ロール11。望んで転がす他人の運命。 2転がり目。
「わたしはその、他人の運命を動かすと言う力を持つ女神です。その力を使うことに、
状況によっては今回みたいに他者に使わせることにも、重みは感じません」
「そう……か」
これが、人と神との違い……なんだろうか?
外枠から見ることしかできない神と、内枠でしか動けない人間の違い。
なんだか、ゲームとプレイヤーの関係に似てるな。
「ただ……」
少しトーンの沈んだ声に、思考を止められる。
「出た結果が悪かった場合は、責任感じちゃいますけど」
コロコロちゃん、微笑に苦笑いしてそう言った。
超越存在然としてないのが、こいつのいいところだと、やっぱり思う。
「じゃあ、よかった時は?」
期待を込めて問いかける。
「勿論、嬉しいですよ」
ニコリとかわいらしい笑みと共に、目の前の女神はテーブルを右手で指差した。
意図が捉えられないまんまで、俺は指の指し示す先に目線を落とす。
「目は、1と3……4か」
目線を上げて、「で? そんな顔してるってことは?」と尋ねる。
「はい。竜馬さんから頼まれた今回のダイスロール。
その達成値、つまりいい方に傾くために必要な出目は
二つの合計が4以上」
「つ、ま、り」って嬉しそうな声色で溜めを作りながら言うのと同時に右手を、ゆっくりと持ち上げたコロコロちゃん。
なにをするのか、なんとなく読めた。
「達成です」
笑顔でハイタッチをしかけて来たので、俺も口角だけを喜ばしく上げてそれに答えた。
「よし」
思わず声が出ていた。
「なあ、ところでさ」
うまくいけた喜びの余韻に浸ってから、俺は一つ。
さっき推測したことを、当人に尋ねてみることにした。
「なんですか?」
「俺が変身できたことに関して、ちょっと聞きたくってな」
「変身、ですか?」
「そう。変身能力付与の話の時、
魔力がうまく扱えない人間にしちまった、
って言ってただろ?」
「はい。そのかわりに変身能力を使えるようにしましたよ?」
なにを今更って感じで、首をかしげて聞き返して来た。
「けどな、その理屈。通らなくなってるんだ」
「どういうことですか?」
今度は驚きを含んだ調子で尋ねて来た。
ので、俺は百鬼姫に説明された、竜に変身できる魔法について、
竜への変身には多大な魔力が必要で、
燃費が凄まじく悪いってことで、開発されて早々に封印された魔法なこと。
今の時代では、唯一無二の使用者が俺であること、
こうかいつまんで話した。これで要点は抑えられてるはずだ。
「そう……なんですか」
あっけにとられて抑揚が静かになっている。どうやら、よっぽどに想定外のことみたいだな。
一つ頷いて、「で」とつなぎに一文字置いてから、俺は続きを話した。
「俺は魔力を潜在的にものすごく持ち合わせてたゆえに
竜への変身魔法が使えたらしいぞ」
「そうなん……ですか」
信じられないってニュアンスで、ぼんやりした声で呟くコロコロちゃん。
それに「らしい」って相槌打ってから、更に言葉を並べた。
「んで、ベルクたちに俺の魔力が探知できなかったのは、あの世界の構造上の理由なんだってな。
あの世界じゃあ魔力を一度も使わないでいると、たとえどれだけ巨大な物を持ってても宝の持ち腐れで、
おまけに潜在魔力は人間では感じとれないんだそうだ」
相槌を打つように、世界と魔力の仕組みについての話には、
こくこくと頷いているコロコロちゃん。流石管理者だな。
「だから、俺がおかしな存在なんだってことを、あいつには転移された瞬間から感づかれてたらしい」
ここまでで一度言葉を切る。おそらく女神の恩恵の影響で、
魔力を使うことが苦手って言うデメリットが解消されたんじゃないか、って言う推測はまだ言わない。
目をパチパチしながら表情が固まってる今のコロコロちゃんには、
これ以上の情報はオーバーヒート物だろうと思ってのことだ。
「 『あの』世界、ですか。流石に一日じゃしっくり来ないんですね」
感心する意味で面白がってる様子で言う。
「あ、ああ そうか。『この』世界って言わなきゃいけないのか」
「そうですね。今いる世界があなたの生きる世界なんですから」
「そう……だよな」
言われて、俺が今いる世界をどこか遠く感じてることに、何度目か改めて思わされた。
答えた声にも、少しシリアスが入った。
状況は理解してるんだけど、まだ腑に落ち切ってない部分がある。
一日経ってないからしかたないっちゃ、しかたないのかもしれないけど、
同時にこの違和感めいたズレは早々解消できる気がしないとも感じてるんだよな。
「あの、ところで」
「なんだ? 遠慮がちに」
まだ少し重みの残る、自分でわかるほどけだるい声色で返す。
「なきりめさんって、誰ですか?」
コロコロちゃんの声が不可解を帯びている。
「え?」
間抜け声が意図せず出てしまった。
まったく思いもかけなかった問いだったからな。
「鬼の娘、なんですよね?」
不可解を乗せたまま問いかけて来た。
「あ……ああ。そっか、そうだよな」
面喰ったぜ。けど、思い出した。
「コロコロちゃんが寝てる最中だもんな。俺達が百鬼姫にあったの」
こいつ。寝起きだったんだよな。
ダイスロールの緊張感で記憶から飛んでたわ。
「物言いからすれば、今いる山の持ち主みたいなんだけど」
「たしかに、あの富士山は鬼たちの領域ですね」
「そうらしいな。百鬼姫の言い方が、
なんか あいつが鬼を仕切ってる、みたいな感じなんだよ」
「そうなんですね」と理解したニュアンスで、考えるように呟いたコロコロちゃん。
「って、いいんですか? そんな人を山から下りるようにしむけちゃっても?」
驚くコロコロちゃんにそう言われて、
「あ……ああ、そうだよな」
しまったなぁって言う後悔の念が湧いて来た。
「けどまあしかたないですね。もう、運命は傾いてしまいましたし」
運命は決した、とは言わないんだな。
自分の力が、運命を自身の意志で決めるたぐいの物じゃないからだろうか?
