第44話 意外と知ってる
「紅茶の味はどうだい」
「うん、美味いね」
アルフォンスが泊っている宿に到着し、一室に入ると……バトムスは「なんじゃこりゃ」という言葉をなんとか抑え、案内された席へと移動。
そこには以前アルフォンスと出会った際に同行していた老執事がおり、バトムスはほっと一安心。
その後、老執事が淹れた紅茶を呑み、その味に舌鼓を打つ。
「「…………」」
美味しいですと、ありきたりな感想を零すバトムスに対して口には出さないものの「本当にお前なんかが紅茶の味を理解してるのか?」といった視線を向けてくる二人の若き従者。
しかし、残念ながら……バトムスはこれまでの経験から、本当に美味い紅茶の味というのを理解していた。
時折アブルシオ辺境伯家の当主であるギデオンの妻から誘われることもあれば、お菓子を作った際に手慣れたメイドたちが淹れることもある。
そしてアストが錬金術に関して教わっている師や、その師の弟子であるエルフも紅茶を淹れるのが得意であるため、なんなら従者二人よりも差を理解していた。
「それにしても、やっぱりパーズ君……マーサルベアの子供と仲良くなったというのが、一番の驚きかな」
「そうだな。俺も、ここ二年の間で一番驚いた事と言えば、パーズと家族になったことだな」
マーサルベアの子供と仲良くなった、家族になった。
そんな二人の会話を初めて聞いた老執事は、まさかの出来事に顔にこそ出さなかったが、心の中では非常に驚いていた。
(マーサルベアというと、あのマーサルベア、なのか? …………バトムス君が、アルフォンス様に嘘を付くことはないだろう。だとしても……ふむ…………やはり、色んな意味でアルフォンス様の傍に居てもらいたい逸材だ)
七歳児がまだ子供とはいえ、Bランクモンスターであるマーサルベアと仲良くなった……従魔にしたという話を聞けば、普通は信じられない。
しかし、老執事は前回アブルシオ辺境伯家を訪れた際にバトムスと出会っており、バトムスがどういった人間なのかある程度把握していた。
対応力や戦闘力が並のものではなく、明らかに他の子供たちとは異なる存在。
できればアルフォンスの執事に……もしくは護衛騎士にと思ったが、これまでの経験上、バトムスの様な子は現在の環境下で生活しているからこそ面白い方向に伸びると解っている。
その為、今でもアルフォンスの執事や護衛騎士に思ってはしまうものの、それが結果としてバトムスの可能性を殺してしまうため、決して声には出さない。
「モンスターと家族、か……うん、やっぱり憧れるところはあるね」
「アルなら、こう…………竜騎士みたいになれるんじゃないか?」
「そうだね。そういう手もあるとは思うけど……どうせなら、僕はこう……自然と出会いたいかな」
卵から育てるというのも一興ではある。
しかし、バトムスとパーズの出会いを聞いてしまったということもあり、アルフォンスとしてはそういった出会い方に惹かれた。
ただ……本人は、まだバトムスと同じ七歳児ではあるが、その難しさをある程度理解していた。
「でも、難しいよね。僕はまだ弱いからさ」
(弱い、ねぇ~~~~……本当か?)
普段から騎士たちに頼んで戦り合っており、偶に騎士候補の同年代の者たちから自分と戦って欲しいと頼まれることもある。
そして相も変わらず低ランクのモンスターと戦り合っており、視る眼は徐々に徐々に養われていた。
そんなバトムスから視て、アルフォンスが弱いとはとてもお前なかった。
「ん~~~~、そういうモンスターが相手なのかにもよると思う、かな。俺の例は、本当に偶々だから参考にはならないし……それと、俺は王城や王族の内情は詳しく知らないけど、あんまりほいほい外に出られないだろ」
「うっ」
クッキーを摘まみながら、痛いところを突くバトムス。
「そうなんだよね……一応、立場が立場だから……うん、難しいんだよね」
「勝手に王城からいなくなったらいなくなったで、誰かが責任を取らされそうだしな」
「……何か良い案はないかな、バトムス」
そこで俺に意見を求めるのかよ!!! と、なんとかツッコまずに飲み込むことに成功したバトムスだが、なんて答えようかと冷や汗が止まらない。
「そう、だな……………………アルのお父……様? とか、その他の人からしたら、やっぱりアルの身が心配な訳だから、何か問題が起こっても大丈夫だよっていう戦力が周りにいれば、もう少し外出はしやすくなるかもしれないな」
「…………つまり、頼れる私兵がいれば良い、という事かな」
「簡単に言うと、そういう事になるんじゃないか。後は…………学園に入学する前にこう……もっと見聞を広げたいみたいな理由で、長期間王城を出て色んな大きな都市を周ってみるとか」
学園という監獄に入学してしまえば、自由な時間を取るのは非常に難しい。
だからこそ、その前であればどうかと提案した。
出来るかどうかは知らないが、それがバトムスから伝えられるアドバイスだった。
ただ、この時……アルフォンスはバトムスから教えてもらった内容に関して、本気で考え込むのだった。




