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ロール12。本当の意味での始まりの一日。 1転がり目。

「ん、あ。ああ。俺、寝ちまってたのか」

 ほっぺたを軽く叩かれた感覚で俺は目を覚ました。ぼんやりと世界が明るい。どうやら夜明け辺りの時間帯らしい。

 

「ごめんね竜馬、起こしちゃって」

 小さな声が耳元で聞こえた。音源は左側。

 

「かまわねえよ。おはよう」

 最初に声を出したのと同じで、俺の声はぼんやりしている。

 

「で、そう言うってことは、なんか起こす理由があるってことか?」

 パジャマ着て寝てないのと同じような感じだからだろう、すぐに思考が動いてくれてる。

 普通の服着て寝ると、起きてすぐ動くにはいいけど代わりにあんま疲れ取れないんだよな。

 

「うん。ちょっと、仲間たちに話に行くことができたんだ。だから、それを伝えておこうと思って」

「話したいこと?」

 問い返すけど、内容はわかってる。俺達といっしょに山を下りたい、だ。

 おそらくそれについて交渉する気なんだろう。

 

「フフフ。ないしょだよ」

 いたずらをセットして来たものの、それを隠せない子供のようなニヤリ顔。

 そんな無邪気な百鬼姫なきりめに思わず苦笑。

 

 ずいぶん好かれたなって言う喜びと、俺が仕組んでしまった中身だからリアクションに困ったって言う二つの意味での苦笑だ。

 

 

「そっか、わかった」

「もっかい、寝られそう?」

 体を起こして、こっちを見下ろしての柔らかな問いかけ。

 

「どうかなぁ。太陽の下で二度寝なんてしたことないからなぁ。パジャマ着てもいないから、いまいち寝にくいし」

 とはいえこのあたたかな日差しの中で寝っ転がってたら、簡単に二度寝できてしまいそうだ。

 

「って、そうだよ」

 思い出した。このまったり空気で忘れかけたこと。

「全員寝てるのってまずいんじゃないのか?」

 

 そうなのだ。この山の覇者たる鬼の護衛があったからこそ、俺達は安心して一晩眠ることができた。

 そして現状、目が覚めてるのは俺とその鬼の一人である、目の前の少女ただ一人なのだ。

 

 この状況で俺まで寝てしまうのは、後ろのテントの中で寝てる冒険者たちの話によれば、

 どうやらまずいって話である。

 

「あ、そっか。他の三人の誰かが起きてれば、ぼくがいなくなった状態でも竜馬は寝られるって話なんだっけ。

だからぼくが君たちのこと、一晩見てるって言ったんだもんね」

 百鬼姫なきりめもそのことに思い至ったようで、ばつが悪そうに苦笑いだ。

 

「どうやら俺、この時間から起きっぱなしじゃなきゃいけないみたいだな」

 若干遠い目で呟く。

 

「獣とかモンスターたち、こんなとこまで それもこんな朝早くからは来ないと思うけどねぇ」

 左手で頭を掻きながら言う鬼少女に、だよなぁ と相槌で同意する。

 

「つっても見張りを立てて寝るってのが、どうやらセオリーらしいから起きとくわ俺」

「暇だよ?」

 心配そうに言う百鬼姫なきりめに、わかってるって言いつつ頷いて、更に言葉を続ける。

 

「けど、一人で暇潰す手段ないしなぁ。どうしたもんか」

 

 

「なら、あたしが見張りかわってあげるわよ」

 振り返らずともわかる。ガサゴソと後ろのテントから出て来たのはベルクだ。

 口調のおかげで見る必要なしである。

 

「いいのか?」

 お互い眠い声で会話である。

「会話、丸聞えよ。あたし、眠りを浅くしてるからすぐ起きちゃうのよね、話し声とかしてるとさ」

 

「疲れるぞ、それ」

 俺のすぐ右に座ったベルクに、そう挨拶代わりに言う。

「寝込みを襲われるよりは遥かにましよ」

 

「リビックにか?」

 純粋に思ったことを聞いたら、

「リビックにそんな度胸、あると思う?」

 笑いながらこう切り返された。

 

「そう、だな」

「むりだろうねぇ」

 少し考えてから頷き言った俺と、またも無邪気に面白そうに笑う百鬼姫なきりめに、

 「でしょ?」と笑いを含んだ声で頷いたベルク。

 

「内輪にじゃなくて、たとえば護衛対象とかモンスターとかに襲われる可能性があるってこと」

「護衛対象に、って それ。どういうことだ?」

 驚き交じりの俺の問いに一つ頷くと、ベルクはその理由を答えてくれた。

 

 

「冒険者は戦力としては信頼される存在だけど、護衛を頼むような人の多くは、

冒険者のことをお金出せば動くドレイみたいな感覚で見てるのよ。

 

だからなにやっても気が咎めないんでしょうね、腹立たしいけど」。

 呆れた調子で吐き捨てて、なおもベルクは続けた。

 

「特にあたしたちみたいに女子率が高い場合はその傾向が強いのよね。

戦力として信頼するってことは、自分の行動如何でモンスターを蹴散らせるその戦闘能力が、

 