「そんな、『あ~あ、やっちゃったなぁお前』みたいな、呆れた声で言わないでくれないか?
地味に傷付くぞ」
「だって。ねぇ?」
「ねぇじゃねえよ、誰に同意もとめてんだよ」
こっちも腹立ちまぎれにやれやれ声だわ。
楽しそうにフフフとか笑ってるけどさこの女神さまは……!
「それにしても、驚きましたよ」
「なにがだ?」
「まさか竜馬さんの側からわたしを呼んだ上に、
ダイスロールしたいなんて言うとは思いませんでした」
「それこそ賭けだったけどな。応じてもらえてなによりだぜ」
「わたしとあなた、仮にも博打仲間です。
それに、わたしはあなたがダイスを転がすところを見たい、とも言いました。
応じない理由はありません」
と、喜色のたっぷりこもった声で言った直後に、
「叩き起こされましたけどね」
そう楽しげな苦笑で続けた。
「そっちと条件は同じだぞコロコロちゃん。
そっちが時間止めるのだって予告なし、俺がそっちを呼んだのも予告なし。
条件はフェアだ」
微笑と共にあえてのマジレス。
「むぅ」
「博打はフェアで、初めて成り立つ。違うか?」
もっともらしいことを言ってみた。
ガチのギャンブル経験はないので、完全に雰囲気で吐いた言葉である。
「そう……ですね」
が、この様子だとどうやらこの論法、間違ってはいないらしい。
「でも、むりやり起こされる身にもなってくださいよ
。ぐっすり寝てたのに遅刻するわよーって起こされた心境。
わからないあなたじゃないですよね?」
「生々しいたとえすんな」
思わずぶっきら返しだ。こうもなろう。
「フフフ。丁々発止楽しいですね、やっぱり」
言葉通りの柔らかで優しい声だ。
俺がマジレスを、本気で心の底から混じりっけなしにしたとは、どうやら思ってなかったらしい。
まあ、笑み浮かべて言ってりゃ読まれるのは当然か。
「寝起きでもよく回る頭だな」
素直に感心すると、
「あんな緊張した顔でダイス振られちゃ、眠気なんて飛びますよ。
緊張、移っちゃいましたから」
尚も柔らかに答える女神だ。
「ほんと、オーラないよな、コロコロちゃん」
「よく言われるんですよねぇ」
苦笑い。
……ん? 今の俺の言葉がすんなり会話として成り立ったってことは、
もしかして雰囲気を刺してオーラって神様の間でも通用する言い回しなのか?
それとも、コロコロちゃんが理解してるだけなのか?
「ああ、神様の間でも神様らしくないって言われてんのか」
ちょっとかわいそうだな、それは。
けど俺転生時の話を聞く限り、神様内での扱いは悪くなさそうでほっとする。
愛されキャラって奴なんだろう、この女神のように見える少女……じゃない、
少女のような女神は。
「竜馬さん」
「どした改まって?」
「いえ、その。どうして魔力がうまく扱えないはずの竜馬さんが、大きな魔力を持つことになったんだと思いますか?」
お、言おうとしてたことへのいい振り。
「俺はクリティカルの恩恵なんじゃないかと思う」
「女神の恩恵の?」
「ああ。クリティカルのメリット補正で、魔力に対する苦手体質が緩和された結果。
竜への変身って能力が世界に合わせた形に変化したんじゃないかなー、ってな」
「なるほど」
「でもないとコロコロちゃんの言葉との整合性とれないし」
「そうですよね。全部推測ではありますけど、納得です」
「それでいいと思うぜ。俺に補正を施した本人が想定してない状況になったんだし、
納得できるように推測して、理由付けするしかないからな」
俺の肯定にふぅと一息吐いて、
「竜馬さんの頭が柔らかくてよかったです」
と安堵の表情で言うコロコロちゃんだった。




