研修への招待
神格管理局の霊片納品所の受付は大騒ぎになった。
俺たちが持ち込んだ霊片のせいだ。
あり得ない数の霊片、それも通常より大きい。
前と同じように受付の赤狐の女性に別室に案内される。
前回と違い応接室だ。
ソファに座るとお茶を出された。
前回とは扱いが随分違うな。
お茶を飲んでいると女性が入ってきた。
神格管理局の局長代理のサクラさん。
シロちゃんの同級生のカナデのお母さんで仙狐だったか。
今日のサクラさんは目付きが少し厳しい。
その後ろには年配の男性がいる。
細身の身体だが鍛えている感じがする。
柔和な顔をしているが特徴的な細い目は笑っていない。
サクラさんはシロちゃんの向かい側のソファに座る。
俺の向かい側には自然と細い目の男性が座った。
細い目の男性から観察をされている感じを受ける。
あまり居心地の良い状況ではない。
サクラさんが俺を見ながら口を開く。
「貴方に会うのは二度目ね。私は神格管理局の局長代理のサクラ。こちらが私の眷属である久礼秀一。貴方はシロの眷属の力徳ナギさんで間違いないわね」
今回は自己紹介をしてくれたか。
きびきびとした言葉遣いだ。
それのせいでキツい印象を受ける。
「はいそうですよ。力徳ナギと申します」
俺は軽い調子で返してみる。
サクラさんは眉を顰めた。
「今日は貴方達が持ち込んだ霊片について聞かせてもらうわ。何をすればあれだけの霊片を納品できるというの」
シロちゃんが緊張した声で答える。
「富士の樹海の洞妖窟で土蜘蛛を退治してきました」
驚愕の表情を浮かべるサクラさん。
「あの特A級の荒行をしてきたって事!信じがたいけど話だけど霊片があるわね。秀一、あなたなら同じ事ができる?」
「無理すればやれるかもしれませんが、やろうとは思いませんな。土蜘蛛の糸に絡みとられてしまいますから」
無表情で答える秀一さん。
確かに気が使えないと土蜘蛛の糸は斬れそうもないな。
今考えると俺は結構危ない橋を渡っていたような…
サクラさんが呆れた顔で俺を見る。
「さすがは力徳家の眷属ね。そんな荒行をこなせるなんて。今、納品された霊片を確認している。たぶんシロが地狐になるのは確定ね。前代未聞の偉業だわ。妖狐高等学校を卒業したばかりの白狐が四ヶ月ほどで地狐になるなんてね」
サクラさんの言葉を聞いて喜色を浮かべるシロちゃん。
シロちゃんは勢い込んで話し始める。
「それならお母さんについての話が、やっと聞けるんですか!」
冷たい視線をシロちゃんに向けるサクラさん。
無情な言葉を吐き出す。
「何度も言ってますが、貴女のお母さんであるサトミの任務は極秘案件です。地狐風情には話す事はないでしょう。せめて気狐くらいの神格になってからですね」
ガックリと肩を落とすシロちゃん。
気狐かぁ。
地狐ですら、通常は100年間で神力を上げる。
気狐ともなると500年以上の時を使って神力を上げていく。
簡単に5倍と考えるものじゃないんだろうな。
サクラさんが話を続ける。
「シロには地狐になる為の研修を受けてもらいます。神力が上がる事によって出来る術も増えますから。まずは一週間の基本研修。その後は一ヶ月に一日の継続研修になります。わかりましたか?」
神妙に頷くシロちゃん。
サクラさんは俺の方を向き直り口を開く。
「よろしければナギさんにも眷属としての研修を行う事ができます。こちらとしては力徳家の方なので是非受けて欲しいのですが?」
俺はシロちゃんの顔を見る。
どうした方が良いのかな?
まぁ受けといて損はないか。
「わかりました。是非その研修を受けさせてください」
サクラさんが俺の言葉に神妙に頷いた。
「こちらの申し出を受けていただいて嬉しいわ。ナギさんの研修を担当する方は既に立候補しておりまして断りにくかったから。シロはこのままこちらで研修を開始します。ナギさんは物質界に戻ってもらって結構です。数日のうちに研修担当者がナギさんのところに派遣される予定です」
俺はシロちゃんの顔を見て力強く言葉を発した。
「シロちゃん、一つ一つ段階を踏んでいこう。まずはお互い研修頑張ろうな」
「わかってるわよ。ナギもへこたれないでね」
シロちゃんの目は力が戻っていた。
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