シロの視点(頼れるナギ)
富士の樹海の洞妖窟に行くためにナギは会社を辞めてしまった。
本当に申し訳ない。
また富士の樹海に行くために車を出してくれた。
私は犬用のキャリーバッグに狐姿で入っていた。
情けないがしょうがない。
お母さんのように人型になっても狐耳と尻尾が隠せるようになれれば、ナギの運転する助手席に座れるのに。
富士の樹海に入って集中すると強い結界の方向がわかる。
二時間くらい進むとその強い結界のところまで来れた。
結界を抜けるためには人型になる必要がある。ナギのリュックに爪を立てるとナギは直ぐに気が付いて私の服を出してくれた。
ナギが後ろを向いたのを確認して人型になる。
肌襦袢を着て、小袖を着る。袴をはき尻尾を特製の穴から出す。
足袋と草履を履く。右脇に霊片を入れる神袋を装着する。
肩までかかる髪の毛を後ろで一本に纏める。
気が引き締まる。
ナギがバットケースから刀を二振り取り出す。
黒い鞘と白い鞘。
白い鞘の神刀【月月日】を貸してくれた。
左側の腰に装着して準備万端。
富士の樹海の洞妖窟はナギには言ってないが特A級の荒行だ。
緊張してくる。
結界を通る祝詞を唱える。
空間が歪んだと同時に富士の樹海の洞妖窟に入った。
入って直ぐに目に入ってきたのは大量の土蜘蛛。
大きさが身体が20㎝ほど、足を入れると80㎝くらい。それが一斉に動き出している。
慌てて刀を振り回すが当たらない。
「シロちゃん、落ち着け!良く見て刀振っていけ!」
ナギの声が響くが頭が回らない。
空振りばかりしている。
少し経つと周りの土蜘蛛が減っている。
ナギが私の周りの土蜘蛛を倒してくれたみたいだ。
ナギは凄い勢いで土蜘蛛を倒していく。
私はその姿を見て気持ちが落ち着いた。
ナギがいれば何でもできる。恐れる事なんて何もない。
ナギの言う通りよく見て刀を振り出してみる。
土蜘蛛に当たった。
さすが神刀【月月日】だ。
豆腐を切るような手応え。
これなら何とかなる。そう思ったところで土蜘蛛が距離を取ってきた。
土蜘蛛がこちらに糸を吐き出してくる。
慌てて避けたが左手に糸が絡まった。
糸を払おうと思ったが弾力性に富んでいる。粘着力もある。
次から次と土蜘蛛は糸を吐いてくる。
気がつくと私の全身は糸で雁字搦めになっていた。
焦れば焦るほど絡まっていく。
「シロちゃん、狐火!」
ナギの声にハッとする。
急いで全身に狐火を纏う。
蜘蛛の糸は簡単に焼け切れる。
蜘蛛の糸から解放された私の心臓はドキドキしている。
まだ落ち着いていない。
その間もナギは土蜘蛛を屠っていく。
また土蜘蛛が糸を吐いてきた。
今度は狐火をすぐに出して燃やしていく。
狐火は糸をたどり土蜘蛛の口を燃やした。
それを見ていた他の土蜘蛛は糸を吐くのを止めた。
これなら安心して刀で土蜘蛛を倒していける。
私はナギのサポートになる動きに徹した。
ナギの死角の土蜘蛛を倒し、霊片が溜まってくれば、隙を見て腰の神袋に入れていった。
三時間ほど戦ったところでナギから声がかかる。
「シロちゃん、一回外に出て休もう。キリがないや」
「了解!落ちている霊片を集めたら一度外に出ましょう」
私は拾える霊片を神袋に入れていく。粗方拾ったところでナギの刀が光り刃が1.5倍程度に伸びる。
ナギは横薙ぎに刀を振る。
3メートルほどの光る刃が飛んだ。
力徳流刀技光刃斬だ。
とても綺麗な技。
土蜘蛛との距離ができたため結界の外に出た。
外は満天の星空だった。
風が気持ちが良い。
さすがに疲れたかな。
ナギが声をかけてくれる。
「シロちゃん、お疲れ。刀もバッチリ使えていたね」
「もう腕が疲れちゃった。続きは寝てからね。それより今日の晩御飯は何?」
「今日は大したもんは無いよ。缶詰めとおにぎり。こんなに蜘蛛がいるとは思わなかったよ。長期戦になりそうだね」
「こっちの世界で人型でいると神力を使っちゃうからご飯を食べたら狐にもどるわね」
「了解。ご飯を食べたら寝袋を出すから休むと良いよ。食事と水の量を考えると明後日には一度戻る必要がありそうだね」
二人で食べた食事はとても美味しかった。これは身体を動かしたせいだけじゃない。
ナギと食べているからなんだろうなって思った。
お母さんの行方がわからなくなってから夕ご飯は1人で食べていた。
ナギには甘えてばかりだ…。
少しは役に立ちたい。
ナギは寝袋を二つ用意したが狐姿になってナギの寝袋に一緒に入った。
白狐である私には回復術が使える。
少しでもナギの疲れが取れれば良いな。
私はナギに抱きしめられながら目を閉じた。
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