高仁家での話し合い
哲也が部屋を出ると直ぐに剛が頭を下げる。
「愚息が先走ってしまって申し訳ない。ナギ殿の言い分は理解した。力徳家は狐神界のいざこざに関与しないという事だな」
「できれば全ての家の眷属が狐神界のいざこざに手を出さないようにするのが被害が小さくなって良いとは思うけどな」
「それはたぶん無理な話だ。我々には囚れているシオリを奪還しないといけない。その為には神格管理局と戦うしかない」
シオリって野狐の里の長じゃなかったっけ?
それが囚われている?
剛の話が続く。
「また力徳家が関与しないと言っても久礼家と明智家の眷属は出てくるだろう。それならば我々も引き下がる事はできん」
サクラさんの横にいつもいる久礼秀一の顔が浮かんだ。
確かに秀一が引き下がるとは思えない。
うーん。どうするかな。
それよりなんで野狐の里のシオリが神格管理局に囚われているんだ。
そこを何とかすれば争いにならないのかな?
「どのような経緯でシオリさんは囚われる事になったんだ?」
「三年前に神格管理局が野狐の里に奇襲を仕掛けてきた。抵抗はしたがナギ殿の祖父に仲間が結構やられてしまったよ。策略で何とかしたが、それがなかったらどれだけ犠牲が出たか。それでも結局、シオリは神格管理局に捕まってしまった」
「その話は囚われた話だ。俺が聞きたいのは何故囚われる事になったかだ。理由もなく神格管理局が野狐の里を奇襲する訳がないからな」
口を閉じてしまう剛。
三分ほど待ったが声が発する事はなかった。
話しにくい内容なのか?
「話しにくい内容なら無理には聞かないよ。後で神格管理局に確かめてみるから。ただしその場合は神格管理局からの視点での話だから野狐の里にはあまり良くないんじゃないか?」
剛は重い口を開いた。
「分かった。話させてもらうよ。その前に野狐の里について話しておきたい。悪狐と言われる黒狐。黒狐は元々、善狐である白狐だ。それがたった一度の失敗で黒狐に堕ちてしまう。黒狐に堕ちる原因はたくさんある。人間に悪戯する事に喜びを感じて堕ちる場合もあるし、嫉妬なんかでも堕ちる時がある。黒狐と言っても多種多様なんだよ。私はシオリの眷属だ。元々は先代が眷属だったんだけどな。シオリは元々白狐だったが才能豊かな金狐のサトミに嫉妬してしまってね。眷属の差だと思っていたそうだ。サトミは君の祖父の力徳源治を眷属にしていたからね。シオリはわたしの父が亡くなったのを契機に君の父親の和也を眷属にしようとした。ところが和也は現在の神格管理局局長のユメジの眷属になる事を選んだ。幼馴染の二人が格が一番高い力徳家を眷属にしてしまった。シオリは劣等感と嫉妬で黒狐に堕ちてしまった。その時、私が眷属になったんだ」
遠い目をする剛。
思い出すように言葉を発する。
「黒狐になったシオリは野狐の里に身を寄せた。そこには黒狐達が楽しく暮らしている。皆んな気の良い連中だ。今まで侮蔑の対象でしか無かった黒狐が普通の妖狐であると気が付いたんだ。シオリは黒狐のために立ち上がった。狐神界では黒狐は迫害の対象だ。神格管理局は一度の過ちを許しはしない。どんなにその後、良い事をしても全くの無駄になる。それでもシオリは黒狐の為に頑張った。一つ一つ善行を積み、黒狐の地位向上に努力してたよ。シオリは野狐の里の穏健派だった。穏健派があると言うことは過激派もいる。過激派はその時、力徳和也の暗殺に成功した。その報復として神格管理局局長のユメジは野狐の里を焼いたんだ。自分の眷属が暗殺されたのだから気持ちはわかるけどね。焼け野原にされた野狐の里を呆然と見つめるシオリがいたよ。あの時はかける言葉がなかったな。それからだ。シオリは力を求めた。圧倒的な力だ。これ以上、自分が守るものを壊されないように。その力の求め方が神格管理局が問題視したんだ」
「その力の求め方とは?」
「伝説の九尾狐である玉藻前が死んで変化した殺生石を集める事だ。殺生石は南北朝時代に破壊され、各地へ飛散している。その殺生石の欠片から妖力を吸収しようとしたんだ。その事が神格管理局にバレてシオリは囚われている」
九尾狐は天災クラスの妖狐だ。それなら神格管理局の行動も理解できる。
テロリストが核爆弾を持つようなものだからな。
「力で対抗しようとしたって事か。その前に力で抑えつけられたって訳だ」
「先に力を使ってきたのは神格管理局だ。野狐の里を焼け野原にしたんだからな」
「そんな事を言ってどうする?その前に俺の父親を暗殺したのは野狐の里の過激派だろ?」
「それは黒狐を虐げるからだろ!」
「言っていて気が付かないのか?これは負の連鎖だよ。どこかで断ち切る必要があるんだ。俺が祖父さんと親父の仇討ちに動き出したらどうする?まぁそんな事はしないけどな。原因はわかった。やる事はこれから考えるよ。取り敢えず、あんまり無理はするな。俺は狐神界のいざこざには不干渉でいく。そちらはなるべく眷属同士で戦うのは避けて欲しい」
そう言って俺たちは高仁家を後にした。
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