ロール13。冒険者になりました。 1転がり目。
「そう緊張しないでくれ、簡単に冒険者についての質問をするだけだ」
隣りの部屋と同じ、ギルドマスターが日の光を背中から受けてる配置で机が置かれている部屋。
俺の歩き方を見てだろう、ギルドマスターがそう声を書けてくれるものの、無茶を言うなである。
「大丈夫ですよ、マスターは見ているだけですから」
「……ふぉあ?」
足が止まるのと同時に変な声が出てしまった。なぜなら、今のは女性の声だったからだ。
なにはともあれ椅子に腰を下ろした。するとたしかに、ギルドマスターの右に一つ、人影があるのがわかった。
「登録についてはわたしが担当させてもらいます。ココ・リア=アエジス・マモラナです。
気軽にココちゃん、とでも呼んでください」
落ち着いた雰囲気でそんなことを言うもんだから、吹き出してしまった。
俺が吹き出したのにつられたように、お姉さん ココさんが微笑した。
この微笑のおかげで緊張が少し和らいだ感じがする。
黒尽くめのめがね女子のココさん、ギルドの受付嬢って雰囲気である。
なるほど、ミドルネームが二つあるなら御立派な物をお持ちなのにも納得できる。
そこ行くと、ミドルネームなしであれだけのプロポーションなベルクってすごいんだな。
気兼ねなく女子のプロポーションをガン見できるこの世界、眼福得たい放題な半面、
ガン見に慣れてない俺としては悪い気がする複雑な男心である。
「あなたのことは、さきほど聞きましたが、なんとも不思議な人ですね」
ココさんは、左手でめがねをクイっと持ち上げて、面白そうに俺を見て言う。
まるで研究対象を見てるような、そんな雰囲気の口ぶりだ。
転生してからここに来るまでのことを、何度もぶちかましたでっちあげプロフィールを交えて話したわけなんだけど、
そりゃまあ不思議がられるよなぁと我ながら思う。
「それで、質問と言うのは」
一呼吸。溜めるのやめてくれません? 緊張戻って来るんで……。
「冒険者がどういう扱いを多数の人から受けてるのかと言うお話と。それと」
また一呼吸の溜め。やーめーれー!
「あなたの覚悟の確認です」
さらっと言われたこの言葉。しかし、ココさんの雰囲気とは逆なのが、言われた俺の側である。
「覚悟……ですか。またずいぶんと重たいじゃないですか」
ずっしりと言葉を返す。返さざるをえない。
「いえ、あなたはもう、決めてると思いますので、ただの最終確認ですよ」
登録したいと申し出た以上、たしかに言葉に比べて意味合いは軽いんだろう。
でも、覚悟を問うなんて質問はこれまでの人生されたことがなかったから、
現状の意味するただの最終確認ほどの軽快さでは、俺は受け止められていない。
「さ、早く進めてしまいましょう。レイナさんたちをあまり待たせても悪いですから」
「た……たしかに。そう……だな」
重てぇ……! まだ覚悟と最終確認がイコールで繋がってねぇんすよっ。
ココさーん、もうちょっと時間くだせぇっ。
「ご存じですか? この世界で、冒険者がどんな扱いを受けているのか」
小さくビクついてしまった。理由は簡単だ。
この世界の住民認識のはずの俺に対して、わざわざ『この世界で』ってひとことを付けたからだ。
「あ、ああ。冒険者は落ちこぼれが行き付く先って思ってる奴が多いんだってな」
「ええ。とんでもない勘違いですよね、ほんと」
うんざりした声でココさんは相槌を打った。
冒険者自身が不快感感じてんだもんな。それの統括組織の人なら、その屈辱はそれ以上かもしれない。
「それでリョウマさん。あなたはその冒険者になろうとしています。
戦闘能力が高いならいざ知らず、どうやらリョウマさんは戦闘能力が
まったくの素人レベルとのこと」
「ああ、まあ。な」
「レイナさんたちと行動を共にすることを既に決めているようですね。それならそこまで気にすることではありませんが」
含みを持たせた溜めをまた作ったココさんは、真剣な目で俺を見て言った。
どうやらこの雰囲気。覚悟、のセクションに入ったか……?
