検索と友
誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
困った。
知識不足でオーガの革を効果処理するのに、どうすればいいのかわからない。
困ったけど、こんなときは頼りになる文明の利器を活用する。
すなわち、ネットで検索してみます。
まあ、ダンジョン内では電波が届かないから、ダンジョンから出てパソコンのある離れに行く必要がある。
さっそく、シノビフォックスの革の加工に手間取っているスナオに声をかけてから、離れに向かう。
なかなか不思議な気分だ。
すごした時間は離れのほうが長いのに、ダンジョンのセーフエリアのほうがホームのように落ち着く気がしてくる。
離れにはダメ人間の檻あるいは要塞として、ドロドロと黒っぽい淀んだ記憶が染みのように蓄積していると、思えてしまうからかもしれない。
わき上がる雑念を振り切って、オーガの革の硬化処理についてネットで検索してみる。
ダンジョンに出現するモンスターの革を硬化処理するなんて、マイナーな情報がネットで調べられるのか、少しだけ心配だったけど、検索してみたらそれなりの量の情報が見つかった。
信用できない情報も、それなりにあるだろうから、調べたものを見比べながら慎重に精査する。
さすがに、秘伝の極秘情報みたいなのはないけど、自分で狩ったモンスターの革で鎧を作ってみたというものは、失敗例と成功例を含めて、動画なんかもそれなりにあった。
これによると革をワックスでボイルすれば、革が硬くなるらしい。
まあ、ボクの場合はオーガの革をワックスにつけて、ボイルすることなく錬金術のスキルで反応させることになると思う。
もっとも、適当なモンスターの革で実験してみて、錬金術のスキルで上手くいかなければ、普通にボイルする方法に切り換えればいい。
ただ、ダンジョンに出現するモンスターの革は、普通のワックスでも硬くなるけど、ダンジョン由来の蜜蝋などから作ったワックスだとさらに性能が上がるようだ。
うーん。
ハチ系のモンスターの存在はいくつかのダンジョンで確認されているし、巣を破壊して蜂蜜や蜜蝋を入手したという話をネットで見たことがある。
けど、残念ながら、そこのダンジョンにハチ系のモンスターは出現していない。
なので、買取所で購入するしかない。
モンスターの革をボイルするのにオススメの蜜蝋の種類も掲載されていたけど、できれば複数の蜜蝋で硬化処理を試してみたい。
でも、ダンジョン由来の蜜蝋をすぐに購入できるか心配だ。
既知のハチ系モンスターは中堅クラスの探索者なら、余裕で狩れる強さだから蜜蝋の金額が高額になるとは思っていない。
けど、魔石、肉、皮のような常に需要のある物と違って、蜜蝋の需要は一部の革関連の業界を除いてあまり高くない。
一方で、同じ巣から入手可能な蜂蜜は、普通の蜂蜜よりも濃厚で美味しいらしいので需要が常にある。
買取所の店員に注文すれば、必要な蜜蝋をそろえてくれると思うけど、それなりに時間がかかってしまう。
注文して数日で用意するとはならないだろう。
モンスターの革の加工をしている業者に、オーガの革をあずけて硬化処理を頼むという手もあるけど、品質を信頼できるかというと、かなり微妙だ。
どれくらい硬くなるのか、自分の手でやりたいという好奇心というか、探究心も自分のなかに存在しているので、業者に任せる選択肢はない。
まあ、意外と買取所に行ってみたら、蜜蝋を取り揃えているかもしれない。
いま、必要以上に考えてもしょうがない。
ついでに、シノビフォックスについてネットで調べ見る。
有用な対処法でもあればいいんだけど。
…………どうしよう。
シノビフォックスについての情報はそれなりにあった。
けど、シノビフォックスについて調べれば調べるほど気分が落ち込んでくる。
なにしろネットに掲載されているシノビフォックスの情報の大半が、狩り方のアドバイスや素材の活用法とかじゃなくて、冷たい悲劇色をした内容だった。
友人が死んだ。
恋人が死んだ。
家族が死んだ。
そんなシノビフォックスによる悲報が、なんでもない情報であるかのように、いくつも視界に入ってくる。
