第43話 まだまだ若過ぎる
「なんつーか、あれだな。バトムスも大変だな」
「そう言ってもらえると、心が軽くなるっす」
朝食を食べ終えたバトムスは昨日と同じく、ルチアの買い物に……付き合わされることはなかった。
その件に関して、ルチアは「一定期間とはいえ、私の執事見習いとして同行するのに……」といった不満を顔にするも、買い物の楽しみが上回ったのか、直ぐに不満の色は消えた。
そして宿に残ったアストの傍には、護衛の騎士の一人であるノステルという二十代後半の騎士が護衛として残った。
「お嬢の買い物に付き合わなくて良いことを喜べば良いのか、それともこれから体験することの方が辛いのか……」
「それ……前半も口にしない方が良いと思うが、後半はもっと口にしない方が良いと思うぞ」
「……ですね~~~」
ノステルも主人であるギデオンから、これから宿に来る人物の正体を聞いている。
(ちょろっと話には聞いたことあったけど、まさか本当に仲が良いとはな……他のガキたちとは違うと思ってたけど、どうやら人を引き付ける力ってのも、他の奴らとは違うのかもな)
数分後、バトムスに手紙を送った人物が宿に到着。
馬車から降り、中に入って来たその人物は……以前、バトムスが出会った貴族ではない高貴な方……第六王子、アルフォンス・レドローザであった。
「やぁ、久しぶりだね。バトムス」
「お久しぶりです、アルフォンス様。変わらずお元気なようで何よりです」
一応……自分でも下手くそだとは思いつつも、それなりに態度でアルフォンスの言葉に応えるバトムス。
対して、アルフォンスとしては以前出会った時と同じく、アルと呼んでほしいと思っているが、彼は決してバカではない。
宿の中には当然従業員がおり、他の客たちもいる。
だからこそ、バトムスは片膝を付いて堅苦しい言葉で自分に接しなければならない。
「バトムスも元気そうでなによりだよ。それじゃあ……早速行こうか」
アルフォンスに促され、バトムスは馬車の中へと入る。
(っ、この場所も空間能力が作用してるのか……もしかして、アルの所有物なのか?)
中の様子を見て驚く友人の姿に、アルフォンスは満足気な笑みを浮かべる。
「この中での会話は、外に聞こえることはない。だからバトムス、以前と同じように喋って欲しい」
「あ、あぁ……解った、アル」
言葉遣いは以前に戻るも、まだ緊張感が残っているバトムス。
理由は……おそらくアルフォンスの執事見習い、メイド見習いと思われる人物から向けられる視線の鋭さ。
バトムスが初めてアルフォンスに出会った際に、アルフォンスの傍にいたのはシャルトと同じく戦闘が行える老執事と、女性騎士。
二人はアルフォンスのバトムスと友人になりたいという気持ちを尊重し、バトムスの態度に関してあれこれ苦言を呈することはなく、態度にも出さなかった。
だが、それに対して今回アルフォンスの傍にいる人物たちは、あまりバトムスと歳が変わらない子供。
未来の執事、メイドとはいえ、大人な対応をするにはまだまだ若過ぎる。
「出会ってから……二年ぐらい経ったかな」
「あぁ、それぐらい経ったな」
「バトムスは、どういった二年を送っていたんだい」
「…………あまり、変わらない二年を送っていたよ。でも、そうだな……大きな変化と言えば、家族が増えたかな」
「家族が…………僕の考え過ぎかもしれないけど、それは弟や妹が生まれた、というわけじゃなく?」
「ふふ、流石アル。本当に鋭いな。実は、森でモンスターを狩ろうと探索してる時に、ゴブリンの群れに囲まれているマーサルベアの子供を見つけたんだ」
「「っ!!」」
「マーサルベア……初めて聞く名前のモンスターだね」
「アルフォンス様。マーサルベアは、ランクBのモンスターです」
従者見習いの二人は驚きを全く隠せなかった。
しかし、執事見習いの男の子はなんとか驚きを隠し、マーサルベアのランクをアルフォンスに伝えた。
F、E、D、C、B、Aと順にランクが上がれば戦闘力も上がる。
そんな中で、Bランクモンスターとは、基本的に上から二番目のモンスター。
そのランクは、子供でも解り易く……超強い存在。
だからこそ、従者見習い二人はバトムスの話を聞き、驚きと同時に疑念、怒りの感情なども湧き上がった。
「その子供はな、どうやら左右で瞳の色が違ったらしくてな」
「瞳の色が……つまり、群れから仲間外れにされたんだね」
「おそらくな。だから、ゴブリンやその上位種にもやられかけてた。そこでゴブリンたちを何とかして、マーサルベアの子供を助けたんだ」
「なるほど。やっぱり、バトムスは優しいね」
「パーズの、あっ、パーズっていうのは助けたマーサルベアの子供の名前なんだけど……助けただけで、後は自分でなんとかしろって放ってはおけなくてな」
それを優しいって言うんだよ……と、アルフォンスはバトムスが恥ずかしがると思い口には出さなかったが、表情には思いっきり現れていた。
その笑顔を見て、従者見習いの二人はバトムスに対し、これまでで一番の嫉妬を覚えた。




