ロール9。後始末と予想しえない展開っ! 2転がり目。
「もし変身解除を試すんなら、この解体した奴をなんとかしてからにしてくれる? 輪切り一回だけじゃまだ足りないわよ、どう見ても」
「だよなぁ」
またもうんざりと答える俺だ。
「これ、絶対夜までかかるよね」
リビックまでがゲッソリと、疲れた息と共に吐き出した。
「そうね。しかたないわよ、こーんなでっかいんだもの」
後ろを指差して言うベルクの声にも、疲労感が乗っている。
「それでしたら皆さん。体力、回復いたしましょう。そうすれば作業効率、上がると思いますので」
その言葉を聞いたベルク、ロウザ・ボルガを自分の背後に軽く投げた。
カラン カランと槍が地に落ちた甲高い鉄の音がした。
確認したレイナはまずベルクを思いっきりハグし「癒しを」と柔らかに告げた。白い光が二人を包み込む。
これはさっき、俺の付かれを取ったのと同じやり方だ。
「ありがとレイナ」
ベルクのお礼を聞いて、レイナは体を離す。ある程度離れたところで、ベルクはおもむろに腕を前に伸ばした。
そして、そのまま腕をぐるぐる回し始めたのだ。
oh! 流石レイナほどではないものの、見事なふくらみをお餅 いや、お持ちのベルクさん!
腕を回す動きで、そのふくらみが上下に激しく揺れておらっしゃられるっ!
「うんっ」
腕回しを終えて、そう満足げに一つ元気よく頷くと、
「おかげで体が軽くなったわ」
と右拳を右胸前で握り込んで見せた。
「よかったですわ」
ニコリと微小のレイナ。
「ありがとうございます」
いけね、つい本音が……。
「……なんでリョウマがお礼するのよ?」
「え、あ、いえ。なんでもねーっす」
慌ててごまかすしかなかった。
「じゃ、次はリビックさんですわね」
そう言って、レイナは「え、あ、ぼくは……」と慌てるリビックを無視してハグをしてしまった。
リビックの顔が、炎のエレメントなしでも燃えるように赤くなった。無理もないよなぁ。
一方レイナ、「癒しを」を一つ微笑みの後に施した。
自分のカラダツキについて、魔力関連を覗いて無頓着なレイナのことだ。
自分のカラダツキのすさまじさによって、リビックが真っ赤になったとは思ってなさそうだけど。
「はぁ……」
リビックは、緊張から解放されたようなほっとした顔で、疲労の乗ったような息を吐き肩をすくめた。
そのリアクションを見て、レイナは不思議そうに首をかしげている。
やっぱり、自分のカラダツキが原因で真っ赤になったとは思ってない。
「あの、もしかして回復魔法……効かなかったんですの?」
ほらな。
「え、ああいや、そんなことないよ。ぼくだって、体すごく軽くなったし」
「そうですか? そのわりには疲れた顔していますけれど?」
「ほんと、だいじょうぶだから。ほんと、だいじょうぶだから」
両腕を左右にブンブン振って一度目を、小さな声で 動きを止めて二回目を発した。
この噛みあわない会話で、ベルクがククククっと堪えきれない様子で笑い出した。
俺がレイナに回復魔法かけられたことを弄っただけあって、この辺の男の心理って奴はわかってるようだな。
「ん?」
一方このお嬢様の方は、まだ不思議そうである。男心がわからないらしい。
わかってたらこんな気軽に、ホールディング回復魔法を異性になんてかけられないかもしれんけど。
「えっと。それでは、最後にリョウマさんですわね」
変な空気になったと思ったようで、多少困った風ではあるが、俺に視線を向けて来た。
「やりにくいだろうけど、頼む」
「はい。できれば、なのですが。翼、たたんでいただけますか? そうすればやり易いと思いますので」
「ああ、やってみる」
おそらくは、自分を抱きしめる感じで腕を体に巻き付けるようにすればできるはずだ。
「よし、いけたな」
「ありがとうございます。それでは、いきますわね」
そう言うと、大きく両腕を広げてから、抱き枕でも抱くようにギュウっと包み込んでくれた。
ーーああっ! 人の姿でしてほしかったーっ!
それでもこのトンデモないと形容したくなるほどの、
見事すぎる双つの山脈の柔らかさが、このドラゴンの身体ですら感じとれるんだからっ、
なんてすんばらごいしろものをお餅なんだレイナ以下略クロシーアーッ!!
