第27話 予想はしてた
「………………」
完成した家に……いや、ちょっとした屋敷に入っていったバトムスとパーズを羨ましげに……恨めしげな表情で見ている女の子の名は、ルチア・アブルシオ。
ギデオンの娘で辺境伯家の令嬢……バトムスと非常に仲の悪い女の子である。
(私も……私も、もっとあの子を撫でたい!!!!!)
まず、ルチアはバトムスが連れて来たモンスター……マーサルベアのパーズに惹かれていた。
元はBランクモンスターと聞けば、まだ幼いルチアも、どれだけ強く恐ろしい存在なのか解る。
ただ……ただ、非常に可愛いと感じていた。
マーサルベアの特徴について知っている者に、その内容を聞いたが……ルチアは一切怯えることはなかった。
親に捨てられたかもしれない……その特徴であるオッドアイ。
それすらも、可愛いという感情を爆発させる要因でしかなかった。
だがしかし!!! パーズはルチアの従魔ではなく、あの……あのバトムスの従魔なのである。
バトムスはキッチリと、怪我だけはさせたら駄目だとジェスチャーも交えて、何度もパーズに伝えた。
故に、恐る恐るルチアが撫でても、パーズは邪険に手を振り払おうとはしない。
ただ、さすがバトムスの友人。
友人の表情から、バトムスはルチアに対して殺したいほど憎い存在だとは思っておらず、強烈な敵意も持っていない。
しかし……同時に、好意も持っていない。
心底嫌ってはいないが、面倒という気持ちが強い。
パーズは生まれてから基本的に嫌悪、殺気などの感情に晒されてきたため、なんとなくバトムスがルチアに対して持っている感情を理解していた。
だからこそ、撫でようとする手を邪険に振り払うことはないが、「はぁ~~~……大人しく撫でられるしかないのか~~~~」といった、バトムスに迷惑を掛けない為に仕方なく……といった表情を浮かべる。
(どうしたら、どうしたらあの子ともっと仲良く…………?)
まだバトムスと同じく、七歳と幼いルチアだが、ひとまず父親のギデオンに頼み、パーズを自分の従魔にしたいと頼み込むのがアウト中のアウトだという事は解っていた。
加えて、確かに自分はマーサルベアのパーズが可愛いと思った。
もっとなでなでしたい、もふもふしたい!!! しかし……それは、必ずしもバトムスの友達であるパーズである必要はないのではないかと。
猪突猛進なところがあるルチアにしては、非常に良いところに気付いた。
(そう、ね……そうよ!!! そうと決まれば!!!!)
何かを思い付いたのか、もう一つ妬ましいと思っていた理由をすっかり忘れてしまい、早歩きで父親の元へと向かった。
「お父様! お話がありますわ!!!」
「……それは、今すぐの方が良いかい?」
「早いと嬉しいですわ!!!」
「…………分かった。書類仕事も一応一段落着いたところだ」
書類仕事を行える仕事に頼み、紅茶を淹れてもらう。
そしてルチアは一口紅茶を飲んだ後、早速本題に入った。
「お父様! 私も……私も、マーサルベアの子熊が欲しいですわ!!!」
「……少し予想はしてたけど、やっぱりそれか~~~」
ギデオンも、なんとなく予想は出来ていた。
ある程度事情を知っていた為、珍しく特大の我儘を口にするかもと思っていた。
「ルチア。結論から言うと、それは無理だよ」
「ッ…………どうして、でしょうか」
冗談交じりではなく、からかい半分でもない。
真剣な表情だからこそ、ルチアは声を荒げて理由を尋ねるのではなく、一応落ち着いた口調で理由を尋ねた。
「まず、マーサルベアのランクはB。モンスターの中でも、非常に強い存在なんだ」
ギデオンの言う通り、一般的にBランクのモンスターというの非常に大きな力を持っており……これだけの戦力があれば倒せるだろうと挑んだ結果、半数が戦死してしまう例も珍しくない。
「それと、そもそもBランクモンスターの数はあまり多くないんだけど、マーサルベアも絶対にアブルシオ辺境伯家が治める領地に生息してるかは解らない」
「えっ……で、でも」
「モンスターは、ずっと同じ場所に住み続ける訳ではないからね」
Bランクのモンスターであっても、事情によってはその土地から別の土地に移動することもそこまで珍しくない。
ただ、問題はもっと別のところにあった。
「それとね、今回バトムスがマーサルベアの子供を従魔にして、友人になったのは本当に珍しい例なんだよ」
娘が、完全に理解出来るかは解らない。
それでも、ギデオンはバトムスがパーズとどう出会い、従魔に……友人になったのかを伝えた。
「まず、こういった出会いはないんだ。本当に偶々偶然……奇跡的な状況で、バトムスとパーズは出会ったんだ」
「……パーズにとって、バトムスは……命の恩人、ですわね」
「そうだね。そして、そういった場面に遭遇できる可能性は、普通のマーサルベアに遭遇できる可能性よりも、圧倒的に低いんだ。こればかりはルチアが七歳でBランクモンスターを討伐出来るほどの実力があったとしても、それだけで為し得られるものじゃないんだ」
「…………ではっ!!」
ルチアは他の案を提案するも……無情にも、それに関してもまず難しいという否定から入られてしまった。




