ロール11。望んで転がす他人の運命。 3転がり目。
「さてと。とりあえずいろいろ解消したことだし、夜更けのサイコロ賭博は閉店ってことで」
思いっきり両腕を上にのばして言う俺に、
「自分勝手なんですから。店主は目が冴えて寝られそうにありませんよ」
むっと頬を膨らませて言うコロコロちゃんである。
「しょうがないだろ、そっちの生活サイクルわかんないんだし」
「んむぅ」
「それに。今しかないと思ったんだよ」
ゆっくりと腕を降ろしながら、ちょっとシリアス気味に告げた。
「まあ……そうですよね。竜馬さんの体の疑問も晴らしたかったでしょうし」
一つ頷いてそう言うと、
「疑問は結局、推測でむりやり片付けることしかできませんでしたけど」
と小さく微笑んだ。
「わかりました。それじゃあ賽の目暗幕を解きますね」
「こうしてダイスをかかわらせないと話ができないのは、寂しいですね」、と今度は薄く笑う女神。
「あ、そうだ」
「えっ、なんですか?」
びっくりした様子で、たたらを踏んだコロコロちゃんに
「ああ、わりいな」と苦笑して、一つ残ってた疑問を口にする。
「なんで今回、この空間ちょっと違うんだ? 外の音っぽい低くうなる風の音がしたぞ?
それに、体が締め付けられるような感覚もあったし」
「それは、あなたの側からわたしを呼んだからです。
わたしが自分でフィールドを展開した場合は、
世界の外から干渉することで世界に影響することなく時を止めることができます」
「そうなんだな」
やっぱり、時を止めるってさらっと言ってんのすごいよな。
「ですが今回は、世界の内側からむりやり外へと干渉しました。
なので、、わたしが自分の意志で干渉する場合の、
世界を包み込むようにして時を止めるのと勝手が違うんですよ」
「そういうもんなのか」
半ば聞き流すような形で、コロコロちゃんの時止め原理を聞くしかない。
申し訳ないとは思うが、時を止める原理説明されても、なんのことやらだ。
「はい、今回はですね。竜馬さんと言う支柱を使ってわたしの影響を世界全体に拡散しています。
そちらの空間を言うなればむりに押さえつけるような形で時を止めていますので、
フィールド外の世界の圧力が、竜馬さんを締め付けた感覚の正体なんだと思います」
「なるほどなー」
「あぁその顔っ、ぜっったいわかってないですよねっ?」
睨んでるつもりなんだろうけど、表情が柔らかいため
少し目付きがきつくなったところで、迫力がぜんぜんない。
更に続けて、「これっぽっちも理解できてませんよねっ??」と声を張った。
これっぽっちと言いつつ、自分の右手の小指の先っぽを左手で指差している。
「はい、すいやせん」
苦笑い台詞の変声になってしまった。
聞いたのはたしかに俺だ。とはいえ、ただの人間風情に
神様のお力の仕組みを解かれても、ちんぷんかんぷんなのである。
「今さっきもいいましたけど、竜馬さんからわたしに接触を試みたために、
今回の時間停止時にはわたしが時間を止めた時とは違った状況になったんです」
めんどくさそうに、まだ頬を膨らませての
再解説をしていただきました、はい。
「あ、はい、わかりました。そういうことっすね」
「んもぅ。いいです」
完全にいじけさせてしまった。
「……うん。なんか。すまん」
どんより声になってしまうのは、むりからぬことだろう。
「帰ってください、あなたの時間に。
また、止めますから、それまでお別れですよ」
「……ああ。そうだな」
もうひたすらごめんなさいの気持ちである。
「それじゃ」
くるっと勢いよく背を向けたコロコロちゃんは、振り返らず空間ドアに手を書けた。
ズウンと沈んだ心の俺は、なにも言えず背中を見つめることしかできない。
空間を自室と繋ぐためガチャリと開けたダイスの女神コロン・コロンは、思いもよらないことをした。
「グッドラック。です」
首だけをこっちに向けて、ふっと小さく微笑んだのだ。
ーー強いんだか弱いんだかわからないな、この娘っこは。ほんとに。
「……かはっ」
俺は今までずっと、空間の圧縮とやらへの締め付けを喰らってたらしく、
とたんに空気がスムーズになった。
息を止めてるのに耐えきれなくなって思いっきり息を吐き出したのと同じように、
肺の中の空気を一挙に吐いた。
そしてその、俺の息をトリガーにしたように、うねる低い風の音が少しずつ大きくなり、
それは俺に耳鳴りをよこした。
そのキーンに思わずきつく目を閉じる。耳鳴りがフェードアウトして行くと、かわりに空気がかわった。
しめつけのない涼しげな感じになったのだ。
ゆっくりと目を開ける。俺の視線の先には、二本角の女の子。
時が止まったことなど当然気付くこともなく、ザッザと夜の道を進んでいる。
「戻ったか」
小さく音を転がす。声に気付かれたのか、鬼娘が少しこっちに顔を向けるがそれ以上問いは来ず。
俺との距離を測っただけだったのか、歩調を少し緩めた様子だ。
ふっと短く息を吐き、一つ、深く呼吸してから数度まばたき。星の光に目を慣らす。
そうしてから俺は、百鬼姫の後をただぼんやりしていたかのように装って、
少しだけ早足の大股歩きで追いかけた。見失ったらまずいからな。




