ロール8。初の勝利はほろ苦く。 2転がり目。
「レイナ。今なら中のゾンビたち、まとめて浄化できるんじゃない?」
「たしかに、あれだけ大きな孔が空いたのなら可能ですわね」
「まとめて? レイナの魔法って、単体にしか機能しないんじゃないのか?」
聞いてみると、「そんなことないわよ」となぜかベルクが否定した。
「なんでベルクが言うんだよ?」
「忘れた? 聖防御結界は、一度にあたしたち三人にかけてたでしょ?」
スルーされたんですが。
「あ、そういえば」
思い出した。三人に向かって純白の光の十字架が飛んで行ったのを。
「それと同じことよ。防御ができれば攻撃もできる、そういうこと」
「うなり声が少し、かわりましたわ。早くしませんと浄化の魔力、注ぎにくくなりかねませんわね」
一つ、深く息を吸ったレイナは、
「フィスナ、ドゥレシャッハ」
たぶんあの巨大な傷口を魔力の注ぎ口にしたいんだろうけど、
「レメンドラケス、ノスジュ」
今レイナは俺の方を向いたまま、つまりまったく見当違いの方向を向いて呪文詠唱をしている、
「メスタリテ、コスティーヤナン、ホリアナ」
今ネクロノミコンダの巨大な傷口が見えないからだろうな。
「レイナ、蛇が起き上がり始めたわ。タイミング合わせて!」
ベルクの声に頷くレイナ。
「ルピトハッシ」
グググ、ググググ。巨大で長大な蛇 屍皇竜ネクロノミコンダが、その体を持ち上げるため、ゆっくりとトグロを巻くようにうねり始めた。
「こいつ。傷口を隠すつもりかしら?」
睨むように見据えるベルク。
「けど、あれだけでっかい傷だぞ。そう簡単に隠せるもんか?」
「この巨体よ、やれるでしょう」
「なら、ぼくが!」
シャキン。剣を抜いた音が、二つ同時に聞こえて、かっこいい不協和音を立てた。
「よかった、カイナベルそっちに戻ってたか」
安堵の息交じりの俺の声に答える余裕がないらしく、リビックは緊張した面持ちでトグロを巻き続けるネクロノミコンダを凝視している。
「信じらんない。リビックが積極的に攻撃しようとするなんて」
油断なく槍を構えたままで、ベルクは言葉通りの表情と声色でリビックを見ている。
「普段、ほんとに戦わないんだな、リビックって」
「そうなのよ。逃げてばっかりで、やれても囮がせいぜい。
それでも切り札はあるけど、ほんとに一発こっきりだから使い時を本人も決めらんないみたいなのよね。
だからあたしたちが、先制攻撃で使うって決めてあるの」
「切り札、例の炎魔法か」
「そ。どうもあんたのおかげで、いいとこ見せたい なーんていっちょまえに、先輩冒険者の気概が芽生えたみたいでね」
「俺のおかげ、なのか?」
「そうとしか考えらんないもの、さっきからのリビックの積極性」
「そうか……」
まったく予想もしてなかったぜ。俺の存在が、リビックに大きな変化をもたらすなんて。
俺も信じられない心境だけど、ドラゴンの顔じゃ相手には伝わらないだろうな。
「見えた!」
自分に言い聞かせるように呟いたリビック。横幅の狭めな例の傷口、そこに駆け込んだ。
「ぐっ!」
力を込めて、両の刃を左右の皮に、刃中央辺りで切り付けることで噛ませた。
「んええやあああ……!!」
そのまま足を肩幅に開いた状態で、刃を左右に押し込んで行く。
ネクロノミコンダから、俺達の頭上から苦痛の声が聞えて来る。
「嘘っ! 傷口を……広げようとしてる、あのリビックが。
逃げ回ってあたしに戦闘を任せっきりのリビックが……!?」
「ほんと……ひでえんだな……」
それしか言葉が出なかった。
「なら」と槍を持ち直したベルク。
「あたしも傷、広げましょうか。リョウマも手伝って」
「どうすんだ、リビックが傷口の真正面陣取ってるんだぞ?」
「大丈夫よ。ああやって左右同時に傷口を広げようとする限り、絶対限界が来る。それも、わりと早めに力を入れられなくなるわ」
「なんで言い切れるんだ?」
「だって」
「も、もう無理だっ」
言うと、刃を引いて斬り傷を僅かにでも付けようとしつつ、リビックは傷口の前からどいた。
「人間、開ける腕の角度には制限があるでしょ? おまけに斜め前に進め続けるとなったらなお広げられる角度は小さくなる」
「なるほど、だからか。で、俺はなにをすればいい?」
「あたしは」
魔力を注ぎ込んだようで、穂先に薄桜色の光が宿った。
「上に開くっ!」
言って踏み込み、一度下に落とし、そして振り上げるまるでアッパーカットのようなスィングを傷口に斬りこんだ。
その魔力のおかげか、リビックの時よりも蛇の苦痛の声は大きい。
うるせえ! 耳が壊れそうだ! 頭が割れそうだっ!