このモンスターを狩るのに苦労をしたとか、ダンジョン内の夕食の献立で喧嘩したとか、念願のアイテムが宝箱から入手できたと思ったら別のアイテムだったとか、そんなダンジョン探索の悲喜こもごもを面白おかしくつづったサイトが、シノビフォックスによる仲間の死を告げて、投稿が途絶える。
そんなのが軽く一〇は見つかった。
探せばもっと見つかったかもしれないし、探索者の仲間が戦死したらSNSに投稿しないといけない、という決まりはないので、ネットで見つからないシノビフォックスによる悲劇も多数存在するだろう。
しかも、死んだ探索者たちは、実力を見誤って格上に無謀にも挑戦したルーキーじゃなくて、それなりに探索者としての経験を積み重ねた中堅やベテランが多い。
油断せず、警戒しても、殺される。
絶望的な悪夢のような話だ。
シノビフォックスは透明になって消えるわけじゃないから、それぞれが全周囲の視野を補うように警戒すれば、不意打ちで奇襲されることはない。
けど、ダンジョンには他のモンスターも出現するから、他のモンスターとの交戦中に視野に死角ができると、シノビフォックスはそこに滑り込んで、探索者に死をもたらす。
初見でシノビフォックスが出現すると知らないで殺されるパターンを除くと、この他のモンスターとの交戦中に死角から襲われて殺されるパターンが多いようだ。
逃げ出したくなるような事実に、気分が沈んで嫌になる。
一応、シノビフォックスへの対処法も、いくつかのサイトで拾うことができた。
できた、けど…………正直、微妙な内容だ。
一つ、シノビフォックスの存在が確認されたら、そのダンジョンの探索を回避せよ。
一つ、複数人で視野を補い死角を作らない。ソロの探索者なら、仲間を集めるか、潔く諦めろ。
一つ、全身をシノビフォックスの攻撃が通用しないような防具で守れ。
一つ、嗅覚に優れたモンスターを従魔にして警戒させろ。
など、常識的なもので、劇的に効果を表すものはなかった。
第四層では死角を作らないことが、基本になりそうだけど、これを実践して死んでいる探索者がいる事実を考えると、無意味じゃないけど過度に鉄壁だと期待しないほうがいい。
シャドースーツで覆われている場所を頑丈な防具で守れば、シノビフォックスには殺されないかもしれないけど、動きが鈍くなるからオーガなどの他のモンスターに、対処できないで殺されてしまう。
そこのダンジョンに出現するモンスターで、嗅覚に優れているのと言えば、コボルト系か、オークだ。
でも、そもそもモンスターを従魔にすること自体が、低確率で発生する現象で、狙って意図的に従魔にできるものじゃない。
できるなら、すでにボクもシルバーラビットを従魔にしている。
行き詰った思考が、欲しがっている人もいることだし、あのダンジョンを諦めて、資金を貯めて手ごろなダンジョンを購入して引っ越したほうが打倒なんじゃないかって、賢しく脳裏でささやく。
そんな妄言のようなアホなささやきに、安易に流されて耳を貸したりしないけど、決定的な解決策がないのも事実だ。
無策で、第四層に突撃するのは、無茶を通り越して、ただの無謀。
ボク一人ならともかく、スナオやラビをそんな無謀なことに付き合わせるわけにはいかない。
もう一つ、気になっていたゴブリンキングが突然、出現した現象についても調べたら、それなりに似たような事例が存在していた。
階層やモンスターの種族はダンジョンごとに違うけど、一定時間内に同一の階層で同族のモンスターを狩り続けると、上位種、最上位種、キング種など、その階層に出現するモンスターよりも強いモンスターが出現することがあるらしい。
そこのダンジョンだと第三層で、ゴブリン系のモンスターを狩りまくると、ゴブリンキングが出現することになる。
ふと、疑問に思った。
第三層でコボルト系のモンスターを狩りまくれば、コボルトキングが出現するのだろうか?
気長に、コボルト系モンスターを従魔にするついでに、コボルトキングが出現するのか検証するもいかもしれない。
トリオサイズがあり、ラビがゴールドラビットに進化していて、コボルトキングなら種族が違うから階段を守護するオーガを呼び寄せることもできない。
だから、ゴブリンキングと交戦したときほど、追い詰められることはないだろう。
次回の投稿は九月二四日一八時を予定しています。




