第35話 子供らしいリスク
「なんで断らないのよっ!!!!!!!!!」
「……………うっせぇ」
ギデオンから頼みを受けた翌日、バトムスはルチアから大声で怒鳴られていた。
「なんですって!!!」
「うっせぇって言ったんだよ。辺境伯家の令嬢なんだから、もう少しお淑やかにしたらどうだ」
「あんたがそんな態度取るからでしょ!!!!!!!」
因みに、本当にルチアがお淑やかな態度を取れば、バトムスはそれはそれで気持ち悪いと思ってしまう。
「へぇへぇ、そりゃわる~ござんした」
「~~~~~~~~~っ!!!!!!!」
相変わらずバトムスに対しては怒りが常に爆発状態のルチア。
とはいえ、基本的には生意気な態度を取り続けているバトムスが悪いと言えば悪いのだが……アブルシオ辺境伯家では見慣れた光景であり、もう誰も止めようとする者はいなかった。
「…………ねぇ、なんで断らなかったのよ」
「なんでって、ギデオン様に頼まれたからだよ。それはお嬢も知ってんだろ」
ギデオンは「いや~~、バトムスが自分が参加してみたいって頼んできたからさ~~」なんて嘘を付くことはなく、自分の独断で決めたのだと、きっちり娘であるルチアに伝えていた。
「断れば良いでしょ!!!!」
「おいおい、お嬢。お前自分の父親の立場を忘れたのか?」
ルチアの父親であるギデオンは、アブルシオ辺境伯家の現当主である。
後継ぎがいないから仕方なく、もしくは消去法で選ばれた訳ではなく、実力で掴み取った猛者である。
加えて、バトムスは貴族の家に仕える従者と従者の間に生まれた子供。
基本的に、屋敷の主である人物の頼みを断れる人物ではない。
ただ……ルチアもバカではない。
まだ七歳という幼い年齢ではあるが、バトムスが自身の父と何かしらの取引などをしている事に勘付いていた。
だからこそ、バトムスであれば父からの頼みでも断ることが出来ると思っていた。
「あんたなら断れるでしょ!!!」
「いや……まぁ、ぶっちゃけ俺だって最初は断ったよ。立場的には執事見習いではあるけど、それらしい仕事は全くしてねぇし、他にも真面目に活動してる執事見習いがいるじゃないですか、ってちゃんと伝えたんだよ」
「っ…………じゃあ、なんで結局受けたのよ」
ルチアは相変わらずバトムスのが事が嫌いではあるが、他の執事見習いたちと比べて顔を合わせることが多く、なんとなく……直感で嘘は言ってないと解った。
だからこそ、尚更どうして父親からの頼みを受けたのか謎であった。
「あれだ、良い感じの報酬を用意されたからだよ」
「物に釣られたということ!!??」
「そうだよ。無茶苦茶良い物だったぜ? 十日か二十日? 耐えるだけであれが貰えるなら、安いもんだと思えるかな」
「むぅ~~~~!! …………」
「言っとくけど、多分お嬢の小遣いじゃどうしようも出来ねぇと思うぜ」
その報酬と同じぐらいの代金を用意するから、頼みを断りなさい!!!!! といった感じの内容を口にしようとしたが、先に封じられてしまった。
「むむむむむむむ~~~~~~……バトムス、勝負よ」
「模擬戦ってことか? 別にそれは構わねぇけど……あぁ~~~…………それなら、きっちりギデオン様に話を通してくれよ。一応、俺たちの間だけで解決して良い問題って感じじゃなさそうだからな」
「それは……そうかもしれないわね。待ってなさい! 直ぐに話してくるわ!!」
「家で待ってるよ」
基本的に、バトムスはルチアと本気の模擬戦を行う度に、ギデオンから代金を頂いている。
しかし、今回はルチアも被害者であるため、バトムスは結果がどうであればギデオンから代金を頂戴しようとは思えなかった。
「今回だけは、お嬢の気持ちも解るってもんだな~~」
「?」
家に戻り、パーズをもふもふし続けること約十分。
貴族令嬢にあるまじきダッシュでバトムスの元へやって来たルチア。
「おぅ、お疲れ。んで、ギデオン様はなんて?」
「私が、あんたとの模擬戦に勝てば、同行する執事見習いを変えると、口にしてくれたわ」
「……それだけか?」
バトムスは、てっきり何かしらの条件があるかと思っていた。
「………………私が負ければ、三か月はお小遣いがなしってだけよ」
「……あっはっは!!!! そうかそうか。分かった分かった……んじゃあ、移動するか」
子供らしい内容ではあるが、ルチアはリスクを背負うことで、今回の模擬戦を行うことが決定。
二人は直ぐに訓練場に移り、ウォーミングアップを始めた。
「バトムス、今日は休日にするんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだんですけど、色々とあってお嬢と模擬戦を行うことになったんですよ」
「……おいおい、また喧嘩でもしたのか?」
「違いますよ。昨日、お嬢の声が屋敷中に響き渡ったと思うんですけど、それが主な原因です」
「そういえばそんな事があったような……で、それにバトムスが関わってたって訳か」
「ですね」
バトムスは仲の良い騎士にウォーミングアップ相手になってもらい、ルチアも準備完了。
「それでは、二人とも節度を持った模擬戦を…………始め!!!」




