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143.中立

 「欲しいですか?」



 バロピエロの手が懐に消える。目を奪われていたことに後悔した。開ける気など初めからあるはずがない。期待を裏切って、絶望する姿を見たいだけだ。バロピエロの声が弾んで告げる。




 「ジークは君を生きながらえさせるのですよ。苦しみに留めたままね。幸福を絞り取れるだけ絞り取り、君に絶望を注ぐ。あとは、君が息絶えて砂になったらそれを私が地獄に振りまけば終わりですね」


 目的は達成されたのではないのか? 理解しがたいが、まだ、事は終わっていない。まだ、ジークがバロピエロに依頼していることがあるのか?


 「何をするって?」


 バロピエロの薄い唇がめくれ上がる。座り込んで顔を近づけ、二人だけの秘密と、言うように微笑む。

 「悪魔の体は、死ねば灰になります。それを地獄に送るということは、死後も、魂は拘束され、地獄をさまよい歩くことになります」



 冷たい汗が背中を湿らせていく。死んだら、それで終わりではないのか。死後の世界がどうなっているか、知らないが、行き着く先は、あのジェルダン王のいた地獄に決定なのか。永遠にさまよい、苦しみから解き放たれることはない。永遠に。



 胸が苦しい。痛い。これ以上ないってほど痛い。でも、死んでも、これは始まりにすぎないのだろう。あえいだ。もがいた。苦しい。誰か助けて欲しい。誰か!


 「もうすぐ一分ですね」


 ダイヤモンドの腕時計を見つめて、バロピエロがそのときが来るのを待つ。このまま看取られて死ぬなんてごめんだ。永遠にさまようのも嫌だ。もう少し、後少し、生きていたい。心臓の音が弱まっていく。


 (待って。お願い)


 黒い血が鼻につくようになった。かなりの量が、床を満たしているのだろう。視界がかすんで、バロピエロを睨むことも困難だ。とうとう死ぬ。



 グッデとの思い出に浸って死にたかった。だけど、バロピエロばかり浮かんで来る。


 初めて出会ったときは何食わぬ顔で親切を装い、赤い液体の入った「魔法が使えるようになる薬」をくれた。その後、ゴーストタウンで、生贄にされかけた。城では、トランプを引かせ、みんなと離れ離れにさせ、今は僕が死ぬことを待ち望んでいる。これが、ゲームか?


 これが、ジークから受けた依頼か? ことあるごとに依頼だ。どこが中立だ。誰からでも仕事を引き受けると言ったのは嘘だったのか? ジークに従っているだけではないか!


 激しくむせて、思考できなくなると、どうでもよくなってくる。これまでのことも。バロピエロもが、傍らで見ていても気にならなくなった。


 中立。誰からでも引き受ける何でも屋。もやがかかった言葉が頭に鳴り響く。自分の願いも叶えてくれたらいいのに。









 消えかけた火が灯るように、全身に温もりが駆けた。息を飲んだ。これまで、気づかなかった。大きな勘違いを犯している。死ぬ今頃に気づくなんて。これは、賭けだ。

 「待ってくれ」


 何でしょうと不思議がるバロピエロに、最期の声を振り絞る。

 「依頼する」


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