自分に飛んで来るって考えないのかしら、ああ言うお金持ったゴロツキみたいな奴って」

 なおも腹立たしさをダイレクトに乗せたベルクの言葉。

 なるほど、女性冒険者って大変なんだなぁ。

 

「武器持ってなきゃただの女、って考えてるのかもね」

 百鬼姫なきりめは、少し難しい顔で考えを披露した。

「なるほど、一理あるわね。ねえリョウマ?」

「な……なんだよ、急にこっち話振るなよな?」

 

 

「あんたは、そういうこと。しないでよね」

 ベルクは少しゆっくりと、軽口な調子ながら

 それでも釘を刺すような、少しだけ強い視線でそう言った。

 

「わ……わかってるよ。反撃で死にたくないしな」

 俺の言葉に反応して口を開きかけた百鬼姫なきりめを、目で黙らせる。

 生き返ったばっかりだしねぇ、とでも言うつもりだったんだろう。

 

 証拠に、また左手で頭を掻きながらの苦笑いである。

 

「わかりやすい奴め」

 思わず出た溜息交じりのひとことに、ベルクは不思議そうにこっちを見た。

 

「あ……」

「分かりやすい奴め」

 鬼少女に言い返されてしまった、からかい声で。

 今度は俺が左手で頭を掻きながら苦笑いの番になっちまった。

 

 

「中いいわね、ほんと。昨日のないしょ話でずいぶんと親密になったじゃない?」

 皮肉っぽく言われ、今度は二人であははと苦笑いである。

 

 ……苦笑いすぎだろ俺ら。

 

 

「竜馬が寝る時間も確保できたことだし、じゃ。ぼく、行くね」

「おう、わかった」

「なにしに行くかは知らないけど、気を付けてね」

 

 ありがと、と軽く微笑一つして俺達に背を向けると、右手を手の甲を俺たちに向けた状態

 つまりこっちを振り返らずに手を振って、悠々と百鬼姫なきりめは歩き去って行った。

 

「手 振るぐらいこっち向いてもいいじゃない、ねぇ?」

 同意を求める言い方で、顔を見合わせる如くこっちを向いたので、だな と一つ頷いて答えた。

 

「さ、見張りの交代時間よ。リョウマはテント入って寝てなさい。後はあたしが見張ってるから」

「わりい、頼む」

「いいわよ、起きちゃったし二度寝にはちょっと時間短すぎるからね」

 

「ってことは、太陽の位置でだいたいの行動開始時間を決めてあるのか」

「そ。行動開始のタイミングなんて、それぐらいでしか決められないしね」

 

「なるほど、たしかに。じゃ、頼むな」

 改めてベルクに言って、俺はテントに入った。

 

 

「あ、敷布団みたいのあるんだな」

 一つ誰も入ってない、敷布団と寝袋の中間みたいな物がある。

 ベルクが寝てた奴だろう。

 

 ただ人が寝てたにしては、妙にしわが少ない。

 もしかしてベルクの奴、潜らないでただ転がってただけなのか?

 

「これに……入っても、いいんだろうか?」

 これは聞いた方がよさそうだ。

「なあベルク」

 

「っ、なによびっくりしたなぁ」

 顔だけ出して声を賭けたら、本気でびっくりしたらしく 軽くビクっと目測一センチぐらい飛んで、

 ビュっとこっちをすごい速度で振り返った。

 

「そこまでびっくりするとは思わなかったぞ」

 

 目を何度もしばたかせながら言う俺に、

「で、なに?」

 と明らかに不機嫌な声色で問い直して来た。

 

 

「あ、ああ。あの寝袋みたいな奴。お前が使ってた奴、使ってもいいか?」

 若干動揺しながら聞くことになったが、聞くことは聞けたのでよし。

 

「なんだそんなこと」

 安堵したような溜息交じりにそう相槌して、「いいわよ」とあっさり許可をくれた。

 

「サンキュ、じゃな」

「はいはいおやすみ」

 不機嫌が戻り切らないまま言われ、なんとも腑に落ちない心持で、俺はテントに引っ込んだ。

 

「女子が寝てた布団……か」

 生唾を飲んでしまった。その音が自分で聞こえるほど静かである。

 

 

「……よし。寝よう」

 決意して、一度ベルクが使ってた布団に腰を下ろす。

 靴を脱いで布団の左横に置いてから、ゴソゴソと布団にもぐり込んだ。

 

 敷布団にブランケットを縫い付けたような、この布団と寝袋の中間みたいな奴。

 人が使って時間が経ってないだけあって、人肌のぬくもりが……いけね、また生唾ゴクリしちまった

 

 もとい。

 

 人肌のぬくもりが、太陽のあったかさとはまた違ったポカポカをくれて、これはこれで眠気を誘う。

 

 

 

「……布団って、こんなに気持ちいいもんだったっけ?」

 なんてことを考えるうち、俺の意識は吸い込まれるように眠りに落ちた。

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関連作品。

ゆるさんの押し事 ~ 最強竜凰さんののんびり火山生活 ~
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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