「はい、終わりましたわよ。リョウマさん」
治療が住んだことを教えるナースのような柔らかい言い方で告げられた言葉。
「う、あ、ああ。ありがとな」
あぶなかった。あまりのレイナ山脈の素晴らしさに、体内に疼いた熱を咆哮と共にファイアブレスとしてぶっぱなつところだったぜ。
なんて説明台詞を吐くほどにギリギリだったのです。
「ふぅぅ……」
おちつけるんだ。この高ぶりを……。
「ど お し た の よ、リョウマ?」
「お前、なんの息だか理解して言ってるだろ」
俺の左のほっぺたを突っつきながら、からかい声と顔で言うベルクに、軽く睨んで言い返した。
フフフ、と楽しげな柔らかい微笑一つ浮かべて、そうしてからベルクが、
「よーっし、三人の体力が回復したことだし。続き、やるわよ!」
右腕振り上げて気合一発。
「おお!」「よし!」
誘われて、俺も どうやらリビックも気合一発。
作業、後半戦 開始だ!
***
「「「おわったあああああ!!」」」
夜の、星煌めく空に俺達の疲労感をドッサリ乗せた叫びが轟いた。
「ちょっと皆さんっ、静かにしてくださいなっ。
今は夜、獣やモンスターが昼間より危険な種が活動していますわ。
彼等は異音に敏感ですし、それを排除しようとします。
そして、それは狩りでもあります。ベルクローザさんにリビックさんはおわかりのはずですわよね?」
静かに、しかし 明らかに圧を孕んだ声。思わず背筋がビシっと延びてしまうほどの圧。
大人しい人ほど怒らせると怖い。これが、その見本だとでも言わんばかりである。
「「失礼しましたっ」」
ビキっと背筋が伸びるを通り越して、固まったようになってる二人。
「謝るのならリョウマさんに、です」
「俺?」
「ええ。わたくしはある程度でしたら戦闘をこなすことができます。ですがリョウマさんは、まだ戦闘には不慣れの様子です。
それに、まだリョウマさんは冒険者ではありません。そんな方を。言うなれば護衛対象のあなたを、
危険な生き物との戦闘にさらすなど、三流のすることですわ」
「レイナ」
語るその言葉にレイナの冒険者としてのプライドが見えて、その名前を呟くことしかできない。
静かな、そして柔らかい少女の中に、これほどの強さが秘められてるとは。驚かされるぜ。
なんて、また漫画漫画した言い回しが出て来ちまった。
これも、コロコロちゃんの主人公補正括弧推測の影響なんだろうか?
「改めて、皆さん。耳を澄ましてください。周囲に異音がしないか確認しましょう」
「ええ。そうね」
「そう、だね」
ベルクもリビックも、そしてレイナも周囲の警戒をするらしい。
「せっかく聴覚が強化されてるんだから、俺も手伝わせてもらうぜ」
「そうなのかい?」
リビックの問いかけに、ああと頷いて答える。
「警戒役としては頼もしいわね。でも、レイナの回復魔法をあてにして、むりはしないこと。いいわね?」
「わかってる。レイナだって、魔法けっこう使ってるし 疲れてるだろうからな」
言って俺も耳を澄ませる。全身の神経が気を立ててる感じがする。意識を集中したからだろうか?
「とりあえず、なにか動いてる音はしねえな」
「ええ、そうですわね」
「こんな山の頂上になんて、そうそう獣もモンスターも来ないと思うわよ」
「油断はよくないよベルクローザ。けど、たしかにそうかもしれないね」
疲労からか、あまり意識を集中していられないようで、とりあえず安全であることが確認できた俺達は、全員同時にはぁと疲労の乗った息を吐いた。
「今日はここで野営かー」
ドサっと腰を下ろしながらリビック。野営ってたしかキャンプのことだったか。
「リビックの荷物ん中に準備があるのか? とてもそうは見えないけど」
尋ねてみると、「一応は入ってるよ、寝るだけの物なら」と答えられた。
「そうなのか」
寝るだけの奴。寝袋でも入ってるんだろうか?
「でも、ごめんリョウマ。君の分はないんだ」
「そりゃそうだろうな、飛び入り参加みたいなもんだし。どうしたもんかなー」
「そこらの地面でも燃やして暖取るとか?」
「寒くはないんだよな、現状」
「眠りたい、わけなんですわよね?」
「ああ。人の姿に戻れれば寝っ転がれて楽だと思うんだよ。
けど、ドラゴンから戻る方法わかんねえしなぁ」
「じゃあ、寝られないついでに見張り頼むわね、リョウマ」
「平気な顔して……鬼かお前は……」
ゲッソリな声になってしまったのは、無理からぬことだろう。ことであろう?
「鬼、ってなによ?」
「それは、どういう意味で言ってるんだ? 鬼ってどういう意味だよこのヤロウなのか?
それとも、鬼って存在そのものについて聞いてるのか?」
「後者よ。鬼なんての、聞いたことないもの」
「そうか……」
「それもニホンって奴のなにか?」
「まあ、な。うーん、簡単に鬼がなにかを言うとだな」
「うん」
頷いたベルクに答えて、俺が鬼について説明しようとしたら、レイナが直前に口を開いてしまった。
ーーこのタイミング。猛烈に気力が萎えるんだよなぁ。
ってことで、レイナに解説を譲ることにした。




