ロール17。ゆるさんとゆるゆる登山。 1転がり目。
「火山に湖か」
ある程度登ったところで、目の前には池と呼ぶには広く感じる物が広がっていた。
だから俺は湖って呼んだのだ。
正直なところこのフォニクディオス、火山って言う場所のイメージとは
まったく合わない。穏やかな、特になんの危険もない山にしか思えないのである。
まさにレイナからの事前情報の通りだ。
「意外そうだね。火山が全部、
熱くてマグマがグツグツドカーンなんて、どこからの受け売り?」
「お前、俺の心が読めるのか?」
あまりにも適格な、そしてなぜか楽しそうな百鬼姫の発言に、
俺は素っ頓狂に返すことしかできなかった。
「ぼくが暮らしてた富士山だって火山だよ」
「そうなのか」
「うん」
元気よく頷かれた。こっちの話も意外だ。
ネクロノミコンダの悶え大暴れを見て、
もし活火山だったら怖いとは思ったけど、
実際火山だとは思わなかったからな。だてに富士山表記じゃないってことか。
「ちょうどいいじゃない。水筒に水、入れさせてもらいましょ」
ベルクが言うのに、そうだなと頷く俺。他三人も同意している。
実はクロス・アエジス五人 ーー 面倒なので鬼娘も含めることにする ーー は
みんな水筒を持って来ている。
俺は右肩から、リビックは左肩から水筒をたすき掛けに、
発育のよろしい方々は、首からその谷間に位置取る形で、水筒をぶら下げている。
いつも依頼に出る時の荷物の中には、水筒も入ってるとのことで、
今回の冒険に出る際パーティ全体の資金を使って、
俺と百鬼姫の分を買ってくれていたので、
俺達も所持することができている。ありがたい采配である、実に。
「水要のぼくたちがいるのに、黙ってもってくつもりかな?」
ぼくっこはぼくっこでもドラゴンの方からの言葉だ。みずかなめ、って なんだ?
「竜たちは、自分たちの属性を刺して使用できる属性の後に
『要』をつけて呼ぶんだ」
俺の疑問顔を見たようで、今度は鬼のぼくっこだ。
この解説に「なるほど」と頷く。
「竜は属性に特化した生き物だから、自分たちが属性魔力の化身
って思いがあるみたいなんだよね」
捕捉説明に、そうなのかと感心する。
レイナが俺に続いて「面白い話ですわね」と
同じく感心した感じの声で呟いた。
「で、だ。つまり、水の要ってことは。
アズラッティとカスクは水属性ってことか」
話をまとめつつ先に進めた。すると、当人……当竜? 二匹から
「うん」と小さく首を縦に振っての肯定が返って来た。
ずっとこっち向いてるけど、首痛くないんだろうか?
「んじゃ、許可制みたいだし」
小さく笑う俺は、続けて「もらってもいいか? 水の竜さん方?」と尋ねてみた。
「いいよ。ただし」
「ただし、なんだ?」
「ここはぼくたちの家でもあるんだ。水、乱暴に扱ったら怒るからね」
「つまり、そーっと水筒を水ん中入れろってことだな。理解理解」
言って俺は岸辺に向かう。他メンバーもそうしてるようで、
ザクザクと地面を踏む音が一斉に同じ方向に向かっている。
ほどなく岸辺に到着。水筒を肩から取って、キュッキュと蓋を開けた。
水筒の形は、肩に掛けられる紐のついた円錐形だ。
「そういや、カスクって殆ど喋らないんだな」
しゃがみこんで、右手に水筒 左手にその蓋を持った俺は、
言葉の後に右手を水筒ごと湖に入れた。
多少なりとも山を登って来た身には、このひんやりもまたここちいい癒し。
「まだ人間に慣れてないから、緊張してるんだよ」
「なるほどな」
ある程度重みを感じるので、一度分量を確かめるべく水筒を水から出す。
「よし、殆どめいっぱい入ったな」
確認し、俺は蓋をキュッキュとしめた。他のメンバーも同じだったようで、
給水はサクっと終了した。
「ちっと重くなったけど、問題なしっと」
言葉の後に水筒を右肩からたすき掛けして、俺は大きく一つのびをした。
「小休止終了、だね。じゃ、続きいこっか。案内おねがい、竜ちゃんたち」
爽やかボイスの百鬼姫に促され、ドラゴンたちは了解し
トコトコと湖の縁を左に見て歩き出した。
ので俺たちは少ししてから彼女たちに続いた。
「ところでゆるさん」
「なんですか?」
「護札ってのは、この辺りにもないのか?
