ロール8。初の勝利はほろ苦く。 1転がり目。
「おわっ、なんだなんだ?!」
突然地面がかしいだ。そこで俺がとった行動は、
「うわぁああっ!?」
ギャグ漫画よろしく腕をバタバタさせてこけるのを回避する、であった。
声の調子も図らずもギャグシーンのような、間抜けな抑揚で。
他人に聞かれてないのが幸いである。
「……あれ? こけないぞ?」
どうやらこの腕バタバタ。どうやら、効果があったらしい。なんでだ?
「……そうか。今、俺ドラゴンだから、ギャグシーンと違ってほんとに飛んでるのか」
驚き、納得し。そして、感激である。
「もしかして、ゆっくり動かしても飛んでられるのか?」
腕、つまり翼を動かす速度を徐々に遅くして行く。
「おっと」
体感時間一秒ぐらいかけて一回はばたかせる程度でいいかと思って、それぐらいの速度にしようとした。
でも、それは遅くしすぎらしく、体が重たくなったので少し動かす速度を上げて高度を保つ。
たぶん、一はばたき一秒の半分、ゲーム的に言うなら30フレームぐらいが高度を保てるストロークのようだ。
「ゴゴゴゴ、って音。なんだ? ゾンビどもの声の位置が動いてる。動いたのか、ネクロノミコンダが」
はばたきながら状況分析。地面、つまりはネクロノミコンダの体がかしいだ。おそらくはそれほどのダメージを受けたってことだろうな。
それでも、そう経たずに体勢を立て直せるのは、体のでかさゆえにダメージが体の動きを阻害する時間が短いんだろうな。
「うわ、まぶし。……まぶしい?」
目を何度かしばたかせて、自分に起きた違和感を確かめようとまぶしさの元を目で探す。
今突然来た、目がわずかくらむほどの光。探し当てるのに時間は
ーーあった!
「うっすらと、光が見えるな」
起き抜けに薄目を開けて、朝の光に目を慣らす時のようなぼんやりとした光だ。まるでフィルターをかけてるような感じの。
「光が……見える」
自分の言葉が半信半疑で、もっかい口に出した。
「光が……見えるのか」
また目をしばたかせて、自分の目を心じゃなくて頭で納得すべく、光という物をゆっくりと脳にしみこませていく。
「く。くくく」
理解した。
「フハハハ!」
認識した。
「見える、見えるぞ! わたしにも、光が見える!」
そりゃ歓喜の台詞も飛び出しますわ!
「この光。逃す手はねえっ!」
思わず羽ばたきのストロークも早さを増す。
「角度、よし。距離は……目測、少し前進してから腕を振り下ろせばひっかかる!」
ターゲッティングは口出し確認。
ーーそして!
「くううらああええええ!! ドラゴンクローッ!!」
右の翼をこれっでもっかっっ! っと言う勢いで上から下へと振るった。
その結果。目測通り爪になにかがひっかかり、そして そのひっかかりは振り下ろす勢いそのままに範囲を下へと拡大。
フィルターをぶち破り、まっさらな光を俺の目と このネクロノミコンダ体内という暗黒へと注ぎ込んだ。
「ぐあああっっ! 目が! 目があああ!!」
冗談ではない。まったくの暗黒に、いきなり真昼間の光が飛び込んだのだ。その光量に悶絶するのは当然のことなのである。
『ギャオアアアアア!!』
蛇が苦痛の声を上げた。そりゃそうだな。
って! 冷静に分析してる場合じゃねえっ!
「このチャンス、逃すな!」
広がった蛇の傷口を見る。自分の体の幅と感覚で照らし合わせる。
縦じゃ俺の体の方が余るな、となれば。
「無理やりにでも体を横向きにっ!」
下に下がりつつ、角度を変える。
世界が見えることが、これほど安心できるとは思わなかった。体の角度を変えるのも、突入位置を確認するのもこんなに簡単で、
そして安心してそれが行えるっ。
「こいつがでっかくて助かった。後ろに余裕があるらしい。なら、こんな暗黒とは」
「おさらばだっ!」の言葉と同時に光にぶつかるように、体を前へと走らせた。
地面なしに空中を滑走する。不思議な感じだ。
陳腐な言い方かもだけど。風になったみたいな感覚。
翼にひっかかった巨大蛇の肉体は、突き進む勢いでそのまま引き裂いて行く。
「よ お や く 出 ら れ たー!」
尻尾の先まで光にさらせたことを、首を後ろへひねって確認し、ギュイっと体の角度を縦一直線に戻した俺の魂からの歓喜の叫び。
意図せず首をそらしたおかげで、まさしく天への咆哮と言ったポーズになったのは、計らずだったものの「きまったぜ」の心をこめたドヤ顔してしまった。
「あれ、なんか音が背中から迫って……やべ!」
慌てて右に移動、そして着地。尻尾をどうしたらいいのかわからず、思いっきり振り上げてから地面に足をつけた。
その直後、ズドーンという凄まじい音にビクっとなった。目線を向けるが、瞳を横に向けても下に向けても、倒れたはずの物が見えず、軽くパニクっております。
「……あ、そっか。顔を向ければいいのか」
気が付けてよかった~!
顔の角度を下にして、倒れてグググググとうなるそれを見やった。
なんだか、キリンの気持ちをちょっと知れたような気がする。
「ねえ。あの、さ」
槍を構えたまま、恐る恐ると言った調子でベルクが近づいて来た。
怖い怖い、槍構えたまんま近づいて来ないでください!
