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ロール12。本当の意味での始まりの一日。 2転がり目。

「ふぅ」

 足を止めて一息。

「ここ、リョウマが落ちて来たところね」

 ベルクに言われて周りを見る。たしかに、なにか派手に物が落下したような、浅いクレーターができている。

 

「俺……ものすごい勢いで地面に激突したんだな。そりゃ死にかけるわけだ」

 納得して笑うが、その笑いは乾いている。

 

 

 あの後、俺は日が登り始めたころ、太陽が地平線から全身を見せた辺りにレイナに起こされた。

 白み始めた辺りに百鬼姫なきりめに起こされたから……予想仮眠時間は二 三時間ぐらいだろうか?

 

 よっぽど付かれてたんだろう、パジャマ着てるわけでもないのに俺はぐっすりと寝入ってたらしく、起き出す時体がちょっと重たかった。

 

 事情を話してから、簡単な食事をとった。

 ほんとに簡単な物で、ジャーキーにしか思えない物とクルミみたいな物をかじりながら水を飲む程度の物。

 

 空腹は満たせなかったけど、それでも不思議となにかを追加で食べたいとは思えなかった。

 保存食且つ充分な満足感。エネルギーチャージ的なゼリー食品みたいな物なんだろうか?

 

 そういやあのクルミみたいな奴は、一個食べれば半日以上空腹感がなくなり、動くのに充分な力を与えてくれる魔力を秘めた物だとか言ってたな。

 どこの仙人豆だよって思ったわ、そういや。

 

 

「いったん休憩にいたしましょうか?」

 俺の声色が付かれてるように聞こえたのか、レイナが提案してくれたが首を横に振って大丈夫だって答えた。

 

「そうですか。ここはだいたい中腹の辺りです、後半分ほど。いきますか?」

「後半分か、大丈夫だと思う この疲れ具合なら」

 不思議だなと思うのは、登る時と下りる時の体力の消耗差。

 登る時には、ここから頂上に行くのにかなりの疲労があったけど、今は大して疲れてない。

 

 例のクルミのおかげだろうか?

 それとも、登る時と今とでは、状況が違うからだろうか?

 

「そうですか、わかりましたわ。それでは、いきましょう」

 レイナの言葉で俺達は歩き始めた。

 

 ふと空を見たら、太陽の角度はだいたい45度の辺り。ペースを崩さずに行ければ、昼ごろには下山できそうだな。

 

 

***

 

 

「下山、お疲れさま~」

 太陽はまもなく頭上、真昼間。

 俺達に明るくそう声をかけたのは、右手に持った笛のような形のなにかを、

 見せびらかすように顔の横に持ち上げている百鬼姫なきりめだ。

 

 俺達が今いるのは、ベルクの話によれば、もう少し行くと入山許可をもらった簡易の関所のようなところがあるらしい。

 登山道と街道の境目の近所らしい。

 

 

「膝は笑ってるわ足が棒のようだわ、散々だけどな」

 俺が力の抜けた疲労声で言うと、「リョウマがレイナの回復を嫌がったからでしょうが」と

 ベルクが即座に突っ込んで来た。

 

「いけると思ったんだよ、中腹でも言ったけど」

「今回はなにもなかったからよかったけど、これからは念のためはもらっときなさいよね。

いざって時にそんな状態じゃ足手まといだから」

 

「ち ちょっとベルクローザ、そんな言い方っ」

 リビックが反論するのを手で制して、俺は頷き 答えた。

「肝に銘じときますぜ、先輩」

 

「ま、これからはその『いざ』って時に竜馬がそんなんだったら、ぼくが背負ってあげるから安心してよ」

 さらっとそんなことを言い放った鬼少女に、俺以外の冒険者たちの時間が一瞬止まった。

 

 どうやら、うまく行ったらしい。

 

 

「どういう、ことよ。それ?」

 一番に声を上げたのはベルクだけど、その声は驚きと戸惑いが乗ってるのが一発でわかる程度には、動揺の色が濃い。

 

 それでもこの三人の中で、変化事にはどうやら一番反応が早いらしい。

 

「実は今朝、仲間たちに相談して来たんだよね。

ぼく、竜馬たちといっしょに行きたいんだけどかまわないかな? ってさ」

 

 なんてことない調子で爆弾発言を連続投下する百鬼姫なきりめに、

 流石のベルクもリアクションが追い付かないらしく、文字通り開いた口が塞がらない様子だ。

 

「よく了承されたな、そんなこと?」

 知ってたことではある。しかし、そんなことを口に出すわけにはいかないので、無難に話を繋げることにする。

 

「その代わりがこれ」

 そう言って、さっきっから顔の横に持ち上げっぱなしの笛のような物を、

 更に少しだけ上へと持ち上げる。

 

「それ、なんだ?」

「これだよ、昨日言ってた連絡手段」

「ああ、それがそうなのか。けど、見た感じ笛にしか見えないぞ?」

 

 完全に冒険者たちを置いてけぼりにしてるけどしかたない。

 これは洞窟での会話内容だし、状況についていける状態なのが俺だけなんだから。

 

 

