ロール17。ゆるさんとゆるゆる登山。 3転がり目。
「ほいっと。これなら骨は大丈夫?」
「え、あ、ああ。まあな」
「で、んーっと。体重をかけてく感じにすればいいのかな?」
「それ、壁際じゃないと押し倒すことになるからな」
巨木に体を押し付けられ鬼娘に体重をかけられ。
鬼娘が力加減間違ったら押しつぶされかねないのが、なんともデンジャラスである。
幸い力加減はベルクのお遊びホールドと大してかわらないので、
俺の体がぺちゃんこになる心配はなさそうでほっとする。
ーーなるほど。ベルクに比べると反発力は弱めなんだな。
その分俺の体が、鬼娘の顔に近いとこまで埋まってるか。
鬼娘の前のめりな体勢もあるだろうけど。
……なんぞと冷静に百鬼姫の胸の感触を分析してる俺は……
いったいなにをやってるんだろうね?
「あ、あれ? 目が虚ろになってる」
って。近い近い! もうちょっとでくっつくぞ、顔と顔っ!
角のおかげで遠慮してるっぽいけど、こいつに角なかったら危ういぞ。
百鬼姫にファーストキス泥棒されるんなら、
別にかまわんけど、かわいいし。
って、なに考えてんだ俺はっ?!
「今度は目カっって見開いちゃった。締め付けすぎたかなぁ?」
俺の心情なんて知る由もない鬼娘は、
戸惑ったような調子と表情でそう言うと、俺から離れた。
「やれやれ、ようやく終わったか」
溜息交じりになってしまった。鬼娘の顔が近くて、
ハートビートのテンポが上がったせいでな。
「まったく、お前らの知識欲と探求心には溜息が出る」
本音を吐いた。心臓に悪いぜ、とひとこと添えて。
「んー。顔が真っ赤ねぇ。なんでかなー?」
「お前、そのからかい顔。わかって聞いてるだろ」
「さーてねー」
「ったく、人が仮眠を取ろうって思ってたところに、あんなことしやがって。
寝かせねえ気だったろお前ら……」
「あれ、そうだったの?」
俺の右隣の位置に戻りながら、
「だったらどっちかに抱きしめられた時に寝ちゃえばよかったのに」
と言う無茶を言って来たベルク。
「あんな一瞬で寝落ちられるほど疲れちゃいない」
手足投げ出しポーズに戻って、ぐだっと答えた。
「寝たいくせに、口は元気だね」
クスクスと、実に楽しそうな百鬼姫に、
おかげさまでなと投げつけるように溜息交じりに返した。
……なんか強い視線を右から感じるなぁと思ったら。
エルの奴が、おもっっきしガン見してた。
「見世物じゃねえんだけどなぁ」
その視線に苦笑いで言葉を返す。
「だって、いきなりぎゅうってしてるんだもん。それも変な理由で。見ちゃうよ。
おっぱいっておっきいと抱き着いた時にどうなるのか気になるし」
「それ、絶対後半が理由だろ」
コンプレックスがゆえなのか、それとも純粋な興味だけなのかわからないけど。
エル、よっぽど巨乳が気になるらしい。男子かこいつは、と思うほどに
興味津々である。
「仲良しさんですよね、リョウマさんたち。
お二人はあんまりお話してませんけど、リョウマさんたちとは
仲良しさんなんですか?」
ゆるさんは穏やかに、レイナとリビックに尋ねている。
「わたくし、ベルクローザさんやナキリメさんほど喋る方ではありませんので、
こういう風なやりとりはありませんけれど、中はいいですわね」
「ぼくもそうだね」
「そうなんですね」
こっちのハイテンションガールズとはまったく逆の、
ほんわかテンションの右側を、思わず軽睨みしてしまった。
ん? 今右の方から、「いいなぁ」って言うちっちゃななよい声が聞こえたな。
リビックよ。たぶん、俺がレイナのハグ魔法でハグ慣れしてると思ったから、
俺にホールドいたずらして来たんじゃないかと思うぞ。だからたぶん、
お前にはやらないはずだ。ご愁傷さまって奴だな。
……別に俺、ハグ慣れしてるわけじゃないんだけどなぁ。
***
「ん」
目が覚めた。どれぐらい寝ただろうな?
太陽の光の角度が動いてるところからすると、
少なくとも時間単位で寝たみたいだな。
「……ん?」
ちょっとまて? 人の気配がない。
「……まさか?」
辺りを見回して出た答えは、
「あいつら。置いて行きやがったな」
これだ。
そう、誰もいないのだ。
誰も……いないのだっ!
ーーが。一つ、違和感がある。
「なんか、乗ってるのか? お腹の辺りがぽかぽかする」
ちょうどいい温度だ。ぼんやりしてたら二度昼寝しかねないほどの
ここちいい温かさ。
「いったいなにが乗って……」
視線を落として確認。その結果、俺の目に入ったのは。
「ぁ??」
変な声が出た。決して腹が立った系の「あ?」ではない。
困惑して意識せずに出てしまった系の、ニュアンスとしては「え?」である。
俺のお腹の辺りに乗っていたもの。それは……。
「あんたもお昼寝中か、竜王様」
丸くなってすうすうと、人間みたいな寝息を立てている
ゆるさんこと、竜王ブルカーニュだった。
「むちゃくちゃきもちよさそうに寝てる。……起こしづれー」
さて、どうしたものか。二度昼寝してもいいけど流石になぁ。
つうかなんで置いてったあいつら!