「もしかして。あんた……リョウマ?」
槍がギリギリ届かない程度の間合いまで来たところで止まり、やっぱり恐る恐るという感じで尋ねて来た。
「信じられないとは思うけど、その通りだぜ」
「いえ、信じるわ。だって、状況があんたがリョウマだって言ってるからね」
「なるほど。たしかに、か」
「っていうか、なによ」
「……え?」
なんかいきなりじとめなんですけど?
「魔法に知識がまったくないとか言うくせに」
「え、なんで槍を引いてるんですか? なにする気ですか?」
「ドラゴンに変身できるなんて、反則級にレアなスキルじゃないっ!」
「おわっっ!」
槍を腹立ち紛れにしか見えない形で、それも一歩踏み込んで突き出して来たので、慌てて飛びのいた俺。
「って、なんだって!?」
驚く。驚かざるをえない。まさか、そんなレアスキルだったなんて思わなかったのだ。驚くなって方が無理。
「なに? 誰でも彼でも変身できるとか思ってたの?」
「とりあえず、睨むのやめてくれませんかね?」
思わず後ずさり。
「そうは思ってねえよ。ただ、予想以上の反応でびっくりしたんだ」
女神から与えられた能力である以上、レア度が高いだろうとは想像できる。
けど、反則級なレアスキルって言われたってことは、下手すると唯一無二の可能性すらあるってことか?
「あまりのことに言葉が出ませんでしたけれど」
レイナがこっちに歩いて来ながら話に入って来た。
「リョウマさん。その力を、いったいどこで?」
「え、えーっと……」
答えに困る質問である。
女神から授かった物で、俺自身使い方すらわからなかったが、危機に瀕したことで使い方を理解し行使することができた。
なんて事実をそのまま言うのは気が引ける。
でも、もしかしたら唯一無二かもしれないなら、逆にこの話には説得力があるのか?
この辺り、ファンタジー世界の基準ってわかんないからなぁ。
どうする、事実を語るかまた理由をでっちあげるか……。
……そうだな。考え込みすぎると怪しまれるか。やってみろ俺、事実をそのまま語ってみるんだ。
「あの、リョウマさん?」
幸い、タイミングよく声をかけてくれた。話す勢いとしては申し分ない。
「あ、ああ、わるい。実はさ」
そう切り出して、俺は転生者であることを伏せて力をもらった経緯を語った。
「女神の加護。なるほど、それならドラゴンに変身できる、なんていうたぐいまれに希少なスキルを得ていて、そしてそれを話すことに躊躇するのにも納得できますわ。
それほど希少なスキルであり、ドラゴンという人間からすれば強い種族になれるのなら、その身を狙われておかしくありませんもの」
レイナさん、あなたはなんて話しのわかる人なんだ!
「で、その能力を得た代償が、魔法に対する知識を得ることにも及ぶほどの認識阻害、ってとこかしらね」
ベルクが補足するように言った推測に、レイナにリビックもなるほどと言う納得の言葉をつぶやいている。
勝手に理由が作られて行く。俺が魔法に無知なことにまで。コロコロちゃん、これはあんたの助力なのか?
「リョウマ。あんた、あたしたちと出会えたのはほんとに運がよかったわよ」
「どうしてだ?」
「言ったでしょ、この世界は冒険者以外は魔法魔力を評価の基準にしてるって。
あんたのその魔力に魔法に関する無知。それ、もう呪いのたぐいじゃない」
「呪い。たしかに、とことん世界の基盤に反発してるからな、この体質」
俺は元々異世界の住民だ。遺物に対する拒否反応として、このバッドステータスの付与は当然なのかもしれない。
「安心しなさいリョウマ」
強気に微笑みそう言うベルクの言動にうまく言葉が返せず、彼女を見ることしかできない。
「少なくともあたしはこのまま、同じ冒険者パーティの新入りとして面倒を見るつもりでいるわ」
「そうなのか」
ありがたい。名前の短さにシンパシーを感じてる様子だったベルクだから、こう思ってくれることは自然かもしれないな。
「ええ。たまたま転移魔法であたしたちが通りかかったあそこに飛ばされた。で、今こうして同行してあんたの事情を聴いて。見捨てるなんてできないわよ」
「『少なくともあたしは』、なんていじわるな言い方しないでくださいなベルクローザさん。わたくしも同じ気持ちですわ」
「そうなのか?」
俺の軽い驚きの声に、「ええ」と頷くとレイナは理由をしっかりとくれた。
「ただでさえあんな山の途中に身一つで転移させられてしまったのです。それに加えて今聞いたその姿になれることへの代償。手を差し伸べるのが人情、ですわ」
優しく紡がれたこの言葉。これまでのやりとりと合わせて、ドラゴン化という力を目当てにしていないことは、少ない交流の俺にですら容易に理解できた。
「ぼくも同じ気持ちだよ」
「お前ら。どこまでお人よしなんだよ」
笑みでそんな悪態をついてしまった俺だ。
ーーだからコロコロちゃんは、あそこに。このお人よしなベルクたちが通る、あの場所に俺を転移させたのかもしれないな。
これまででもこう考えはしたものの、あくまで推測の域を出なかった。
けど、今得たのは確信だ。
きっと、たとえファンブルが出ていようとも、こいつらは俺を「仲間」として受け入れてくれただろうな、
って言うはっきりとした認識である。




