第23話 やっぱり怖い?
「よし、やるか!!」
アルフォンスが王都へ帰ってから約十日後。
今日は訓練ではなく、狩りに時間を使うと決め、手の空いている騎士に声を掛けて同行してもらう。
「そういえばバトムス。いつのまに王子様と知り合ったんだ?」
「……やっぱり耳に入ってるんですね」
「そりゃな~~。お前が割と社交性が高いのは知ってるけど、相手が王子様だからな~~~……マジでビックリしたぜ」
既に森の中ということもあり、二人の会話を聞いている物はいない。
「本当に偶々だったんですよ。街中を散歩してる時に、偶然目が合って……俺はそのまま離れようとしたんですけど、向こうが声を掛けて来たんですよ」
「つまり、最初に興味を持たれたのはバトムスの方ってことか」
「そういう事になるかもしれませんね。一応、護衛の老騎士っぽい人と女性騎士っぽい人がいたんで、お嬢と同じで貴族の子供かと思ったんですよ」
二人ともがっつりと鎧を身に纏ってはおらず、私服ではあったが……しっかり得物は帯剣していた。
「もしかしたら、アブルシオ辺境伯家に用があって、初めて街に来たのかと思ったんですけど……」
「アブルシオ辺境伯家に用があって、初めて街に来たっていうのも嘘じゃなかった。ただ、貴族の令息っていう予想は外れてて、まさかの国王陛下の息子、王子様だったってわけか」
「そういうわけです。さすがに驚かされたというか、頭が真っ白になったと言いますか……後で部屋を尋ねるって言われて待ってる間、全く何も考えられませんでしたよ」
「なっはっは!!! そんな経験はしたことねぇが、多分俺もバトムスと同じ体験をしたら、同じく放心状態になっちまうな」
男は貴族出身の騎士であり、辺境伯家の令嬢であるルチアの立場も、第五とはいえ王子であるアルフォンスの立場もよ~~~く理解していた。
(バトムスは歳の割にしっかりしてるところがあるというか、考える頭? みたいなのがあるから、余計にビビっただろうな……賢い? ってのも考えものってところか)
しかし、そう考えてみると余計にある疑問が浮かぶ。
「でもよ、なんで第五王子様にはそんなビビって、相変わらずルチア様をからかってるんだ?」
「なんでって…………お嬢は相変わらず小生意気なお嬢だからじゃないですか?」
どの口で他者を生意気だと評しているんだとツッコミたいところだが、なんとなく……バトムスから見れば、そういう存在なのだろうというのも解る。
「……お前みたいな奴がいて、ルチア様はある意味幸せ者かもしれないな」
「やっぱり、貴族の世界って怖いんすか?」
なんとなく想像は出来るバトムスだが、今のところ誰かの従者見習いとしてお茶会などにすら参加したことがないため、そういう怖さを身を持っていた体感したことがない。
「ルチア様ぐらいの歳頃のあれだと…………正直、使ってる言葉とかは、割と歳相応か? けど、ちっと記憶が古いが、やっぱり七歳ぐらいの子供でも、お前みたいに頭の回転が早かったり、やたら……理知的? な奴もいたな」
理知的、という表現に自分で口にした男性騎士だけではなく、評されたバトムスも揃って首を傾げた。
「そういう奴は、やっぱ子供ながらになんか違ぇって感じたな」
「なるほど……つまり、まだこう……貴族特有の恐ろしさ? みたいなのはあまり出てないんですね」
「親の威を借りて威張る奴はいたけど……まぁ、まだ可愛いもんかもな」
心の底から友達だと思える相手がいないのかもしれない。
そう思うと、ほんの少しだけルチアはルチアで苦労してるんだなと思ったバトムス。
とはいえ、これから接する態度を変えようとは思わない。
「っ、ストップだ」
「うっす……結構ヤバめのモンスターでもいましたか?」
「お前一人では、手に余るかもな」
二人の視線の先には、ゴブリンたちのリーダーであるゴブリンリーダーと、多数のゴブリンが……別のモンスターを囲んでリンチしていた。
「ありゃ小熊、だな……モンスターだとは思うが、随分と珍しい光景だな」
「小熊…………」
多数の緑色の小鬼が、小熊……子熊を囲っている。
(親は……親は、なんでいないんだ?)
ゴブリンとゴブリンの隙間から、子熊の顔が見えた。
見えてしまった……その瞬間、バトムスの中で覚悟が決まった。
「……パロットさん。俺、あの子熊を助けます」
「っ!? バトムス、あっちの子熊は子熊で……」
既に騎士として十年近く活動を続けてきた男、パロットは……バトムスが浮かべている表情に、見覚えがあった。
(何度も、見てきた顔だな……しっかし、まだ十歳にもなってねぇ子供がこんな顔をするとはなぁ……やっぱり、騎士にならねぇのは勿体ないって思っちまうな)
何かを成し遂げる為に、覚悟を決めた顔。
バトムスの表情からそれを感じ、パロットは了承した。
「解ったよ。ただし、なるべく自分の力だけでやってみろよ」
「うっす」
当然と言わんばかりの表情で頷き、バトムスは懐から短剣を取り出し、握りしめた。