鬼だろ! 薄情だろ! 理不尽だろっ!
「んー。そんなにたたかなくても……んにゅう」
力の抜けきった、実に眠たそうな……と言うより、
まだ半分以上寝てるような声がした。
「あ、いけね」
おいてった面子への怒りが行動に出ちまったらしい。けど、
怪我の功名とでも言おうか、ゆるさんが、
ぼんやりと目を覚ましてくれたようだ。
ーーこのドラゴンが二度寝しないタイプの奴なら、だけど。
「ああ、りょうまさん。おきたんれすね」
実際見たことはないけど、亀が甲羅から首出すのって
こんな感じなんだろうなぁ。まるまったまま、
モゾモゾと首だけを伸ばして言ったゆるさんを見て、そんなことを思った。
「そのまま返す。起きたんだな、竜王様」
つっても滑舌がおぼつかない辺り、まだしゃっきりしてないようだ。
……って。目がとろっとろにとろけてるわ。
こいつ、まさか低血圧系ドラゴンなのか?
それとも、これがフォニクディオス最強の余裕なのか?
「水飲むか?」
自分の目覚ましに水を飲むつもりなので、ついでで言ってみた。
「んー?」
駄目だこいつ、よくわかってねえ。
「そんならそうだなぁ。水ぶっかけてやろうか?」
この方が手っ取り早そうなので、提案内容を変えてみる。
人間だってしゃきっとするのに顔洗うんだし、
この提案は間違ってないだろう。表現は荒っぽいけどな。
」んー」
駄目だ。こいつの返答聞いてたら話が進まねえ。
「とりあえず、っと。あったあった」
自分の右サイドに置いておいた水筒を手探りで発見、
手元に持って来る。そのまま開封してゴキュゴキュっと
一息分飲んだ。
「ふぅ。とりあえずすっきりしたぜ。さて、次は。と」
視線を落とす。モゾモゾ動かれると、正直くすぐったいんだがこの竜王、
寝足りないのか首をだらんとさせて目を閉じてしまいやがった。
こいつ、また寝るつもりか? そうはさせんぞ!
「起きんかコラー!」
思わず水筒を、ゆるさんの顔面真上にもってって逆さまにしていた。
「ひゃぁぁぁっっ!!」
寝耳に水括弧物理じゃ、さしもの竜王様もこの悲鳴である。
「ぐぁっっ!」
が……その結果。びっくり反射で翼を広げたゆるさんから因果応報、
俺の鳩尾に広げた翼が叩きつけられた。
「あ……が……! こんな……反撃が、こようとは……!」
予想外に来た打撃に声が詰まった。きつい……これはきついぞっ。
「なにするんですかっっ!」
「お 前 が、二度寝 しようと したから、起こした んだよ っ」
「もっとほかにあるじゃないですか起こし方っ!」
「なかったから、強硬手段に、出た。
おかげで、水筒が、空に、なっちまったよ」
「むうう……!」
「むくれるんなら、この 状況下で、二度寝を、するな」
少しずつ呼吸が戻って来て、声にも余裕が出てきた。
「ううう……」
へこんだ様子。が、話を進める。
「で、しっかりと目が覚めたところで一ついいか?」
「なんですか?」
ゆるさんの側も調子が普通に戻ったな。
「この状況。説明してもらえないか?」
俺とゆるさん以外誰もいないと言う、
不可解且つヘイトな行動を取られているこの状況。
理解してそうなのは、まだ俺の足に乗っかってるゆるさんだけだ。
説明を求めるのは当然だろう。
「時間短縮のためだそうですよ」
「時間の、短縮?」
「はい。エルさんがいっしょにいるので、のんびりしすぎるのも悪いから、って」
「中腹来るのにだいたい二時間、そこからお札探索、更に下山。
たしかに、いつまで寝てるかわからない俺が起きるの待ってたら日が暮れるか」
「にじかん?」
「……あ」
しまったぜ。
時計があるにもかかわらず、一日の細かい区切りの表現があるのか
未だにわからないこの世界で、明確に時間を区切ってる
俺の発言は不可解だったか。
いや、こいつの場合それ以前に、細かく一日を区分けする意味が
そもそもなさそうだから、時間についてはそこまで気にならないのかもな。
一日を細かく区切るのは、あくまで人間の習慣だろうし。
「ともかく。ゆるさんを残したのは道案内のためだな」
むりやり話を動かす。現状の理由がわかってしまえばヘイトはないし、
ゆるさんだけを残したことに合点が行った。だから言い切った。
「そのとおりです」
読み的中っ。
「動けるか?」
「大丈夫です。水バシャーってされて、すっかり目が覚めましたので」
「よし。んじゃ、いくか。目覚ましの運動代わりに」
「そうですね。それじゃ、ついてきてください」
言ってからぴょーんと俺から飛び降りると、
そのままトコトコと歩き出したゆるさん。
「ほんとにすっかり目が覚めたんだな。体までテキパキ動けたとは驚きだぜ」
ゆるさんと少し間をおく距離感になるように歩き始めた俺。
こうして巨木を後にした俺たちは、
はたして仲間たちと合流できるんだろうかと言う、
でっかい不安材料を抱えたままで登山を再開するのだった。




