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月光の狐  作者: 葉暮銀
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ボコボコ⇨回復⇨ボコボコ⇨回復⇨ボコボコ⇨回復

ナラクさんはなんでもありだった。

まず空を飛べる。

壁を通過する。

消えたり、実体化したりする。

飯を食べなくて問題無い。

空狐(くうこ)ってヤバい。


祖父と仲が良かったらしく、稽古をつけてくれるが全く相手にならない。

ボコボコにされる。

手加減って言葉を知らないのだろうか?

それでも驚くべき回復術を使い、ボコボコになった俺をすぐに治してくれる。

ボコボコ、回復、ボコボコ、回復、ボコボコ、回復の無限ループ。


ナラクさんはお腹が空かないようで、朝から晩まで稽古三昧。

スパルタという言葉が陳腐に感じる。

こんなにやられるとせめて一本取りたくなる。


しかしスピードが違い過ぎる。

技術が違い過ぎる。

戦闘経験が違い過ぎる。

何もかも足りない自分を自覚した。


朝から始まった鍛錬も昼には俺の昼飯の為に一度休憩になる。

ボコボコの俺に回復術をかけてくれるナラクさん。


「ナギは根性あるなぁ。さすが力徳(りきとく)家の血を引くだけあるのぉ」


だいぶ慣れてきたのかいつもまにかナギと呼ばれるようになった。


「祖父以外に力徳(りきとく)家の知り合いがいたんですか?」


「当たり前じゃ。力徳(りきとく)家は眷属になれる血筋で王と言える家じゃからな。初めて眷属になった力徳(りきとく)虎吉(こきち)は刀で大岩を断ち切っていたなぁ」


刀で大岩って…。

家に家系図は残っていたかな?

聞いた事もない先祖の名前を言われてもピンとこない。

ナラクさんは何歳なんだ?


「ナラクさんは何年生きているんですか?」


「女性に歳を聞くとはナギも無粋じゃのぉ。まぁ三千年は過ぎているわ。かかかかか!」


「ナラクさんってお狐さんなんですよね?」


「そうじゃ、妖狐じゃな」


「ナラクさんと神格管理局との関係はどうなっているんです?」


「妾は政治には関わらん。神格管理局とも野狐の里とも不干渉が原則じゃ。ナギを鍛えているのは源治の孫だからじゃな。源治はとても気持ちの良い男だったからなぁ。ほれ、昼飯を食べたら稽古の続きをやるぞ。はよ食べに行くぞ」


ボコボコにされる稽古はドMじゃないと喜ばないだろ。

俺にそちらの性癖はない。

ショボくれながら台所に昼飯を作りに行く。


豚肉と玉ねぎの炒め物と漬け物をおかずに飯を食べる。

目の前にはニコニコしているナラクさん。

ご飯を全く食べないナラクさんだが、俺がご飯を食べる時はいつも目の前にいる。

ナラクさんは俺がご飯を食べているのを見ることが好きらしい。

初めは躊躇したが、さすがに慣れてくる。


昼飯を食べ終わり食後にお茶を飲んでいると来客を告げる呼び鈴がなった。

玄関の扉を開けると、そこにいたのは尼義(あまぎ)香澄だった。

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