これまでひたすら登ってるだけだけど」
「はい、そうですね。あんまりないです。
すぐ見つかるのはだいたい、中腹より上ですね」
「そっか。まだ暫く、ってことだな」
「はい。あの、ところでんーっと」
ゆるさんの歩調がゆっくりになって、くるっと振りむいた。
その目線は俺を捉えてるように思えた。
だから、
「竜馬。山本竜馬だ」
名乗った。
「え? ヤマモト?」
エルがびっくりしている。
あれだけ大好き大好きな結葉お姉ちゃんと同じ苗字だからな、
反応するのは当然か。
「やまもと? ユイハさんもそんな名前だったような?」
「ああ、名字は同じだ。家は別だけどな」
「よく……わかりません。それで、んと、リョウマさん」
「どうした、あらたまって?」
「いえ、その。あなた……ほんとに人間さん、ですか?」
人間全員の足が止まった。
それを確認して、ゆるさんはぴょこっと小さくジャンプして、
こっちに体を向けた。
「それ、どういう意味だ?」
かわいらしく反転したゆるさんに、俺は問いかける。
「人間か、って。どう見てもリョウマは人間じゃない」
「なにか、ぼくたちのわからない理由で、不思議なところがあるのかな?」
俺 ベルク そしてリビックと、次々に声を上げた。
「はい。リョウマさん。あなたから、同族の。火要さんたちの臭いが、
ほんの少しだけするので」
「……なんて奴だよ」
溜息交じりに言葉が漏れていた。
火の要。つまりこいつは、俺が鱗怪変化の術で
火竜に変身できることを、同族の臭いとやらで察知したと言うことになる。
「えっ? お兄さん。もしかして、ほんとに?!」
「いやいや、流石に違う。俺は人間だ、見ての通りにな」
「それじゃ、どうして『なんて奴だー』なんて言ったの?」
エルは半信半疑と言うより、俺の言葉が理解できない様子で、
目を真ん丸くしている。むりもないことだけどな。
「実は俺な。ちょっと、魔法に関して特殊でさ」
「特殊、ですか。大きな魔力を感じるのに、それでも体付きが
そっちの人間さんみたいにまるっこくないのも特殊だからですか?」
まるっこいって言われて、リビック「あはは」って乾いた笑い漏らしてる。
もうちょっと言い方なかったのかよ竜王様?
「ま、そういうことだ。元々は魔法がまるっきり使えないって言う、
これはこれで珍しい人間だったんだけどな」
お久しぶりのでっちあげスキルの出番である。
とはいえ、事実のちょっとした脚色程度だけど。
「とある女神から力を授かってな。俺の中に眠ってる魔力を扱えるようになる術だ、
って魔法を使えるようにしてもらったんだ」
「ふぇ? 女神様?」
きょとんとした感じに、エルがびっくりしている。
「ふぇ」なんてリアクション、リアルで聞いたの初めてだ。
ちょっと感動。
「それと火要さんの臭いと、関係あるんですか?」
「ああ、あるんだ。その術って言うのが俺が唯一使える魔法でさ。
火竜に変身できる鱗怪変化って言う、
遥か昔に人間が作り出したものの、あんまりにも燃費が悪くって
すぐに使うことをやめた魔法なんだそうだぜ。
俺の内在魔力がでかかったのか、今の時代じゃ俺にしか扱えないらしい」
「えええええ!?」
エル、リアクションがでっかくて見てて飽きないな。
「竜に変身する魔法、ですか。聞いたこと、ありませんね」
「そこらへん、竜と鬼の違いかな。ぼくは知ってたよ。
むしろ竜馬にこの術の扱い方を教えたのはぼくだしね」
勝ち誇っている百鬼姫にゆるさんはきょとんとした顔だ。
正直、目を真ん丸くしてるので、体の小ささと
柔らかそうな見た目との相乗効果で、実にかわいらしい。
「女神様から力を授かったのに、ですか?」
「ああ、それなんだけどな。ちょっとピンチな状況に立たされて、
その時に使い方を教えろー、って女神に祈ったんだ。
そしたら変身のための呪文が、頭の中に流れ込んで来て。
だから、使い方は半ば偶然知ったんだ。
女神はあくまで、使えるようにしたとしか言わなかったんだよ」
女神はあくまで。自分で言っといて自分で笑いそうになっちまった。
女神なのか悪魔なのかどっちなんだよ。
「そうなんですか」
「まったく、あの神様も人が いや、神が悪いよな」
コロコロちゃん、話の流れの言葉の綾だ。泣くなよ。
まあ、寝てたことを考えると常に監視してるわけじゃないし、
聞いてるとも思えないけど。
「で、元に戻る方法を教えてくださいーって頼んで来たから、
ぼくがそれを教えたってわけ」
なおも勝ち誇っている。
「そうなんですか。それがきっかけで鬼さんは今ここにいる、
と言うことなんですね」
「んー。厳密には違うけど、まあ そんなとこ」
「なるほど。ヤマモト、と言う名前の人間さんは、竜に縁があるんですね」
口をゆっくり穏やかに開いた、ようはにっこりしたゆるさんに、
「どうやら、そのようだな」って俺も笑みを返した。
「止めさせちゃってごめんなさい。登りましょう」
気を取り直したようで、ゆるさんはそう言うとぴょこっとさっきの容量で、
体を進行方向へと反転。着地後トコトコと歩き始めた。
意地でも飛ばないつもりか、この竜王。
アズラッティ カスクもそれに続く。アズラッティの方も口数が少ないところを見ると、
緊張してるんだろうか?
なにはともあれ、俺達はまた少しの間をおいてから、
また三匹のドラゴンたちを歩いて追いかけた。