「これ、二本の鬼の角を組み合わせて作られてるんだ。たしかに見た目は笛みたいなんだけどね」

 なんらかの理由で用をなさなくなった鬼の角なんだろう。流石に連絡手段一つを作るために、

 鬼が自ら角をへし折るとは考えにくい。

 

「それが連絡手段、か。どうやって使うんだ?」

「特定の魔力波長を捉えて、そこから送られる風の魔力を声に変換する、んだって。よくわかんないけど」

 

 また自信のない言い方だ。この説明を聞く限り、どうやらトランシーバーみたいな物らしい……たぶん。

 

「技術肌じゃなさそうだもんな、お前」

「うん、そういうことぜーんぜんわかんない」

 えへへ、となぜか楽しそうに笑った。開き直ってんな、こりゃ。

 

「で、これで連絡するから様子を教えてくれ、って」

「なるほど、元気かどうか教えてくれりゃあそれでいい、か」

「そうみたい」

 心の広い連中だな、この山の生き物たちは。

 

 

「あの、それで……結局。どういうこと、なのでしょうか?」

 とても遠慮がちに、ともすれば恐る恐るにすら聞こえる調子で、レイナが声を出した。

 

「ん? ああ、ごめん。ちゃんと言ってないか。つまり」

 緊張した空気が冒険者たちから流れて来る。

 その空気に当てられたのか、大きく一つ深呼吸してから、百鬼姫なきりめは言った。

 

 

「これからよろしく」

 

 

 元気のいい声は、よく通った。けど返事の通りは悪く、訪れたのは静寂だった。

 

「……あれ。わかんなかった? 君たちといっしょに行くよ、って 意味だったんだけど……」

 戸惑った表情とそれがダイレクトに現れた声色で、俺達をぐるーっと見回している。

 今度は百鬼姫なきりめの側が困惑してる様子だ。

 

 

「「「えええっ?!」」」

「うわわっ、びっっくりしたぁ。いきなり叫ばないでよもぅ」

 鬼角おにつのトランシーバーと左手で自分の耳をふさぎながら、困り顔で言う鬼娘。

 

「驚くなって方がむりだろうって……」

 苦笑いである。

「ならなんでリョウマは平然としてるのよ、さっきから」

 むくれ声でのブーイングだ。

 

「ん? あ、ああ。まあ、そうだな」

 また言い訳を考えなきゃいけない。さて……またでっちあげスキルを発動させねえと。

 

 

「昨日、俺 こいつと二人で話しただろ?」

 脳みそフル回転だ。むしろオーバードライブだ。

「ええ」

 抜き取れー抜き取れー。事実から必要最低限の情報を抜き取れよー。

 

「その時、この笛みたいなのを俺にくれるって言う話をしてたんだ。俺の話がいたく気に入ったみたいでな」

「そうなの?」

「ああ」

 この抜き取った情報から、それっぽく現状に落ち着く答えを作り出すんだ。

 

「でも、こいつの表情が自分で言っときながら納得してなくってさ。

もしかしたら、なんか別の案を考えてるんじゃないか。と、思ってたんだよ」

 実際に別の手を考えさせたのは俺だ。世界の外から、ダイスの力を使って。

 けど、これぐらいなら言い訳としては上等だろう。

 

 

 ーーそろそろ言い訳が必要な話は止まってほしいところだ。

 

 脳みそフル回転させなきゃいけないから、肉体面の疲労は大したことなくても、

 精神面からの疲労が、実はけっこう来る。

 

 

 一瞬驚いたような顔をした百鬼姫なきりめだけど、一つ頷いただけでなにも言わなかった。

 

 昨日、コロコロちゃんとの関係性を含めて、俺の情報を隠さず話したから、

 もしかして俺がなにかやったことを察したのかもしれない。

 

 

「なるほど、そういうことね。落ち着きすぎててちょっと怖かったわよ」

 納得してくれたみたいだ。

「そうですわよね。まるでこうなることをわかっていたように落ち着いていますもの」

 

 ドクンッ!

 一つだけ、鼓動が強く鳴った。

 

 ……お、脅かさないでくれっ。

 状況的にはありえないのに、コロコロちゃんとのやりとり見られてたのかと思ったじゃねーかっ!

 

「なにはともあれ。鬼が味方になってくれるって言うのは、冒険者としてはいいことだよね。

歓迎するよ」

 リビックが、とてもヘタレとは思えないほどの纏め能力で話を落ち着けた。

 

 

「まさに鬼に金棒だな」

「うまいことゆうなー竜馬」

 嬉しそうに、あいてる左手で、くるっと俺に向きながら肩を叩いて来た。

 

 ーーそれはもうバシーっと。

 

「いっってえっ! だから加減しろっつってんだろ!」

 再び肩が外れるかと思うほどの痛みに、顔を顰めながら忠告叫びだ。

 

「あははー、ごめん。またやっちゃった」

 反省してなさそうに楽しそうに笑っていやがるので、一つ睨む。

 

「ごめんってー」

 こんな俺達のやりとりに、冒険者三人が楽しそうに笑った。

 緊張の糸は、どうやらほどけたらしい。

 

 

 

 そんなこんなで。俺は新たな一歩をかみしめながら、簡易関所に向けて歩き出した。

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関連作品。

ゆるさんの押し事 ~ 最強竜凰さんののんびり火山生活 ~
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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