ロール9。後始末と予想しえない展開っ! 1転がり目。
「ほら、二人とも。早く始めないと日が暮れるわよ」
リズミカルに手を叩くベルク。それを恨めしげに睨む俺。
「なによ二人でそんな顔して。言ったでしょ、あたしの荊棘弦巻く魔槍じゃ綺麗な切り口にはならないって」
どうやらリビックも同じような目で、ベルクを見ていたようだ。
「俺の五本爪でも似たようなことになる気がするんだが?」
「それに、荊棘弦巻く魔槍で直接切る必要はないじゃないか」
「え?」
「本気でわからないって顔だねベルクローザ」
「え? なによ、どういうこと?」
「そっか。これまでぼくにこの手の作業を全部任せてたのは、そういうことだったのか」
「ちょっと、どういうことなのよリビック。もったいぶってないで教えなさいよ?」
なにやら俺たちを蚊帳の外で、幼馴染トークが展開されている。思わずレイナを見てしまう俺。
「なにか、荊棘弦巻く魔槍で、うまく綺麗に切る方法をリビックさんは知っているようですわね」
「だよなぁ」
「魔力を刃に流して、その状態で切ればその特徴的な刃の切り傷にはならないはずだよ」
「……ああ、そっか! そういえば、魔力を飛ばした時はスッパリ切り傷が真っ直ぐだったわねっ!」
パンっと、両手を胸の前で組みハっとした様子だ。
「き……きづいてなかったんだ、今まで」
苦笑してるなリビック。
「たしかに、魔力を宿した状態のベルクローザさんの斬撃の傷は、無数の刃での傷ではなく真っ直ぐ一本だけですわね」
「改めて考えないと気付かないもんなのか?」
「ええ。そこまで注意して切り傷を見ることはありませんので。リビックさんは、わたくしたちよりも、もしかしたら細かいところまで目を向けているのかもしれませんわね」
「なるほどな」
ただのビビリかと思ったら、実は縁の下の力持ちだったのか、リビックって?
まあ、その知識が発揮できないんじゃ意味ないけど。とはいえ、今回はもしかすると役に立つかもしれない。
「でも、使い手まで斬り傷の違いってわかんないもんなのかね?」
「どうなのでしょう。わたくし武器に関してはわかりませんので」
申し訳なさそうに言うレイナに、
「気にすんなって。レイナの戦い方を見れば、そうだろうなぁってのはわかるからさ」
と思ったままを伝える。
ありがとうございます、と軽く頭を下げるレイナに、一つ頷きを返す。
この世界でも、会釈はお礼にも使われるんだな。
「ベルクローザさんは、わりと細かいことを気にしない人ですから。彼女がとりわけ斬撃の痕を気にしていないのかもしれませんわ」
「けど、武器の持ち主がそれなのは、やっぱ問題なんじゃないのか?」
「そうかもしれませんわね」
と俺に頷いて、
「これまで切り傷の違いを友好的に活用する必要性がなかったのは、運がよかったのかしら?」
とひとりごちた後、不意にカチャリと鉄仮面を掴んだレイナは、ゆっくりとそれを持ち上げる。
後ろから「咲け、荊棘弦巻く魔槍」」の声がした。どうやらベルクも解体作業に加わってくれるようだ。
リビックの縁の下の力持知識が役に立ったな。手数が増えて助かるぜ。
「ふぅ」
鉄仮面を脱いで、それを胸の前に抱えてから、疲労感たっぷりの深い息を吐いたレイナ。
久しぶりに見えたレイナの顔は、その息にたがわずすっかり疲れ切っていた。
「お疲れさん」
「ありがとうございます。けれど、まだそれを言うのは早いですわ」
「どういうことだ?」
「あたしたちには仕事があるでしょ。それに、レイナにもね」
俺とレイナのやりとりを、どっからかわかんないけど聞いてたようで、ベルクはなにげなく混ざって来た。
その言い方は諭すよう。
「レイナにもあるのか?」
「ええ。皆さんが解体に専念できるよう、わたくしは周囲を警戒いたします」
つーかー、って奴か。仕事があるとだけ言われて、周囲の警戒に思い至る。
俺もこいつらと、そこまでの仲になれるだろうか?
元異世界の民、って言うへだたりのある俺が……。
「むりすんなよレイナ」
「ありがとうございますリョウマさん。ですが、心配いりませんわ」
そう言うと、俺達から少し距離を取り ゆっくりとそのまま俺達の外周を歩き始めた。
「ああいうタイプが一番心配なんだよなぁ」
呟いた俺に、「そうね」と小さく答えたベルク、
「よっし。始めましょっか」
一つ頷いてから、気を取り直したように、ガシャリ、槍を持ち直して気合を入れた。
「そうだね。ベルクローザが加われば時間もかなり短縮できるだろうし」
「やれやれ。お前らの体力は底なしかよ」
俺一人だけが、ゲッソリしている。
コロコロちゃん補正で身体能力と身体そのものが強化されてても、変身に二度のブレス、それと慣れない体での慣れない動きで、体力をかなり消耗してるのが自分でわかる。
ーーぶっ倒れないだろうな、俺?
