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月光の狐  作者: 葉暮銀
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高仁家での顔合わせ

高速道路のサービスエリアで昼食を食べて5時間弱で横浜に着いた。

高仁家の近くのコンビニに止めて電話をする。


「もう着いたのか?」


「えぇ。近くのコンビニから電話しています。車を停めるスペースはありますか?無ければ駐車場に入れてから伺いますが」


「車を停めるスペースはある。そのまま来てもらって結構だ」


「わかりました。あと数分で伺います」


カーナビに案内されて高仁家を目指す。

目的地は大きなお屋敷だった。

門の前に使用人らしき人が待っていてくれた。

使用人の誘導で車を駐車スペースに入れる。

他に車が三台止まっていた。


バットケースから刀を出し車を降りる。

シロちゃんに【月月(つきづき)()】を渡し、俺は【日日(ひび)(つき)】を左手に持つ。

使用人の顔が少し引き攣るが構わない。

一応、敵陣だからね。

丸腰で入るほど馬鹿ではない。


日本庭園の大きな庭だ。

たぶん祠もあるんだろうな。


家に入り大きな和室に案内される。

和室には男性が三人、女性が二人座っていた。


見知った顔が二人いる。

煽て山で遭遇した黒狐のハヤセと上信(じょうしん)隆一だ。

俺は気さくに隆一に話しかける。


「よっ!元気にしていたか」


「その節はどうも。まぁぼちぼちやっていますよ。それにしても刀持参とは穏やかでは無いですね」


「このくらいの事は大目に見て欲しいな。一応、俺たちは神格管理局陣営と思われているのだからな」


年配の男性が声を上げる。


「それが素のお前の口調か。電話口では丁寧だったがそのままの口調にしてくれ。慣れない口調をされると、その人の人柄が分からんからな」


年配の男性はどうやら高仁家の電話に出た男性のようだ。

年齢は50歳くらいだろうか。

背筋に一本、芯が通っている。

深い彫りの顔で意志の強い印象を受ける目だ。


「この口調で良いなら楽で良いな。改めて自己紹介をさせてもらう。力徳ナギだ。こちらが地狐のシロになる」


そう言ってから俺たちは座布団の上に座る。

年配の男性が話し出す。


「私が高仁(こうじん)(つよし)だ。高仁家の当主をしている。私の隣りに座っているのが愚息の哲也だ。その隣りが黒狐のアヤカだ。アヤカの眷属が哲也だ。後の二人は知ってるみたいだから紹介はしないぞ」


黒狐のアヤカは狐耳と尻尾が見えない。妖力が高そうだ。巫女装束で袴は青色だ。長い黒髪でほっそりしている。切長の目が涼しげだ。冷静な印象を受ける。

それに対して眷属の哲也は不機嫌顔だ。

ガッチリした身体に掘りの深い顔。

父親の剛にそっくりだ。


高仁家の当主の剛が鋭い目付きを俺に向ける。

観察されているようだ。

少し経つと剛は息を一つついた。


「なるほど、さすが力徳家の血筋だな。敵対するのは馬鹿がやる事と分かったわ」


その言葉に息子の哲也が反応した。


「父上!何を言っているんですか!こやつは高仁家の仇!力徳家の小僧です!すぐにでも叩き斬ってやれば良い!」


俺は左手に持った刀に右手を添える。

その気配を感じた剛が声を上げる。


「ナギ殿、この愚息は黙らせるので暴れるのはやめてもらえるかな?」


「俺も横浜まで暴れにきた訳ではないから、それならば助かるよ」


「哲也。お前は力量の差がわからないのか?今、ナギ殿に攻撃を仕掛けたら高仁家は断絶するぞ。もうお前は黙っていろ」


納得しない悔しそうな顔で横を向く哲也。

身体の鍛錬はしても精神の鍛錬は疎かにしているようだ。

俺は剛だけを相手にする事にした。


「電話でも言った事だが、狐神界のいざこざで眷属同士の争いを避けたいと考えてる。そちらの考えを教えてほしい」


剛は俺をしっかりと見据える。


「高仁家と力徳家は3年前の狐神界の争いで血が流れている。その怨讐を忘れろと言う事か?」


「祖父さんが暴れたのなら結構な被害が出ただろうな。それについては俺は関与していない。祖父さんには祖父さんの都合があったのだろう。結局祖父さんはそれで死んだからな。しかしそれで死んだんならしょうがない。そちらにも都合があったんだろ。死にたくなかったら祖父さんの前に立つべきではなかった。それでも祖父さんの前に立ったのなら自己責任だ。こちらを恨むのは筋違いだよ」


「そんな理屈で感情を抑えられると思っているのか?」


「俺は過去の話をしに来た訳ではないんだ。これからの話をしに来たんだ。過去の怨讐についてはそちらで消化しておいてくれ」


哲也が激高して立ち上がる。俺を指差して怒声を上げる。


「もう許せん!斬り捨ててやるわ!兄の墓前にその首を捧げてやる!」


「やめろ!哲也!斬られるぞ!」


俺は哲也の声に反応して【日日(ひび)(つき)】の鯉口(こいくち)を切っていた。少しだけ見える刀身が光っている。


「ナギさん、誠に申し訳ないが刀から手を離してくれないか」


「そこのウスノロの手綱をしっかり握っておけ。そのウスノロが座ってから刀から手を離そう」


「哲也!早く座れ!これで力量の差がわかっただろう!」


歯噛みながら座る哲也。

俺は刀から手を離す。


「全く話が進まないな。この馬鹿は退出してもらったほうが良くないか?」


俺の言い分に剛が同意する。


「哲也、お前は自室に引っ込んでいろ。力徳家と敵対しないようにする場で喧嘩を売る馬鹿がどこにいる」


哲也は怒りが収まらない状態のまま部屋を出ていく。

これで少しは話し合いになると良いな。

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