ロール14。新たな出会いと山本家。 1転がり目。
「づ! い! だー!」
ドサっと布団に倒れ込む。ベッドじゃなく布団なのが面白いところ。
安宿なのかもしれないけど、これまでの異世界生活 どっちかって言うと布団の方が多かったので、
むしろこっちの方が慣れてる。
あれから数日。ネクロノミコンダのオーダーの依頼主である、レイナたちがメインで活動してるらしい、アズマングとは別の大陸の中心地ギルドの偉めの人を送り届けて、
そうしてから改めてこのボルカディア地方の都市、ノンハッタンの宿屋に辿り着いたのだ。
船での長距離移動に慣れてない俺なので、肉体面より精神的に疲れている。
海を隔てての長距離移動は船が基本だから、慣れていかないといけないんだよな。
「遅れること三日。ようやくボルカディアに到着ですわね」
ふぅ、とレイナも一息ついている。なにに送れたのか、気持ち的に三日間のロスだったようだ。
時計はあるものの、元世界ほど誰も彼も持ってるようなしろものではないようで、
町の忠臣とかそういう街頭にある、観光スポット然とした時計がこの世界の標準の物らしい。
俺は太陽の位置でなんとなくの時間はわかるけど、何日経ったまでは覚えていられない。
スマホやらパソコンやら、時間どころか今が何日なのかまで、気軽で気楽につぶさにわかってたからな。
ちょっと目を向ければ済んでたこと、自分で記憶しておく必要がなかったんだ。
そりゃ太陽が何回沈んだ登ったなんて、数える気にもならない。
何時何分何秒地球が何回回った時、の問いでも太陽の動きは考えないからな。
「不思議なめぐりあわせよね。まさか同じこの宿に、ヤマモトって名前の冒険者が泊まるなんて。
それも同じタイミングで」
ベルクの言葉に、半身を起こして「だな」と頷く俺。
「あちらさん、おまけに例の虹色の竜の件の山本竜馬の子孫って話だしなぁ」
「竜馬のこと、同じ山本姓って理由とは別の意味でも注目してたみたいだよね。魔力の大きさかな?」
百鬼姫の推測に、かもなと頷いてから、
もしくは先祖の名前知っててびっくりして注目したか、と推測を付け足す。
竜に変身できることについては話していない。彼等の紅一点であり渦中の人、山本結葉だけなら放してもよかったけど、
男連中がなんとも殺気立ってて、あまり談笑できる空気じゃなかったのだ。
この黒髪黒目の美少女である、結葉と言う女子。レイナに負けず劣らずの、ものすごいプロポーションをしており、
それにたがわず名前がものっすごく長かった。まさか和名でも、名前の法則が変わらず適応されてるとは思わなかった。
レイナ同様に、彼女も長いから結葉でいいって言ってたな。レイナも結葉も黒髪で、ひょっとしたら黒髪って魔力がでかくなり易いんだろうか?
ベルクが言うには、彼女のペンダントもベルクの槍と同じく、大きさを変化させられる武具らしく、
結葉がそれを肯定しつつ 自分のは魔法の杖だと教えてくれた。
レイナクラスの魔力が扱える魔法使いか。
突撃癖のある男連中のせいで、攻撃魔法を殆ど使ったことがないって言ってたけど、
もし攻撃魔法を使ったら、きっとリビックレベルの奴をドッカンドッカンぶっぱなてるんだろう。
彼女の性格が大人しくて冷静でよかったと思う。
「あっちもフォニクディオスに用事だってな。つくづく面白いめぐりあわせだぜ」
「ウエポナイトを取って来るんだってね。あたしたちのもそうだけど、楽な依頼ね。
ユイハたちナイトクラスだって言ってたけど、ウエポナイトの必要数が多いのかしら?」
「ウエポナイトか。名前からして鉱石みたいだな」
完っ全にイメージで言ったが、ベルクに「当たり」と頷かれた。
よっしゃ当たったぁ! 狩りゲー知識なめんな!
……って、なにと張り合ってんだ俺は?
「あの、お邪魔しても、いいですか?」
ノックの後、控えめな少女の声。
「噂をすればなんとやら、だね。どうぞ」
「お前が言うのかよ?」
カチャリ。開いたドアから入って来たのは、百鬼姫の言う通り結葉だった。
同じ山本姓と言うことで、結葉の側から名前で呼び合おうって言って来たので、それに了承した。
のであったばっかの女子を下の名前で呼んでいるのだ。
レイナたちはカタカナ名前だから、キャラを呼ぶような感じで呼び捨てに抵抗があんまなかったんだけど、日本名前の女子となると話が別だった。
ので抵抗あったんだけど、よく考えたら百鬼姫もかわっちゃいるけど漢字の名前だし、と開き直ることにしたわけで、
こうして今平気で呼べるのである。
「お邪魔します」
見ちゃいけないと思うんだけど、どぉーしてもこのド迫力山脈に視線が向いてしまう。
「ふぅー」
今さっきの俺みたく、ドサっと布団に膝をついた結葉。どうやらお疲れのようである。
当然のようにバヨンっと見事に上下動したのは、見る気がなくても見えてしまった。
実に眼福ではあるけどな。
「お疲れさまです。そんなに疲れているなら、わたくしが付かれ 取ってさしあげましょうか?」
レイナの申し出に、「ありがとうございます。でも、精神的な疲れなので」と首を横に振った。
ハイパーなオヤマサマの持ち主同士のハグ……とてもみてみたかったんだが、残念至極。
「あんたんとこの男連中、そんなにきついの?」
「きついって言うよりは、なにをしでかすかわからないので落ち着かないんですよ。
彼等の態度でなんとなくわかると思いますけど」
膝をついたところから星座に切り替えた結葉。どうやら、冒険者同士且つ山本が混じってると言うことで、
これ幸いに俺達を退避場所に選んだらしい。
「ところで竜馬さん」
鬼である百鬼姫がこんなところにいる理由は、出会った時の会話の際にさっと話したので、そこには触れないんだろう。
あまりに理由が軽いんできょとんとしてたな。
「え、俺?」
「はい。どうしてそんなに魔力が表に出てないんですか?」
「って、言われてもなぁ。俺にもどうなってるんだかわかんないんだ」
「そうなんですか」
「ああ」
「鱗怪変化の使用者って、みんなこうだったのかなぁ?」
疑問声の百鬼姫。それ振るか?