***
「「「終わったあああ!!」」」
太陽が少しだけ傾いた空に咆哮した俺とリビック、そしてベルク。
作業開始してすぐに、後ろからレイナが鎧を脱いでるだろう音がし、更に続けて「絶対みないでくださいね」と言ったかと思うと、そのままなにやら衣擦れの音までしていた。
あれは間違いなく着替えていたっ!
見ようとしたが、既に少し解体作業が進んでいたので、首をひねるにしてもうまく見えそうになく、そもそも角度的にこのながーい首では振り向ける状態でもなかった。
そうやって生殺しで煩悩に耐えながら、ひたすらネクロノミコンダを解体していった。無心になるしかなかった。
「もう……腕がパンッパンだぜー」
疲労満載の高音で、開放感を声にのっけた。
見た感じには特に変化ないかもしれない。けど、ほんと 腕がパンパンなのである。
「ぼくもクタクタだよ~」
リビックは持っていたカイナベルを投げ捨てるように地面に置いて、深い息交じりに言いながら膝をついた。
言葉通りかなり疲れたらしく、肩で息をしている。
一方俺は、膝をつくことができないので、せめて疲労を少しでも紛らわそうと、体をめいっぱいのばsっ!
「ギャ アア!」
絞り出すような、高い声が出ていた。
延ばしたとたん、腕がピシイーってなったのだ。そう……おそれていたことが現実になったのである。
「どっどうしたんですのっ?!」
驚きと心配の混じった声でレイナが叫んだ。
「う……うでが、つった……さわるな」
自分でどこを見てるのかわからなくなりながら、レイナにそう告げる。
張りつめたまま動けない俺を見て、女子二人が笑いだした。
リビックまでが苦笑のように乾いた笑いを漏らしている。
「ちきしょー! 腕つったこの感覚を知らないわけじゃなかろーがー!」
悲痛な叫びは、少女たちの笑いを続ける起爆剤にしかならなかった。
おのれなんて奴らだ……!
「ところで。一つ気になってんだけどさ」
少女たちの笑いが収まったのを確認して、無数に分割された蛇の巨大な輪切りを見下ろして、俺は誰にともなく発した。
なんとか腕釣りは収まってくれた。よかったよかった、マジ ほんと。
「なに?」
返事をしたのはベルクだ。
「こいつ、なんで一滴も血がないんだろうな? 体ん中にいた時には、たしかに鼓動みたいな音が聞こえてたのに」
「あたしの刃にも、リビックの刃にもそういえば血がつかなかったわね。体にも」
「もしかすると」
とはレイナ。一斉に俺達は体ごと後ろを向いた。
やっぱり、さっきの衣擦れの音は着替えてる音だった。鎧を着る前はドレスみたいな黒い服だったけど、今は……色違い、なのか?
緑色の似たようなドレスっぽい服だ。
レイナって、基本的に濃い色が好きなのかもな。
「屍皇竜は無数の命を取り込みその死を糧としていました。
既に血は枯れ果てていて、命をああして取り込み操らなければ、生きていられなかったのかもしれません」
目を伏せてそう言うレイナに、なんとも重苦しい空気が流れる。
「屍皇竜の領域は不浄な物が満ちていました。導明網必櫃落椅による体内の浄化によって屍皇竜が倒れ、
それにより屍皇竜の領域は消滅しましたわ。
既に聖防御結界は解除してありますが、
それでもわたくしたちに影響がないのがその証拠です」
「解除してたのか」
驚く俺に、「ええ」と軽く頷くレイナ。そうだったんだ、とハモるベルクとリビックである。
「あの不浄な呪いのような臭気は、もしかしたら屍皇竜の命だったのかもしれませんわね」
ふぅ、と短い息を吐いたレイナ。その息そのものが、なんだか重たい。
「ところでリョウマさん」
空気を変えようとしたのか、少し明るめにこっちに話を振って来た。
「なんだ?」
「その変身、解除 できませんの? その状態で町に行くのはお薦めできませんけれど」
「……そうなんだよなー」
困り顔になるしかない。
「変身の仕方は流れ込んで来たけど、解除の仕方 わかんねえんだよ」
「そうそう。『わかるはずがないあたし』に尋くぐらい、わかんないのよねぇ」
ベルクがおどけた調子で言った。
「そんなお前からの答えは回し蹴りだったけどな」
苦笑いを返すしかない俺である。




