第19話 祖父の心配
「? はい、どうぞ」
ノックの音が聞こえ、ベッドから降りて入室しても問題無いと返す。
アルフォンスたちが入ってくるのか……そう思っていると、ドアをノックした人物は祖父のゼペルだった。
「じいちゃんか……もしかして、色々と確認しに来た感じ?」
「理解が早くて助かる。心配しなくても良い。怒りに来たわけではない」
「それは良かった……うん、良かったよ」
怒られる訳ではない。
それは良いのだが、緊張するイベントが消えたのではない。
「さて……まず、アルフォンス様とどこで出会ったんだ」
「本当に偶々大通りで……こう、偶然目が合っただけだったんだ。でも、俺の方がちょっと凝視しちゃったとは思う。一緒に居た人が初老の男の人と、二十代前半の女性だったから、もしかしたら豪商の息子か貴族の息子かと思って」
「そうだな。確かに、そう考えてしまうのも無理はない」
「その後、俺は直ぐにその場から移動しようと思ったんだけど、アルフォンス様の方からこっちに来て、話しかけられて……初めてこの街に来たから、街を案内してほしい的なことを言われて……後、なるべくフレンドリーに話してほしい的なことを言われたかな」
「そうか…………なんと言うか、うむ……あまりこう言うのはあれだが、災難だったな」
王族との出会いを災難というのは、王家に対する不敬罪と捉えられてもおかしくない。
だが、先程までアルの正体がアルフォンス・レドローザ……第五王子だと知って頭真っ白の放心状態となっていたバトムスとしては激しく同意だった。
「正直、王族の方だとは思わなかった……って言うか、なんで第五王子のアルフォンス様がうちに?」
「バトムス、お前もなんとなく解るだろう」
「いやぁ……えぇ~~~~~。マジで、お嬢がアルフォンス様の候補に入ってるってこと?」
「うむ、その通りだ」
「……頭が良くて、見た目なんて上限突破してて、ほぼ平民であろう相手にもあんなフレンドリーに接する優しさがあるのに……女性を見る眼はないのかぁ」
「こら、バトムス。思うのは勝手だが、それを公の場でくちに出すんじゃないぞ」
「は~~~い。んで、とりあえず俺がアルフォンス様と出会って知り合った経緯はこんな感じだよ。普通っちゃ普通……なのかな?」
「始めて出会った子供同士が仲良くなる流れとしては、そこまでおかしくはない、な………………」
「? じいちゃん、俺の顔になんか付いてる?」
「いや、何も付いていない。そのままアルフォンス様と会っても問題無いだろう」
ゼペルは一つだけ不安な未来が脳内に思い浮かんでいた。
アルフォンスがバトムスに声を掛ける際、迎える側としてあの場にゼペルもいた。
第五王子であるアルフォンスが、声を弾ませながら孫であるバトムスに声を掛けるところを見ていた。
(間違いなく、友人に近い感覚……少なくとも、アルフォンス様はそう思っていそうだ。そうなると…………やはり、誘われてしまうか?)
バトムスにその気がないとしても、一応バトムスは立場上、執事見習いではある。
仮に第五王子であるアルフォンスから自分の執事にならないかと誘われれば……辺境伯家に仕える筈だった未来から、第五王子に仕える執事へと大出世。
それが世間一般的な認識であり、バトムスも本人もそれは解っていた。
とはいえ、バトムスは祖父であり、まだ現役の執事であるゼペルから見て、素質や思考力の高さ……興味を持った分野に対する継続力には目を見張るものがあると認めていた。
では、執事に関する才、素質はあるのかと問われれば……苦笑いを浮かべながら、それはないと答える。
有事の際は主を守るために戦う。
そこに関しては合格点を与えられるが、礼儀正しさやマナー、責任感や忠誠心……バトムスはそういった部分に感心がない。
(仮にバトムスが本格的にアルフォンス様の執事になるために王城へ出向いたとして…………うむ、間違いなく他の執事見習いたちと衝突するだろうな)
当然、よろしくない衝突である。
バトムスはアブルシオ辺境伯家の令嬢であるルチアには無礼な態度を取りまくりではあるが、祖父や両親の雇い主であるアブルシオ辺境伯の立場に関しては考えて行動出来る。
ただ……そこにも限界はある。
限界が壊れてしまえば、後は子供らしく拳でやり合うことになってしまう。
(……贔屓目抜きにして、同世代の子供たちが、バトムスに勝てるイメージが湧かない)
身体能力や魔力量が頭二つ三つ飛び抜けている、といったものではない。
バトムスの同世代よりも優れてる点は、戦闘に対する考え方。
ただ倒すのではなく、倒すまでの過程を考えることが出来る。
それでいて、日々戦闘の訓練だけはサボらず行っているため、身体能力や魔力量も並ではない。
(加えて、口も良く回ると来た……………………決して落としたい訳ではないが、その時が来れば、無礼だなんだと言われようとも、止めなければな)
全てはアブルシオ辺境伯家の為にと、ゼペルはひっそりと覚悟を決めた。




