ロール18。家に帰るまでが運動会って言うけども。 1転がり目。
「あの、リョウマさん」
「なんだ?」
「冒険者の依頼と言うのは、たとえば物を頼まれた時に
目標の数以上を持って帰ってもかまわないんでしょうか?」
「なんだ突然」
「リョウマさんたち全員が集合した時、御守の数が多すぎたら、
多すぎた分はどうするのかなーって」
「そんなこと心配するのか?」
驚いた。友好的だって言うのはこれまでの態度でわかったけど、
取りすぎた分の依頼品のことを気にかけるほどなんて思いもしなかった。
恐ろしいお人よし……じゃない、お竜よしだな。
「もし誰の役にも立たせてもらえないなら、
数は頼まれた数ちょうどにしてほしいな。って思いまして」
「誰の役にも立たせてもらえない……捨てられる、ってことか?
流石にそれはないと思うけどなぁ」
なるほど。御守を持って行った冒険者のことじゃなくて、
御守そのものを心配したのか。不思議な感覚だな、それ。
「捨てる、って。どういうことですか?」
「どういうこと……ううん。どう説明したもんかなぁ?」
問いかけ方は普通の調子だ。捨てるって言う動きを説明する、か。
つまり、逆に言うとゆるさんは捨てるって言う動きを知らないってことになる。
自然界に捨てるって言う概念が存在してないのか?
「そうだな。いらなくなった、役に立たなくなった物を捨てる……
えーっと、決まったところにまとめて置いておく。かな?」
「まとめておいておく。人間さんが不要になった物、
それは他の生き物が必要としているんでしょうか?」
「そうだなぁ。鳥が物によっては巣の材料にするってのは聞いたことあるけど、
他の生き物は利用するのかわかんないな」
「そうですか。まったく誰にも使われなくなってしまわなければ、
それでいいです」
「人間以外の世界に、無駄はないってことか?」
「無駄。たしか、やっても意味のないこと、でしたか。
どうなんでしょう? 人間さんの感覚でなにを無駄とするのか、
わたしにはよくわかりませんので」
「そっか。そうだよな。しかし、
あくまでこっちに寄せた感覚で話そうとするんだな。
面白い竜だな、ゆるさんは」
「それが、人間さんと仲良くしていくコツだと思っていますので」
「別の種族に感覚を寄せる。たしかに、違うまま話をしてるんじゃ、
わかるものもわからない、か。そうかもな。けど、それ。
そうできることじゃないぞ。人間同士でだって、できることじゃないからな」
「そうなんですね」
「ああ、特に人間相手の場合はな」
「そうなんですか?」
「ああ。寄せたとして、その人が
寄せた感覚と似た物を持ってるとは限らないからな」
「そうなんですか?」
一回目は単純な疑問符、二回目は驚きの疑問符だ。
「人間ってのは、動物なんかとは違って 育った状況によって
極端に感性がかわるもんだからな」
と、生意気に言ってはいるけど、短い前世界人生の
学校生活と同じ宗教内でも派閥が違うだけで、
平然と殺人が起きてるって言うニュースを参考に舌だけのことだ。
「そうなんですか。人間って、難しいんですね」
継承がついてないところを考えると、これは種族全体のことを刺してるんだろうな。
「ああ、幸い俺がこの世界でかかわって来た人間は、
感性は違えど攻撃性の高い奴は少なかったから、
たぶん俺 今無事なんだろうと思う」
「そうですか。でも、リョウマさん」
「なんだ?」
「動物やモンスターだって、育った環境によって
体の性質とか考え方はかわりますよ。流石に同族同士、
群れ全員の命を潰しあうようなことはしませんけど」
群れ同士を全滅させ合う。おそらくこれは、
戦争とか抗争なんかのことを言ってるんだろう。
「……だろうな」
育った環境で体の性質がかわるって言うのは、
RPG知識でではあるけど 同じモンスターの上位主が
初出マップより後に出て来るところで納得はできるから、
そこには驚かない。
「って言っても、わたしが実感を持ってるのはこの山のことくらいなので、
他のところのことは話に聞いただけなんですけどね」
柔らかにそう言うゆるさん、苦笑って感じはしないな。
俺もそれについては似たようなもんなので、
「俺もそうだよ」と軽い調子で答えた。
「世界を把握しきるのなんて、神様ぐらいにしかできませんよね、きっと」
にこやかな声色で言うゆるさんこと竜王ブルカーニュに、俺は
「神様でもできるもんじゃないぞ。少なくとも俺が知ってる神様じゃあな」と
笑みを返した。
「そうなんですか?」
「ああ」
「改めて思います。すごい人間さんですよね、リョウマさんは。
神様と知り合いだなんて」
「そうだな」
褒められた知り合い方じゃないけどな。
「つきました。一番近い御守の場所です」
足を止めたゆるさんは、そう言った。
「なんだよ。でかい岩が一個あるだけじゃないか」
正面には妙にツルツルしてそうな、とても自然にできたとは思えない岩がある。
高さはだいたい1mぐらいだろうか?