「冒険者は言ってしまえば誰でもなれます。ですがさまざまな要員で、その活動終了をよぎなくされてしまう人が少なくありません。
それも始めたばかりの時期に」
生唾を飲みこんでしまった。
「それってどういう意味ですか?」
出た問いかけの声は、少し重みがあって自分でちょっと驚いた。
言わんとしてることはわかる。でも、思わずききかえしてしまったのだ。
「命を、落としてしまうんです。
モンスターへの知識不足による慢心、
組んだパーティの人格、
受注可能ランク内の中でも難易度の高い依頼を、
箔を付けようと一人で受けてしまう。
など」
ああ、なんとなくその死亡理由はわかる。急いては事を仕損じるを、その命で体現してしまった、ってことだろうな。
「冒険者は依頼者にかわって、その危険を代行し見返りを受け取る、れっきとした仕事です」
今の『れっきとした』の若干の強調は、ココさんの思いの強さがにじみ出てて、
失礼ながら吹き出しかけて慌てて噛み殺した。
よくやった俺っ。
「その死と隣り合わせの仕事を、依頼達成に不可欠な戦闘能力をほぼ持たない状態で始める。
この意味、わかりますか?」
睨むように鋭い視線で、詰問のように問いかけられた。
それには一つ頷き、
「死ぬぞ。ってことだよな?」
とよどみなく答える。
「はい。軽はずみに冒険者を志さないでいただきたいのです」
この言葉と真剣さ。この人の人のよさがうかがえる、心配から来る物だとわかる。
眼鏡の奥の黒い瞳が、まっすぐに俺をみつめている。この視線に事務的な物は感じられない。
「弾んじゃいるけど軽くはないですよ。俺には、こうするしか道がありませんからね」
真剣に言葉を返す。本当に、俺にはこれしか道がない……いや、違うか。
初めからこの道以外を考えなかった。
俺がこの世界を選んだ理由が束縛のなさ。その体現は、依頼に関することぐらいしか束縛がないイメージのある冒険者だからな。
そして、どうやらこのイメージは間違っていなさそうだ。
「……そう、ですか」
安心したような、でも心配の抜けてないような、そんな重たい息を伴ってココさんは短く言った。
「運がよすぎるんですよ。むりやり飛ばされた転移魔法のせいでいきなり死にかけたけど、
そこにレイナたちがいてくれたおかげで命をとりとめて。
なんやかんや彼女たちに守ってもらいっぱなしで。あげく鬼の友達までできて。
その恩返しは、俺にはいっしょに冒険者するぐらいしか思いつかないんです」
俺のことは、ここに至る前に一度話した。けど、決意表明に、こうして改めて言うことは悪くないんじゃないかと思う。
……口を突いて出た言葉を、自分に納得させようとして理論武装しただけかもだけど、この分析。
「なるほど。覚悟は、本当に決まっているんですね」
さきほどより少し増した真剣さで、そう一つ頷いたココさん。俺は、それに頷き返した。
「わかりました。では、これに手を入れてください。
冒険者証、ギルドカードって通称されることもありますが。これを作ります」
「これ、って……あ、なんか置いてある」
むかーしゲーセンで見たことあるなこんなの。たしか手相占いの機械で、水晶玉みたいなのに手を突っ込むんだよな。
結果が紙で出て来るのかなあれ? 実際使ったことないから、どうなってんのかしっかりとはわかんないんだけどさ。
半球形の、見るからにツルツルしてそうな玉。それがこっちを向く形で、たしかに手をつっこめそうな空洞ができている。
「これに手を入れることで冒険者証ができます。ただ、少量血と魔力を吸われますので、
終わった後 ちょっと気分がすぐれなくなるかもしれません」
「そうなのか? なんで血と魔力を?」
採血に加えて魔力も取られるのか。
採血の感じはイメージできるけど、魔力を吸い取られるってどんな感覚なんだろうな?
「その二つはあなたに欠かせない要素であり、命の根源。血はなければ生きて行けず、魔力はあなたの魂と結びついている力です。
その二つを掛け合わせることで、リョウマ=ヤマモトと言う一人の人間を表す図柄がギルドカードに刻印されるのです」
「そうなのか、すげーなそれ」
「そしてそれは、あなた以外が使用しようとすると図柄が歪み当人ではないとすぐにわかります」
「なんでだ?」
「魔力の質が違うので、カードの図柄 ーーつまり魔力が反発するので、
本来のカードの持ち主が識別できる。と言う仕組みです」
「へー、魔力ってただ魔法を使うための力ってわけじゃないのか」
あ、いけね。つい出ちまった。
「はい。一人一人魂は違いますから」
「なるほど」
ふぃー、あぶねー。二人ともおかしな顔してないってことは、変な質問じゃなかったってことか。よかった。
「そういうもんか」
雰囲気理解ではあるけど、人格が違うように魂の形ってのも違うもんなんだろう。
「最後にもう一度。確認させてください」
右手でめがねを強めに掴んでいる。さっきの軽い調子の左側掴みと真逆の雰囲気だ。
めがねの左右でテンションが違うのか。面白いな。
ともかく。この問いかけをてきとうに聞くわけにはいかない。耳をしっかりココさんに向ける。
「カードを作り終えた瞬間から、あなたは冒険者です。本当に。よろしいんですね?」
表情を引き締めて、ココさんは一言一言をしっかりと発した。
言霊と言うより言葉の弾丸を一発ずつ心の芯に打ち込むように問いかけて来た。
これが本当に、ほんとの最終確認。いやでもそう理解させられる重みのある言葉だ。
そんな真剣極まるココさんの様子にあてられたか。俺も表情が自然と引き締まった。
そして真剣な声色で、力強く頷くのと同時に、はいと声に出していた。




