやぁ~~~、それは良かったです。自分は平民なんで、貴族の方々の考えはあまり解らなくて」
「そう。でも、それは仕方ないわ。アルフォンス様もそう思いませんか」
何度も社交界に出席しているルチアは、直ぐに最善手を打った。
それは……この場にいる最強の子供、アルフォンスを味方に付けること。
ガキ三人の立場を考えれば、ルチアだけだと……この場で押し勝つには、やや戦力が足りない。
だが、アルフォンスという最強の戦力……キングやエースを越えてジョーカーである彼を味方に付ければ、勝ったも同然。
「そうだね。騎士を目指す者であれば、己の思いは戦いで見せてほしいところかな」
「「「っ!!!! …………」」」
アルフォンスはガキ三人と交流はそこまでない。
ただ、ガキ三人の実家が代々騎士を輩出している家系であることは知っていた。
そんなアルフォンスから「そうだね。あの三人はカッコ良くないし、戦いで勝てないからって言葉に逃げた臆病者たちだね」と告げられ…………結果、パーティー会場にいる子供たちは、ガキ三人に対してどういった言葉を告げれば良いのか即座に判断した。
「…………くっ!!!」
針の筵とは、まさにこの事!!!! と言える状況に追い込まれ、耐え切れなくなった一人の令息が会場から出て行き、他二人も慌てて後に付いて行った。
三人はひとまずトイレに向かったものの、自分たちがどういった状況に置かれてしまったことぐらいは理解していたため、結局再度パーティー会場に入ることは出来ず、いきなり自分たちを陥れた従者候補への悪態で盛り上がる? こととなった。




