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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト


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生産する友

 優劣を明確に決める現実から目をそらすための平等という負け犬の夢見る幻想、あるいは敗残者のすがる希望なんて、矮小な心のなかを探しても存在しない。

 それでも、目の前で見せ付けられると、少し理不尽に感じて平等という共同幻想に逃げたくなる。

 追加の群れが来る前に、狩ったモンスターの死体を解体せずにズタ袋に放り込んで、セーフエリアに帰還した。

 ここまではいい。

 むしろ、追加の騎乗した最上位コボルトの群れと交戦する前に帰還できたから、運が良かったと言ってもいい。

 けど、一息ついてスナオとモンスターを解体すると、格差を見せ付けられた。

 ボクとスナオでそれぞれキラーハウンドを三体ずつ解体したときに犬歯に差はないけど、ボクが魔石なのに対して、スナオは魔石じゃなくてポーションが三本も出た。

 それも一本はヒールポーション。

 ローヒールポーションじゃなくて、それよりも効果が上のローの付かないヒールポーション。

 公的な買取所でも五〇〇万円、民間なら一〇〇〇万円以上で確実に買い取ってもらえる代物だ。

 他の二本はローヒールポーションだった。

 ボクの魔石はどんなに高く見積もっても五万円に届かないだろう。

 別に、ありえないことじゃない。

 キラーハウンドクラスのモンスターからヒールポーションが出てくる確率は低いけど、入手したという話はネットで見たことがある。

 ローヒールポーションも魔石以下、ヒールポーション以上の確率で出てくるから、運が良ければ三体のモンスターを解体してヒールポーションを含むポーションが三本出てくることも確率的には十分にありえる。

 そして、三体解体してポーションが出てこないことも、普通のことだ。

 スナオを見当違いな感情で恨んだりはしないけど、少し不公平だと思いたくなる。

 噂で言われているステータスやラックの数値が存在するんじゃないかと疑ってしまう。

 鑑定のスキルでも確認できないから、証明のしようがないけど。

 それでも、スナオの特性があると仮定して活用するために、モンスターの解体を分業にした。

 犬歯と鎧はボクが回収して、スナオに魔石、もしくはポーションを取り出してもらう。

 結果として、ヒールポーションはあれ一本だけだったけど、合計で九本のポーションを入手するこができた。

 そして、解体してそれなりの量を確保できたキラーハウンドの犬歯は想定通りの性能だったけど、現状だと有効な使い道があまりない。

 キラーハウンドの犬歯は、アサルトハウンドの犬歯や最上位コボルトの犬歯よりも高い性能を見せたけど、杖内部の図形のような文字に加工した場合に、双魔の杖だとゴブリン系の部品との性能的なバランスが崩れてしまうから、双魔の杖として性能が上がるどころか一部の性能だけ上昇して、総合的にダメな杖になってしまいそう。

 キラーハウンドの犬歯をコボルトワンドとして加工するらな問題ないけど、それでも双魔の杖の性能を総合的に上回らないから、いまさら作ろうとは思わない。

 まあ、ゴブリンの領域の平原でブラックホーンを狩って角を入手できるようになれば、キラーハウンドの犬歯も有効活用できるようになる。

 現状でのキラーハウンドの犬歯の活用は素直に諦めて、コボルトウィザードの杖に付いていたメイジクラスやビギナーワンドの物よりも一回り大きいマギルビーで、スナオ用の双魔の杖を作る。

 スナオからのオーダーで形状はストックを省略した猟銃型で、タイプも特化型じゃなくてバランス型にしている。

 火属性だから闇属性のゴブリンやコボルトが相手だと、光属性ほど劇的な攻撃力は見せないけど、それでも火力が上がるのはいいことだ。

 それに魔楯を使えるようになったスナオにとっては、実質的に防御力が上がったとも言える。

 実際に、


「キュウ」


 スナオが新しい双魔の杖で構築した四枚の魔楯に、躊躇うことなく猛然と突進したラビが二枚突破したところで勢いを失って、三枚目に弾かれて地面に転がされる。

 風裂を使用していないとはいえ成長したラビの突進を防ぐのだから、新しい杖で構築した魔楯はかなりの防御力だ。

 しかし、スナオが命令をしたわけじゃないのに、自発的に嬉々として構築された魔楯に突進するラビは本当にドエムなのかもしれない。

 仰向けで痙攣するラビをスナオが回復魔術で回復させると、ラビは魔楯に突っ込んだダメージを感じさせずに、期待するような眼差しをスナオに向けて突進の準備を開始する。

 けど、杖の具合を確かめただけで、スナオも作業が残っているから、苦笑しながら首を振ってラビの希望を否定する。


「キュウゥ」


 ラビは寂しそうにトボトボとスナオが用意したストライクベアの毛皮の敷物の上で横になる。

 このストライクベアの毛皮の敷物はスナオがラビの寝床として作った物で、スナオに付いて各階層のセーフエリアにラビが移動しても休めるように各階層に設置してある。

 毛皮としての手触りと保温性ならシルバーラビットの毛皮の方が優れているけど、従魔になったとはいえ同族の毛皮を寝床にするのは、さすがにどうなのかということで控えることになった。