「リョウマっ! アンタはその爪で、傷口を下に広げてっ!」
ベルクもこの蛇の絶叫に顔をしかめながら、必死な調子で叫んだ。
「わかったっ!」
そして、ついでに一撃くれてやる。
そのため、できるかわからないものの、さっき体内に渦巻いたブレスの元をまた体に巡らせるようにイメージをする。
こい。こい。こい! 俺の中の熱!
……よし来た! 集まって、上がってこい!
体内にめぐった熱が、ゆっくりと まるでねばつくように気道へとうねり始める。
「まずは一撃っ!」
おかしい。喉に熱が集中してるっていう体内の状況なのに、思わず出た言葉は普通に発することができた。
「っ!」
呼気だけを吐き、這いつくばるように 倒れ込むように腕を振り下ろす。
思った以上に勢いのついた俺の翼は衝撃を伴った風圧を生み
そして爪での一撃は、まるでうっかり布を裂いてしまったような感触で、蛇の皮膚を切り裂いた。
ファイアブレスのために練った熱……たぶん魔力のおかげか、体内脱出の一撃よりも、皮膚を裂くのに力がいらなかった。
またも蛇が苦痛の叫びを上げてるけどそれには構わず。
俺は、更なる追撃をしかけるべく、体を起こし一つ大きく息を吸う。
「ガアアアア!!」
こいつはおまけだ! って言う言葉を込めた咆哮で、練った熱を蛇の体内に向けて放った。
ブレスを吐き切り、残心のように吐き出した「ふぅぅ……」という息は白かった。
勿論寒さでではない。おそらくは火の魔力の余力だろう。
「ブレス、吐けるんだ」
一つ頷いて答える。その直後に俺はレイナの名を叫び、傷口の前から左斜め後ろに飛びのいた。
一つ、レイナが頷いたのを確認。その直後。
「メスタリ。レイナ=クロシーア」
魔法が、発動する……!
「導明網必櫃落椅」
静かに紡がれた魔法名らしき言葉。
その声の世界への響きが終わる直前、
「まぶしっ!」
俺のすぐ右を通り過ぎた純白の光は、思わず目をつぶってしまったほどに激しい光だった。
ネクロノミコンダの体内という闇に入り込んだ浄化の光は、それじたいも蛇であるかのようにうねり、
屍皇竜と呼ばれる死者を使役するその巨大な蛇の中を、問答無用になめつくしていく。
どうしてわかったのかと言えば、光が強すぎたのか、うっすらと蛇の皮膚が内側から白く発光したからだ。
その光は通り道を見せつけるかのように、流れに合わせて位置を変えたんだ。だから俺には、そして他のみんなにも見えてたはずだ。
「皆さんっ! 距離を取りますわよっ、
屍皇竜がどう暴れるのかわかりません!」
必死な声色に俺達は、慌てて蛇の左右に散りながら全力で距離を取った。
「ちょっと、空飛べるなんてずるいじゃない!」
「むしろドラゴンがヨチヨチ歩きで人間の歩調においつけると思うのか!」
「みたいわね。かわいいかも」
「答えとしてまったく噛み合ってないぞ」
改めて言っておくが、俺は今二足歩行ドラゴンだ。四足なら兎の用量でぴょんぴょんすれば、地上移動でも距離は稼げるだろう。
が、二足歩行の上に尻尾という人にない物がくっついてるのだ。歩きにくいことこの上ない。
だから、緊張して歩くだろうと予想できるゆえに、ヨチヨチ歩きって言ったのである。
ジャンプは勢いでどうにかなったが、継続歩行はそうはいかない。なら飛ぶしかないのだよ。
「なあ。ところで、なんだけど」
着地し、隣りにいるベルクに声をかける。
「なによ、改まって?」
不思議そうにこっちを見て来る。
「これ……どうやって変身解除するんだ?」
「あたしが知るかっ!」
シュバッっという空気を切り裂く音と共に、左翼にバシイっという音と衝撃っ?!
「いっってええ!」
ふらり ふらりとたたらを踏まされて。くっと歯噛み一つしてしっかりと地を踏みしめる。
で、歯噛みしたんだけど、なーんかいまいち力が入んなかったっていうか、ガチっと噛み合った感じがしなかったんだよなぁ。歯の並びが違うんだろうか?
というかそもそも臼歯が、ないんじゃないだろうか?
「今、お前、なにした?」
まだ余韻の残る痛みに耐えて言ったせいで、かたことになってしまいました。
「ん? 回し蹴りだけど?」
こともなげに言いながら、蹴り足を示すように、右足を自分の足の付け根辺りまでヒュンと振り上げて言った。
ご丁寧に槍を、石突を上にした状態で左脇に縦にして抱えていやがる。
「そうまでして突っ込みたかったのかよ……」
なんともいえない、苦い顔になる俺だった。




