ロール15。竜凰と繋がりし者たち。 1転がり目。
「なんだ、このゆるい圧力は?」
目が覚めた、時刻はどうやら夜らしい。目が覚めたってよりは起こされた感じに近いんだろうな。
意識が覚醒した理由はこの、ゆるい圧力だろうから。
「敵意では、なさそうですわね」
レイナも起きていた。声がしっかりしてるから、今起きたわけじゃない。
これまでの数日、船の中でも寝たんだけど宿に泊まることもあった。それでわかったのは、
寝起きのレイナは力が抜けてて、しゃんとしたかっこいい系かわいいではなく、かわいい系かわいいだった。
ので寝起きじゃないって判断している。
「力が漏れちゃってる感じね。もし行使しようとして集めてる力なら、こんなやんわりした痒いような圧力にはならないもの」
ベルクも起きていた。
「こりゃ、かなりの実力者だね。ひょっとすると、人間じゃないかも」
百鬼姫の言葉に、リビックが「そうだね」と反応している。
ーーってことは、だ。
「なんだ、寝てたの俺だけかよ」
「あまりにもぐっすり寝ていらっしゃったので、起こすのが忍びなかったんです」
とはレイナ。
「そうなのか?」
「ええ。一日以上も寝ているとは思いませんでしたけれど」
そう言ってクスリと微小。
「……一日以上? そんなに寝てたのか俺?!」
驚愕だ。そんな俺に頷いたのはベルクだ。
「起こそうかと思って、ちょっとゆすってみたり軽く叩いてみたりしたんだけど、みじろぎ一つしなかったのよ。
だから、ほっといた」
「……爆睡だったんだな、俺」
どうやら、魔法回復なしに寝た方が疲労回復になるんじゃないか、
って言う俺の推測はどんぴしゃだったみたいだな。
「気配、近づいて来てるわね」
少しトーンを落としたベルク、日常会話中でも不可解な気配に気を配っていられるのは、流石の場数と言うべきか。
「ちょっと前にいたのは、既にいなくなってるね。どうして格上のだけ残ったんだろう?」
百鬼姫の呟きは最もだろう。
普通格上だけが残って他が帰るって言うのは、そうあるもんじゃないと思う。
殿を務めでもしない限りは。
「この声、ユイハよね? ずいぶん和やかに話しながら歩いて来るけど、さっき男連中は部屋に戻って来てたから……となると。
気配の主といっしょってことかしら?」
「おいおい、大丈夫なのかそれって?」
「心配はないでしょう。さきほど言いましたけれど、この力は敵意による物ではありません。
ユイハさんやこの宿にいる人の身が、危険にさらされることはないと思いますわ。
勿論、わたくしたちも含めて」
「そっか。けどそうなるとますます謎だな。
気配の主は、いったいなんの目的で結葉といっしょにここまで来てるんだ?」
「わからないね。見に行ってみる?」
「リビック。あんた……どうしたのよ?」
「そ、そんなに驚くことないだろ……。ぼくだって興味の一つや二つあるさ。
特にこの強い気配に敵意がないなら、その正体を確かめたくなるのは普通じゃないか」
「あんた、普段の立ち回りが普通じゃないの、自覚あるじゃない。そのあんたが普通を語る?」
「ひ……ひどい、そこまで言わなくたっていいじゃないか……」
「お前。ほんと、リビックには容赦ないな」
へこんでるリビックに、いつものことじゃないかと左肩を右手でぽむぽむ叩きながら、
ベルクに半ば呆れて言った。
いつものことじゃないか、って気持ちをこめてる俺もわりとひどい気はするけど。リビックがどう受け止めてるかわかんないから問題ない。……って、俺もリビックの扱い方が大分ベルクに寄ってるな……。
「幼馴染に気を使う必要、ある?」
バッサリとひとこと。
「たしかに。お前、前にもそんなようなこと言ってたな……。
でも、その人の性格によっちゃあるんじゃないのか?」
「そうかなぁ? 少なくともリビックにはないと思ってるわよ」
またもやサラリとした答え。
「……ひどい」
またダメージを受けるリビックに、「そう言いながら、あんた別に待遇改善とか求めてないでしょ? だから平気ってことじゃない」と追撃が……。
「それは……いいです、そういうことで」
なにかを言おうとして、軽い溜息の後で言うのをやめたリビック。先の展開を読んでのことだろう。
おそらく、待遇改善を訴えようとしたんじゃないだろうか?
