第42話 ドM?
「はぁ~~~~~~、疲れた~~~~~~」
昼食を食べ終えた後もルチアの買い物は続き、夕食を食べ終えた後……バトムスは思いっきりベッドにダイブして寝転がった。
「バトムス君。寝転がるのは構いませんが、執事服を脱いでからにしましょう」
「う~~~っす」
文句を言えば、圧が飛んでくるため、バトムスは言われた通り直ぐに普段着に着替えた。
「あぁ~~~~………………シャルトさん、明日も俺は付き合わなきゃダメなんすか?」
「今回、バトムス君は執事見習いとして同行していますからね」
「……俺、次から執事見習いとして同行する奴に同情しますよ」
「皆、バトムス君の様な感想を零すことはありませんよ」
「えぇ~~~、本当っすか?」
「えぇ、本当ですよ。勿論、疲れは感じてるでしょう。しかし、ルチア様と同行できて本当に良かったと口にしています」
(……なになに、執事見習いの奴らってドМなやつばっかりなのか?)
まさかの情報に、ドン引きするバトムス。
「…………執事見習いの子たちも、男の子ですからね。歳相応にはしゃぐルチア様の笑顔に惹かれるところもあるのでしょう」
「お嬢の笑顔に惹かれる~~~?????」
シャルトの考えは、まさにその通りの予想であった。
執事見習いの者たちは、まだまだ幼い子供ばかりであり、ルチアの笑顔一つで心を弾ませることは何も珍しくない。
ただ……バトムスからすれば、我儘生意気お嬢様のどこがいいのか、全く解らなかった。
(以前から同年代の子供たちとは違うというのは解っていましたが、こういった感覚も同世代の男の子たちと違うとは…………なんとも、不思議な子ですね)
バトムスの表情から、照れ隠しなどは一切なく、本気でルチアの笑顔に惹かれる理由が解らないと……そんな奴らはバカなんじゃないかと言いたいと思っていると、表情から読み取れた。
とはいえ、バトムスもバカではないので、ルチアの容姿が整っているタイプであることは一応理解している。
一応理解はしているが……その上で、無邪気な笑顔に一切惹かれないと断言出来る。
「……まっ、本当に執事になりたいなら、笑顔であぁいうのに付き合える奴らが適してるんでしょうね」
「そうですね。ですが、強さという点に関しては、他の執事見習いの子たちもバトムス君の姿勢を見習ってほしいと思っていますけどね」
「そうっすか?」
「えぇ、そうですよ。勿論、護衛の騎士たちが傍に居ますが、それでも彼らを越えて不届き者が迫った場合、執事が主人を守る盾にならなければなりません」
(シャルトさんなら、盾どころか剣にもなるだろうな)
多くの騎士たちの肉体を見てきたバトムスには解る。
執事服の下には……鍛え上げられた肉体がある事を。
「それなら、頑張って俺と同じ事をしてくれとしか言えないっすけどね」
「……バトムス君から見て、可能だと思いますか」
「そんなの解らないっすよ。マジで、そいつらの頑張り次第じゃないっすか」
バトムスは、戦うことや武器に関して強い興味を持っている。
だからこそ、将来兵士や騎士になりたい者たちがゼーハーゼーハーと膝を地面に付いて休憩してる中、まだまだこっからだと動いて訓練を続けられる。
「なるほど……手厳しい意見ですね」
大人であるシャルトは、元々それは無理であると解った上で、バトムスに意見を求めた。
そして、明確には語らなかったものの、バトムスが何を言いたいのかは……その表情から伺えた。
「? 誰でしょうか」
ドアがノックされ、シャルトは直ぐにギデオンやルチア、護衛の騎士などがノックの主ではないことを把握。
バトムスに動かないようにとジェスチャーを送り、ドアへと向かう。
すると、扉の前にいたのは宿の従業員であり、シャルトに一通の手紙を渡すと、直ぐに別の仕事へと戻って行った。
「ふむ……なるほど」
手紙が入った封筒を軽く見て、シャルトは直ぐにその封筒をギデオンに……もしくはルチアに届けるのではなく、バトムスに渡した。
「えっと…………もしかしなくても、俺に手紙……なんすか?」
「えぇ、そうです。封筒に書かれている通り、これはバトムス君に対する手紙です」
「…………みたい、ですね」
封筒の裏表、そして封印を見て……バトムスは頭が痛くなった。
そんなバトムスの表情を見て、シャルトは手紙の主に大して失礼……とは思わなかった。
なんなら、ほんの少し同情してしまった。
「はぁ~~~~~」
大きな大きなため息を吐きながらも、バトムスは封を開けて中の手紙を取り出し、見落としがないように読んでいく。
「…………………………はぁ~~~」
「何が書いてあったのか、お聞きしても大丈夫かな」
「単純にあれっすよ。お誘いっすよ」
手紙の送り主の名は……アルフォンス・レドローザ。
以前、アブルシオ辺境伯家に訪れた第六王子であり、ひょんなことからバトムスと友人になった王子様であった。