 まあ、ラビはその辺は気にしていなそう。

 というか、シルバーラビットのから揚げを美味しそうに食べていた。

 調理済みの普通のから揚げにしか見えないけど、目撃してしまった方は軽い猟奇的な共食いを見せられたようで、当分から揚げを食べる気がなくなった。

 シルバーラビットの肉があるからと、から揚げにしたのは色々と不用意だった。

 それでもゴワついて硬めのストライクベアの毛皮よりも、柔らかいジャイアントラットの毛皮で良さそうだけど、ラビがスナオの用意した毛皮の素材のなかで、ストライクベアの毛皮を自分で選んだから仕方がない。

 ラビはストライクベアの肝が食べ物で一番好きだから、それに近い匂いのするストライクベアの毛皮を寝床の素材として選んだのかもしれない。

 好んであの凶悪な臭いと味のストライクベアの肝を食べるのは、ラビがドエムの証左なんじゃないかと思ってしまう。

 あるいはストライクベアの肝の味じゃなくて、一時的に身体能力が上昇する効能をラビは気に入っているのかもしれない。

 ラビがストライクベアの肝を好きだとわかると、ストライクベアを絶滅させる勢いでスナオが狩ったりしたので、スナオはなかなか親バカか、バカ親の気質があるのかもしれない。

 まあ、ドライな打算だけの主従関係よりは健全かもしれない。

 その少しだけ親バカかもしれないスナオは、在庫として余っているオークの皮を革へと加工して、シャドーバットの飛膜と貼り合わせている。

 これはスナオが二つ目のマギダイヤモンドや従魔にしたモンスターを収納できるモンスタークリスタルなどを入手するための金策である。

 貴重なスキルポイントを消費して生産系のスキルを獲得したのに、ゴブリン合金からゴブリン鋼を分離したり加工してみたけど、なかなか上手くいかなかった。

 けど、モンスターの皮の加工は相性が良かったのか比較的上手くいった。

 それでも、すぐにオークの皮を自由自在に加工できたというわけじゃなくて、ジャイアントラットの毛皮から始めて、ストライクベアの毛皮やオークの皮を思い通りに加工できるようになったのは、ここ二、三日のことだ。

 スナオがオークの皮をシャドーバットの飛膜と貼り合わせているのは、少しでも付加価値をつけて買い取り価格を上げるためだ。

 まあ、具体的にどれくらいの買い取り価格になるのかわからないけど、少なくとも皮の買い取り価格が下がることはないだろう。

 少しだけスナオならコンスタントにキラーハウンドを狩って、ヒールポーションを狙った方が簡単なんじゃないかと思ったけど、無粋な思考なので口に出さないで沈黙する。

 まだ、スナオのぎこちない皮加工を見ながら、ボクも自分の作業を続ける。

 ここ最近、ボクが作っているのは店員に頼まれた剣鉈、大剣、大太刀、長槍の四種類だ。

 四種類とも、デュオとトリオ、あるいは双魔と三魔の二つのタイプを用意している。

 でも、少し困っている。

 剣鉈は作り慣れているし、使い慣れているから、作業に迷うことなく作れる。

 けど、大剣、大太刀、長槍は迷ってしまう。

 それは形状というか、武具の長さだ。

 金属製の全長二メートルの大剣。

 これを普通の人間が扱うのは難しい。

 どちらかと言えば、ファンタジーの武器だ。

 けど、中堅以上の探索者にとっては余裕だ。

 素材が軽量のゴブリン鋼やコボルト鋼なら片手で振り回せるだろう。

 重いオーク鋼を素材に使っても、自在に振り回せる。

 むしろ、神社に奉納するような飾りとして三メートルの大剣や大太刀でも、きっと自在に使いこなす。

 それでも、地形の範囲に制約のある洞窟型のダンジョンだと、全長三メートルは長すぎる気がする。

 探索者にとって適切で扱いやすい長さというのがわからない。

 ネットで参照になる情報を探してみれば、三メートル以上の鉄板というか、鉄塊のような無骨な見た目の大剣でオークの群れを蹂躙している動画や、二メートルくらいの細身の大剣で素早くオーガを切り刻む動画があったけど、あまり作業の参考にならなかった。

 だから、大剣と大太刀は二メートルと三メートルの両方を作っている。

 長槍は大剣よりもさらに長い、三メートルと四メートルにしてみた。

 形状は基本的に、通常サイズの物をスケールアップしったようなオーソドックスな物になっている。

 大剣については切先のないエクスキューショナーズソードのしてみようかとも思ったけど、売り物なので中二心を抑えて我慢した。

 ヒマなときに、全力で禍々しいエングレービングを施したエクスキューショナーズソードを作ってみるのも悪くない。

 魔力切れになるまで、無心で素材、種類、形状の違う武具を作り続けた。

次回の投稿は七月二日一八時を予定しています。

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