俺の推測が当たってるとすれば、何度か試みたが結局変化がなかったから、もういいやってなってると更に推測。
……って、あれ? こんな流れ、出会った日にも見たような?
「ほら、諦めてる。そういうことよ」
俺、思わず哀れみの視線をリビックに向けてしまった。
それは、お前が待遇改善要求しても右から左で聞く気がないから、受け入れざるをえないんだろ。
って言葉は、言っても効果なしな気したので飲み込んだ。
「妙だなぁ」
「どうした百鬼姫唐突に?」
「いや、今部屋に入った結葉さ。足音が一人分だったんだよね。
もう一人、誰かの声が確実にしてたのに足音が一人だったんだよ」
たしかに、今しがた扉の開閉音が聞こえた。それと同時に廊下の話声は、
壁にでも阻まれたように、少しこもり度合が増して聞こえるようになった。
今の扉は結葉たちの部屋の扉だったってことか。
「そっちにずっと注目してたのか。って、え? 二人いるのに一人分の足音?」
今、背中がゾクってなったぞ。
「行って、みるか」
怖いもの見たさって奴だろうか。ちょっと怖いが、でも興味が俄然沸いた。
「そう、ね。ユイハが心配だし」
「なにかに取り憑かれている可能性もありますか。もし、そうならわたくしの出番ですしね。
会話の雰囲気からして悪い者ではなさそうですが」
「純粋になにがいるのか興味ある、って言えばいいのになー。素直じゃないんだから二人とも~」
ここで茶々を入れるのが、なんとも|百鬼姫(なきりめ(らしい。
「あの、えっと。ぼくは……」
戸惑うリビックに、俺は「行こうぜ。みんなで行けば怖くない、だろ?」と背中を押してみる。
「そ……そう、だよね。うん、そうだ。いこう、ぼくも」
グっと両拳を握ったリビック。自分に発破でもかけたんだろうか?
こういう、いざって時に思いきれるところは、正直言ってすごいと思う。
普段はあわあわすることが多いこいつが、きっかけさえあればバっと決めてしまえるのだ。
名前からしてビビリまくってるのにこの思い切りのよさ。もしかしたらやけになってるのかもしれないけどな。
そんなこんな、俺達全員はゾロゾロと部屋を出た。
そして、真向いの結葉たちの部屋に向かおうと一歩前へと踏み出した。
ーーその時だ。
「ぐっ?」「なっ!?」「くっ」「うわっ?」「うわわっ」
全員同時に声を上げた。俺は思わずぎゅっと目を閉じて。
「な、なんだ。今の光?!」
ガっと目を開いて俺。夜だってことを忘れて、声を張ってしまって言い終えてからちょっくら反省。
「今の感覚。普通じゃなかったわよっ?」
身構えた声色のベルク。リビックも息を飲むような音と同時に、トンっと床を踏み直した。
「今のは、まるで……」
「うん。まるで、いっぺんに全部の属性が同時に発現したみたいだったよね」
静かに驚いたレイナの言葉を続けた、恐る恐ると言う調子の百鬼姫に、「はい」とレイナ。
「いっぺんに全属性が出たって、なんだよそのチート級現象。
それより気になったのは、今の光の色だ」
「そうだね。今のは虹色だった」
ほんの一瞬ではあった。でも、あの複数の色が混じった、でも美しいと感じたあの光は、
おそらくリビックの言う通り虹色だった。
「だよな。虹色……まさか?」
思い出したのは、結葉と百鬼姫の言っていた虹色に輝く竜の話。
「当人、かどうかはともかく。それと似た竜がこの先にいるってことじゃないかな、もしかして?」
鬼娘が、初めて真剣な声色で告げる。
「イコールそれが全属性を同時に放出できる存在……
マジで大丈夫なのかよ結葉の奴は?」
いっきに俺達の間にピリリとした空気が走った。
「行きましょう。ここで考えててもしかたないわ」
ベルクの声に、全員同時に肯定の声を発する。
そして俺達は、立てこもり犯のいる場所に突撃する特殊部隊の如く、
結葉たちクロスタイドレベリオンの泊まっている部屋のドアを、
勢いよくあけ放った。