「こっちです」
言うとゆるさんは、岩の右側に回り込むように足を進めた。
ので、それに続く。
「……なんだこれ?」
ここは岩の右サイド。岩って言っても半球ベースでゴツゴツしてるんじゃなく、
下弦の月型のプレートを、岩風に仕上げた物って感じの形をしている。
俺が衝撃を受けたのはそのプレート型に加工されたようになってる岩の、
その横から見た時の中央部分だ。
あつらえたように、御守を複数差し込んでおけるように
えぐり取られている。
「みんなで作りました。取り易いでしょ?」
「いや、まあ。取り易いけど……これ、
つまりモンスターの爪やらなにやらで作ったってことだよな?」
「はい。爪や拳、形を整えるのには、炎ブレスも使ったりしました」
「そ……そりゃ、大仕事だったな」
あまりのこだわりに、苦笑から出た声が若干震えてしまった。
「あれ、なんか歯抜けだな」
御守を刺してあるくぼみは等間隔で仕切りがあって、
一つ一つをきちんとわけておけるようになってるんだけど、
今ここの岩の御守は二つ抜けがある。だから歯抜けの印象になった。
そしたらゆるさんがクスクス笑い出した。
なんか、おかしいこと言ったのか俺?
「はぬけ、フフフ。はぬけってなんですか」
歯抜けって言う言い回しが面白かったらしい。
「ここみたいに、全部揃ってるはずのところが
ちょっと抜けてる状態のことを歯抜けって言うんだよ。
ほら、この隙間。歯が抜けたみたいだろ?」
御守差しを指差して示す。
そしたら、
「あははは、ほんとですね。歯が抜けたみたい、あはははは」
右の前足を地面にバシバシ叩きつけながら、大笑いしている。
「……そこまで笑うかねぇ?」
ゆるさんの笑いが収まるのを待って、話を切り出すことにしよう。
モンスターの感性、わからんなぁ。
「ふぅ、ふぅ。ごめんなさい、お待たせしました」
まだ息が整ってない様子だけど、とりあえず笑いは収まったらしい。
「ああ、うん。いいんすよ、あはは……」
乾いた笑いが出てしまった。
「で、なんでここ。歯抜けなんだ?」
「え、あ、はい。たぶん、ですけど」
笑うのこらえてる。歯抜け、どんだけ面白いんだよ。
笑いのツボに追撃したつもりはないぞ……。
「ここ、昨日エルさんとユイハさんにあげた御守があったんじゃないでしょうか?」
「ああ、なるほど。で、俺もこっからもってってもいいのか?」
「勿論です。そうじゃなかったら、ここで立ち止まりませんから」
「あ、ああ。言われてみればそうだな」
恥ずかしいこと聞いちまったなぁ。
「どうしたんですかリョウマさん、顔赤くなりましたけど?」
「い、いや。なんでもねえ。んーじゃあ、そうだなぁ」
ささっと話を切り替える。
岩に並んでる護札の数は、
ざっと見て見える範囲でも抜けてる二つを数に入れて八つか。
特に付与効果の指定はなかったけど、
おそらく鑑定するまで硬貨がわからないんだろう。
ここら辺は狩りゲー知識で予測しても外れてはないと踏む。
「てきとうに見繕ってー」
一つ、二つ、三つ。これぐらいでいいか。
他のメンバーがいくつ確保してるかはわかんないけど、
等分して一人三つ。オーバーしてたらそれはそれでよし。
少なかったらまた取ればいい話だしな。
「それだけでいいんですか?」
「ああ。他のメンバーもいくつかずつ確保してるだろうからな。
あんまり多くても扱いきれないんじゃないかと思うし」
「そうですか。必要以上に取らないようにする辺り、
やっぱりあなたたちは人間さんですね」
また、柔らかな声で言う。
「いい人、か。ありがとな、そう思ってくれて」
俺も柔らかに返した。
「あの、リョウマさん」
一つ笑みで答えたゆるさんは、改まった感じで切り出した。
「なんだ?」
問い返した俺に、ゆるさんは思いがけない言葉を返して来た。




