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135.血塗り

 この際、グッデを気にせずジークと正面からぶつかりたい。だが、そうさせてくれなさそうだ。グッデと戦えというのか?


 そんなことできるはずがない。二度もこの手で殺すことなどできない。それを知ってのことだろう。ジークは苦悩する僕の姿を見たいのだ。


 「僕を殺したいんなら、自分の手でやった方が楽しいんじゃないのか?」



 皮肉を込めてなじった。考えものだろう? ジークの楽しみ方からすれば。


 こいつの戦いは戦いではない。ゲームだ。どう楽しむかが大切なのだ。殺すことより殺し方が重要なのだ。これには傍観者きどりのジークも、自ら躍り出る。



 「なるほど。オレの手にかかって死にたい、か? いや、恐れ入るな、その勇気。でも、オレだって考えがある」



 黒い爪が向けられたの僕ではなく、グッデにだ。驚いたことにこの状況でグッデが笑っている。死が恐ろしくないのか? それとも、そこまでジークに服従するのか。


 「オレに従うのが嫌なら、グッデを殺してもいいんだぜ。こいつは忠実だ。お前を殺すこともいとわない。逆に、オレが死ねと言えば、自ら望み、喜んで死ぬ!」


 ジークの狂った笑い声。グッデも共に笑っているなんて悪夢だ。まだ夢だったらましだろう。これは現実だ。


 「さあ立て。しっかり味わってもらうぜ。苦痛も恐怖もな」


 放たれたグッデが歩み寄ってくる。自分も立ち上がる。みすみす殺されるわけにはいかない。だけど、グッデとは戦えない。罪は繰り返してはならない。


 大きく踏み込まれ、間合いが失われる。ジークを殺すための魔法ばかり覚えたのが仇となって、殺したくない相手と戦う呪文が分からない。


 グッデの拳が眼下を通り過ぎた。戸惑いが生じて動けなかった。蹴ることさえためらうなんて自分はどうかしている。


 血の味が口に広がる。息ができない。床にぶつかると思ったとき、かろうじて手をつく。意識が飛びかけた。


 「立て。まだ立てるだろ?」

 冷酷にも休む暇を与えるつもりがないらしい。グッデを脅しに使われては不本意でも立ち上がるしかない。ジークはただ獲物を狩るような他の悪魔と同じではない。なぶり殺しにするつもりか。


 「ほら早くしろ。グッデを二度も殺していいのか?」


 胸をえぐる痛みは限界を越える。過ちは避けなければならない。気づけば体に鞭打って立っていた。


 ちょっとでも動くと鈍い痛みが激痛に変わる。僕が立ったのを見届けるとジークはお決まりの笑みだ。後はグッデにわずかな希望を抱くしかない。儚すぎる願いだが。


 「元に戻ってくれ。こうなったのも全て僕が悪い。だけどグッデまで悪魔にならないでくれ!」


 笑ったようにしか見えなかった。拳が大砲のように体を貫いた。声も出せずに口から血がとめどなく溢れていく。それも(ダーク)(カラー)の血だ。



 「グッデは効果あったな。誰も抵抗するななんて一言も言ってないのに。グッデと戦えともな。自分の弱さが身にしみるだろ。苦しいか?」



 今の拳はグッデでのではなかった。とんだ勘違いをした。やはり最後は自分の手で始末したいのだ。ジークの拳が体にねじ込まれる。うめき声しか出ない。どう抵抗しても逃れられない。

 「ハッハッハそれでいい。いい子だ」


 倒れそうになるのをジークに支えられる。白い髪が視界にかかる。冷たい腕が体を包む。ひしひしと死が近づいてくるのを肌で感じる。耳元で自分に取りついた死神の声がする。死の宣告から逃げられない。



 「こんな近くで悪魔魔術を食らったことあるか?」


 ジークはまだ魔術を一つも出していない。悪魔魔術を使わなくてもお前を殺せるとでも言う態度を取っていたので油断していた。壁に掛かったロウソクの光を受けて、ジークの爪が光る。


 突き刺すのか? 引き裂くのか? それとももっと恐ろしいこと? 振り下ろされる。目を反らし息を止めた。冷たい液体が体にかかった。氷のような冷たさにビクンと背中が跳ねる。



 これが死か? 痛みが感じられない。どうなっている? ゆっくり目を開けると、虚ろなジークの瞳と出会う。頬に黒い血がついている。首から出血しているのは、ジークだ!


 「自分を刺したのか」


 一瞬とはいえ相手の身を案じたことを後悔した。こいつは根っからいかれている。舌を出し、笑い狂ったと思えば、血まみれの手で僕の胸から腹に塗りたくってきた。一体何を考えている。



 冷たい血が服を黒に染め上げた。何が始まるというのだ。ジークの首の傷は塞がっていく。

 「悪魔魔術、血塗り」


 寒気がしびれに変わる。ゆっくり体内に広がる冷気。血が、肌から染み込んでくる! 胸が締めつけられる。呪いと反応し合って、鋭い痛みが広がる。



 「くそ」

 手足までしびれてきた。どんな悪魔魔術だ。殺すんじゃなかったのか。倒れそうになる僕の体を、支えたりして。



 「どうだ? 他の奴らと一味違うだろ?」

 確かに何か違う。体の奥まで痛みとしびれが滲み出す。骨の中まで電気が走った。


 「うああああ!」

 血がきれいさっぱり服から消えた。ということは全て体内に入ってしまったのか。ジークの血が体を侵食する!


 百本も針で刺されたかのような頭痛に悲鳴を上げた。暴れないよう肩に回されたジークの腕を必死に振りほどこうとする。だが、上手く動けない。無理に動かせば骨が折れそうだ。


 「まだ殺さないさ。骨の髄までむしばんで自由を奪っただけだ。お前は壊れるまで苦しまないとならない」


 好き勝手に語る男だ。ただでも頭痛がするのに、怒りで熱も出てきそうだ。

 「誰がそんなこと、決めたんだ?」


 ジークに決める権利があるだろうか? あるわけがない。


 「そういう運命に導いてやったんだ。オレには分かるぜ。身に余る苦しみに、お前は耐えられない」


 寄りかかっていると、腕で首が絞まった。しびれる足を何とか立て直すが、体の内側から張り裂けそうな痛みが膨れる。暗示するような言葉がまるで呪いの呪文のようだ。



 「やがてお前は、自ら『死』を望むようになる。そのときに検討してやるよ。お前の『死』について。それまでは奴隷のようにかわいがってやるからお前は、思う存分オレを憎悪しろ」



 不適な笑みが、品定めするように降りてくる。どこから手をつけようか。どこから裂いて欲しい? という声が聞こえてくる。


 鋭い瞳孔から自然と言葉が伝わってくる。ゲリーと違って、口だけで言い包められるような相手ではない。


 悪魔の中の悪魔とでも言うべき存在、実力がまじまじと伝わる。それだけでも、拒絶したい要因だが、悪夢は終わらない。


 「グッデ。こいつのはらわた引きずり出せ」


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