まあ話してもかまわないと思ってたからいいけど。
「え、鱗怪変化ってあの。封印されてる伝説の魔法ですか?」
またきょとんとしている結葉。今回も驚きすぎてのきょとんだろう、たぶん。
封印されてる伝説の魔法ってフレーズ。ノーマジックイエスライフな世界で生きてた身には、
ものすごく中二病に聞こえて……その、だな。
使える自分がなんかその……
猛烈に恥ずかしい……。
「なんで真っ赤になるのよリョウマ? そのおかげで命の危機を脱せたんだから、恥ずかしがることないじゃない」
「いや、そりゃ、まあ。そうなんだけど……さぁ」
思わず助けを鬼娘に求めて、彼女を見てしまった。
が、俺と一瞬目を合わせたが、「ぼくしーらない」とばかりにすぐ目をそらしてしまった。
……そりゃ。答えようがないよなぁ。鬼特性角トランシーバーはこういう場面じゃ使えないし。
って、そもそもトランシーバーだから声全員に聞こえるか……。
いや、それ以前に片方しか送受信機ここにないから意味ないわ。やべー混乱してるな。
「じゃあ、ほんとに。使えるんですか?」
「あ、ああ。まあ……な」
どうすんだよ。この「中二病ワードで恥ずかしい」で思考回路が固まっちゃった俺の脳内よぉっ!
「すごい。ご先祖様が虹色の竜を見たところに実は居合わせてた鬼の子孫はいるし、
鱗怪変化が使える人に、エンブレイスの巫女。
クロス・アエジス、すごいパーティと知り合えちゃいましたっ」
言葉通りの気持ちなんだろう。両手をヒシっと胸の前で組んで感激の声を上げている、勿論マンメンミ もとい満面の笑み。
朗らかな笑いが女子らから起きる。
たしかに今のリアクションはかわいいなぁと思った。
けど、それよりも俺は、その両手を組んだことによってむにゅーっと中央に潰れ寄ってる、
オヤマサマに感激の声を上げそうになったよ。だからほっこりリアクションできなかったよ。
って言うかエンブレイスの巫女って、どんだけ有名なんだ?
「ねえねえ結葉。さっきこれは言ってなかったんだけどさ、
面白い話があるんだよね。竜馬について」
自慢げオーラを漂わせて、百鬼姫が結葉にそう言う。
おいおい、いったいなにを言う気だ? まさか転生者の話じゃないよな? ないよな??
どうもこいつが面白い話って言うと、毎度ヒヤヒヤするんだよなぁ。
こいつが俺の元の世界の話、面白がってるからなんだろうな、この信頼感のなさ。
「え? なんですか、面白い話って?」
そりゃ興味持つよな。
「結葉、知ってるかもしれないけどね」って前置き。この前振りに、結葉は不思議そうに「ん?」っと首をかしげている。
お? もしかすると、面白い話ってのは。
「この山本竜馬って名前。実は、虹色の竜を見た君のご先祖様とまったく同じ名前なんだって」
よし予想通りだあぶねー! そっちでよかったーっ!
「そうなんですか?!」
軽くのけぞるほどのびっくりだ。どうやら、名前で俺に注目したって言う俺の推測は外れてたようだ。
「うん。ぼくのじじうえが教えてくれたことだから、たぶん合ってる」
「そうなんですか」
感心した調子でそう返してから、
「竜に変身できる、虹色の竜を見たご先祖様と同じ名前の人……奇縁ですね」
と同じ調子で続けた。
「ほんとだよな。俺も百鬼姫から竜と俺の名前の奇妙は聞いてたからびっくりしたぜ。
同じ山本姓でもびっくりしたけど」
正直、同じ苗字であることは単純に同じ苗字であることの驚き以上に、
俺のでっちあげプロフィールがでっちあげなことが、レイナたちにバレないかが心配だった。
けど幸い結葉には不審がられていない。日本と同じく、山本姓がそれほど珍しくない名字なんだろうか?
「そうですよね」
ぴょこぴょこと、首を二度縦に振りながら答える結葉。なんともかわいらしい動きだ。
付随してぽよんぽよんする大山脈が、糸せずチラ見できてしまうのがなんとも血流に悪い。
血流がよくなると恥ずかしい思いをする部分に関して血流に悪い。
「それで、竜馬さん」
「なんだ?」
「山本姓を全て把握してるわけじゃないですけど。竜馬さんは、どこの山本さんなんですか?」
「え?」
思わぬ問いが、なにげない調子で飛んで来た。
「あなたのこと、聞いたことがなかったので。教えていただけませんか?」
ーーおいおい。ここに来てこんな試練来るのかよっ。




