第41話 断言は出来ない
(あぁ~~~~……執事って、マジでクソだわ)
まだ七歳の子供でありながら、死んだ目をしながら立っているバトムス。
彼の目の前では、ルチアが店の洋服やドレスをキラキラと目を輝かせながら眺め、店員やメイドたちと話しながらどれを買おうか迷っていた。
(ったく、なんでわざわざいくつも店を周るんだよ……はぁ~~~)
ルチアは既に複数の服を購入している。
ただ……この世界では、亜空間の中に物をいれることが出来る道具、アイテムバッグが存在するため購入した服やアクセサリーが入った袋をいくつも持って待機、移動する必要はない。
しかし、バトムスからすれば自分にとっては全く楽しくない散策であり、店内に入ってからも適当にうろちょろ出来ず、待機しておかなければならないため……本当に不満しかなかった。
「ねぇ、どっちが良いかしら!!」
「そうですねぇ……私としましてはルチアお嬢様には」
候補が三つまで絞れた服に対し、ルチアはメイドに対して意見を求める。
「ど、っ………………」
そんなやり取りを見て、過去一ストレスが溜まっていた爆発しかけ、「どっちも似合ってねぇよ」と思わず口にしそうになったバトムス。
だが、さすがにライン越えだと思い、ギリギリで飲み込むことに成功。
(危ねぇ……今絶対に口にしてたら、拳骨落されてたよな~)
もし口にしていたら、ルチアの反論よりもシャルトからの拳骨が先に飛んでくる……というバトムスの予想は……事実。
本当に口にしていれば、シャルトは容赦なく……気を失わない程度の強さでバトムスの頭に拳骨を振り落とす。
(…………でも、これは俺じゃない執事見習いでも、クソ面倒、クソつまらんって思うんじゃねぇのかな)
実際のところ、同行している護衛の騎士は……非常につまらないと思っている。
ルチアの事が嫌いな訳ではない。
バトムスのように通常ならあり得ない感情を持っているわけではないが……長々と自分が全く楽しくない買い物に付き合わされるのは……正直苦痛であった。
逆にシャルトの様なザ・執事はずっとニコニコとした笑みを崩さずに服選びやアクセサリー選びに夢中なルチアを見守っている。
(……お嬢からすれば、俺たちをわざわざ連れ回してる……自分の買い物に付き合わせてるって感覚はねぇんだろうな………………いや、あれか。七歳のガキんちょに理解しろって方が無理な話か)
バトムスは……正直なところ、わざわざ買い物に付き合う意味はない。
護衛という面に関しては、現在ルチアの近くで時折意見を求められては丁寧に自身の意見を伝えているメイドと、シャルトがいれば十分である。
(あぁ~、でも俺もまだ七歳のガキだし……一人で知らん街を歩くのは……ダメなんだろうな)
元は十代前半の男子学生ではあるが、現在は七歳のクソガキ。
普通に一人で出歩くのは難しく、大人が同伴していなければ街中を散策出来ない。
(あぁ~~~~~、早く大きくなりてぇ~~~~)
今の生活に満足していない訳ではないが、それでも自分一人で街中を散策出来ないことに関しては、理由は解らなくもないが……不満は感じずにはいられない。
今日の苦しみも、たった数日我慢すれば良い……それも解らなくはないバトムス。
しかし……脳内に、言うがやすしとはまさにこの事、という言葉が浮かんでいた。
ただルチアの買い物に同行するだけという内容に、少し……まぁあっという間に時間は過ぎてくれるだろうと思っていたところはあった。
だが、実際に地獄の買い物が始まると……時間は遅々として進まない。
(世の中の恋人がいる男たちは、こんな苦しみを乗り越えたり、何度も何度も耐えてるのか? ……いや、あれか。カップルだったら、互いの事が好きだから恋人になったんだから……好きな人とのデートなら、買い物選びがメインでも野郎側は退屈じゃないのか)
バトムスは……残念ながら、前世では彼女いない歴イコール年齢で幕を閉じ、今世でも……今のところ彼女が出来るであろう気配はゼロ。
そのため、彼女がいる野郎たちが長い長い買い物に付き合わされることにどう思っているかは、恐れ多くも断言出来ない。
「よし、次の店に行くわよ!!」
最終的に購入する服が決定し……当然それで終わることはなく、次の店へと向かうと宣言するルチア。
「ルチア様、そろそろ昼食のお時間になります」
「あら……そういえばそうね」
「ですので、席が埋まってしまう前に店を決めた方がよろしいかと」
「そうね。それじゃあ昼食を食べるお店を探しましょう」
こうして、バトムスや護衛の騎士たちにとって、ようやく休める時間に突入。
店選びに関しては服選びほど選ぶのに時間は掛かることはなく、ニ十分ほどで決まり、入店。
執事見習いであるバトムスはルチアが食べ終わった後から……などといった謎ルールなどなく、メニューを見た瞬間……バトムスは美味そうだと感じたメニューを片っ端から注文し始めた。




