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月光の狐  作者: 葉暮銀
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昔の女

神格管理局でシロちゃんと別れた。

狐神界のシロちゃんの社までぷらぷら歩く。

中央には有名どころの稲荷神社の社が多いな。

シロちゃんの社は街外れだ。

狐神界にも明確な格差があるんだな。


シロちゃんの社はこぢんまりしている。

シロちゃんの社に入り、深呼吸を2〜3回して瞑想する。

1分間ほどで身体の重さが感じられる。

目を開くと自分の家に戻ってきた。


俺の研修担当者は数日したら来るって言っていたから少し余裕があるか。

会社は辞めたが実は収入はある。

祖父が残してくれたマンション2棟とアパートが3棟ある。

この賃料だけで充分暮らしていける。

マンションとアパートの管理は管理会社に任せているので特にやる事はない。


たまには街をぶらつくか。

車で街中に出かける。

洋服を三着ほど購入して本屋でぶらぶらする。


「あら、ナギじゃない。久しぶり!」


後ろから女性の声がする。

振り向くとそこには高校二年の時に別れた尼義(あまぎ)香澄(かすみ)がいた。


三歳年上だから今は26歳か。

女性にしては長身の165㎝、そこそこ派手な化粧をしている。

肩より下まで伸びてる黒髪が綺麗だ。

顔は少しキツめの印象を受けるが間違いなく美人の部類だ。

女性としての可愛さは外見からは感じられない。

別れて六年経っている。

その六年で香澄は女性として魅力が上がっている印象を受ける。


仙森市のような地方都市だと、どうしても街中で遭遇する時がある。

まぁ遭遇しても困らないが。


香澄は笑顔を浮かべながら話しかけてくる。


「ナギ、今は何をやっているの?」


「理由があって会社を辞めたんだ。ぶらぶらしているよ」


「そうなんだ。今日は暇してるの?せっかくだから飲み行かない?」


あ、今日は土曜日だったか、どうしても曜日感覚がなくなるな。


「悪いけど車で来ているんだ。アルコールは止めておくよ」


「そんなの代行に頼めば良いでしょ。久しぶりに会ったのに冷たいじゃない」


「お前の彼氏に恨まれたくないからな。地雷は避ける主義なんだ」


「それなら安心ね。私は今フリーだから。さぁそれでは行くわよ!」


香澄に強引に腕を取られ、個室のある居酒屋に連れて行かれる。

香澄から香水の匂いがする。

たまにはこういう飲みも良いか。


ビールを頼んで乾杯をした。

すぐに香澄は会話を始める。


「ナギは今付き合っている人いるの?」


「別にいないけど」


「好きな人は?」


頭にシロちゃんが浮かぶ。

でもシロちゃんへの俺の恋は成就しないだろ。


「別にいないな」


俺は素っ気なく返す。


「それなら、私とまた付き合わない?別に私はナギを束縛したりはしないわよ。都合の良い女にしてもらっても良いわよ」


香澄は魅惑的な顔を向ける。

男性からすれば、何て都合の良い申し出だ。

一瞬だけ逡巡してしまう。

脳裏にシロちゃんの笑顔が浮かんだ。

俺は溜め息をついて言葉を発する。


「悪いけどお断りさせてもらうよ。俺にはやらなければいけない事があるんだ。それが終わるまでは女性と付き合う気持ちにはなれないな」


「あら、まさか断られるとは思わなかったわ。男性から見ればこんな良い話は無いと思ったんだけど」


(おど)けるように言葉を返す香澄。

その後は当たり障りの無い会話を楽しんだ。

香澄は話題が豊富でとても楽しい時間が過ごせた。


居酒屋からバーに場所を移し、お酒を3杯ほど飲んでお開きにした。

運転代行会社に電話をする。


駐車場で待っている間、香澄が近寄ってくる。

唐突に唇を合わせてきた。

軽いキスではなく、濃厚なキスだ。

香澄は俺の頭を抱きしめ、まさぐる。口内を香澄の舌が激しく動く。背中にゾクゾクと電流が走る。

唇が離れた後、俺は呆然とした。


香澄は悪戯(いたずら)が成功した顔を浮かべながらタクシーに乗り込んで行った。

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