買取所に行く友
魔力切れになるために、毎日こつこつ作ったデュオスピア、双魔の剛刀、デュオソード、双魔の剣鉈、そして双魔の杖を買取所で納品しました。
脛当て型双魔の杖を作るときにマギエメラルドを求めて、何体ものゴブリンメイジとコボルトメイジを狩ったときに余ったマギオブシディアンとマギルビーを使ってシンプルなデザインの双魔の杖を作った。
マギアンバーとマギサファイアは余りがないし、マギエメラルドは籠手型双魔の杖を作る必要になるかもしれないので売らない。
双魔の杖がどれくらいの値段になるかわからなかったけど、最低でもビギナーワンドと同程度の値段にはなるだろうと、在庫処分のつもりで納品してみた。
けど、双魔の杖の査定で店員が悩んでしまい、後日確定したら差額を払うと言って、とりあえず一本一〇〇万円の値段で引き取ってくれた。
宝石としての価値が低くて不人気のマギオブシディアンを使った闇属性の双魔の杖も同じでいいのかと思ったら、店員としては問題ないそうです。
珍しく店員から次回の納品で、双魔の剣鉈を多めで、数や形状の指定はないけど、大剣など攻撃力の高い物を用意して欲しいと言われた。
双魔の剣鉈は中堅やベテランの探索者だけじゃなくて、モンスターの解体業者なんかも欲しがっているそうです。
探索者向けの解体用の剣鉈くらいすでにありそうだけど、双魔の剣鉈クラスの物はあまり市場に出回らないらしい。
注文があったことだし、オーク鋼が余ったら大剣や大太刀を作るのもいいかもしれない。
小粒で透明だけどキラキラと輝いて存在感のあるマギダイヤモンドが先端に付いた全属性のビギナーワンドと、防御力はあまり期待できないけど隠行と魔力感知のスキルに小補正の付く黒い革製のくたびれたとんがり帽子ハーミットハットを購入して、コンテナブレスレットに収納した。
それでも、残金に五〇〇〇万以上の余裕があったので、この買取所の在庫になかった奈落のカボチャ、煉獄のカボチャなどさまようカボチャの上位装備を調達できないか店員にお願いしてみた。
さまようカボチャはいい装備だけど、防御力がアダマントコックローチの甲殻よりも下なので、オーガどころかオークの攻撃がかすっただけで砕けてしまう。
カボチャを止めてアダマントコックローチの甲殻やゴブリン鋼などで兜を作る?
…………ないな。
カボチャを止めるくらいなら、さまようカボチャのままオーガに突撃する。
店員との会話を噛まないで、緊張を表に出すことなく、平静を偽装してボクの納品が無事に終了した。
安堵しながら、次のスナオにカウンターの場所を譲る。
…………意識が飛びそうになった。
飯テロという言葉があるけど、これも該当するのだろうか?
まあ、しないかな。
あれは美味しそうな映像などで食欲を刺激するもので、間違っても可食物で人を悶絶させるテロ行為を指す言葉じゃない。
嗅覚がドブ色の獣臭と臓物臭の二重奏で蹂躙されて、逃避するように脳裏でそんな無意味な思考をしてみる。
「お預かりいたします」
ボクが無意味な思考で現実逃避しているのに、店員は頬をわずかに引きつかせながらも、ビジネススマイルを維持してスナオから角や犬歯や魔石が満杯に入ったボストンバッグと一緒にクーラーボックスに入った劇物を受け取る。
まあ、劇物はストライクベアの肝なんだけど。
ボクがトリオシックルと三魔の剣鉈の扱いを習熟している間に、スナオは時間が許す限りランスホーンとストライクベアを狩りまくったらしい。
狩りの最後のほうは長柄のデュオアックスでストライクベアを狩れたと嬉しそうに報告してくれた。
それはいいんだけど、狩りのときに預けたズタ袋を返却してもらい、スナオの狩りの成果を確認したときは死ぬかと思った。
魔石とランスホーンとストライクベアを解体したときに運よく出たらしい複数のローヒールポーションとローキュアポーションは問題なかったんだけど、同時に大量のストライクベアの肝が出てきた。
当たり前だけど二人で消費できるような量じゃないし、捨てるわけにもいかない。
ストライクベアの肝は重量や状態で値段が変わるけど、場合によっては高級なオーク肉よりも高く買い取られるので丁寧に、臭いの拡散を少しでも抑えるためにビニール袋で小分けにして、買ったまま未使用だったクーラーボックスに封印することにした。
いつか、オーク肉とかを売るときに必要になるかと思ってマグロがまるごと入りそうな容量の大きいクーラーボックスを用意していたんだけど、あれはもうストライクベアの肝専用にする。あれにオーク肉を収納するとか、食への冒涜でしかない。
クーラーボックスをストライクベアの肝で満杯にしたら、大きさが全然違うのに密売される人の臓器のようで少しグロかった。
「どれも状態がいいですね」
店員はひるむことなくストライクベアの肝を一つ一つ丁寧に調べている。
店員によれば、ストライクベアの肝だけじゃなくて、買い取り対象のモンスターの肉なんかも探索者に適当な血抜きや雑な解体で買取所に持ち込まれることもあって、血抜きされていない保存状態の良くないストライクベアの肝の悪臭は、本当にテロと呼びたくなるほど酷いらしい。
「この買い取り価格でよろしいでしょうか?」
店員の提示した一〇〇万円を超える金額に、スナオは驚きの表情を浮かべながら、小刻みに素早くうなずく。
まあ、換金できる魔石が低確率でしか出ないジャイアントラットを狩っていたら、なかなか到達できない金額だから驚くのは仕方がない。
でも、それ以上に店員との応対がストレスなのか、スナオの顔が強張ってて青白い。
ボクもいまだに慣れないけど、二年間探索者を続けているスナオも買取所での他人とのやり取りに慣れることはなかったらしい。
まあ、二〇年以上、苦手だった人付き合いが、二年で克服されるわけもないか。
続いて、スナオは風属性モンスターの毛で作られた長袖のシャツ、レギンス、靴下と感知のクチバシという魔力感知のスキルに小補正のあるクチバシが特徴的な黒い革製のペストマスクのような仮面をカウンターに置いて購入した。
感知のクチバシはスキルへの補正効果よりも、デザインがスナオの中二心を捉えた気がする。
この手のデザインが奇抜というか、仮装的な装備はスキルに補正があっても、探索者に人気がないからこの性能にしてはかなり安い。
それに魔力感知のスキルへの補正は、あいかわらず人気がないから安いそうです。
魔力感知は索敵、先読み、魔術に使えて汎用性が高いのに、世間の評価は魔術スキルのための補助スキル程度のままだ。
奇抜なデザインの装備には一部のコアなファンがいるけど、探索者が選ぶ装備の大半がオーソドックスで地味なデザインの物になっている。
探索者のなかでも中二なデザインの物はエンジョイ勢が多いから、さまようカボチャや感知のクチバシを人前で装備したら性能に関係なく見下されるかバカにされるだろう。
まあ、ボクもスナオも人前で探索者の装備をすることはないだろうけど。
次回の投稿は五月六日一八時を予定しています。




