表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/87

ニート、魔術を見る

 出来立ての白ご飯、シルバーラビットのから揚げ、インスタントの味噌汁を口にする。

 動きに影響が出ないように、量は少なめ。

 朝食が温かいというだけで、なんとなく心が満たされる。

 狩りの用意をしていると、静かな緊張が鼓動をわずかに加速させる。

 でも、恐怖で萎縮するように硬直しているわけじゃない。

 悪くない、緊張感だ。

 デュオサイズを手にして、第二層を進む。

 ゴブリンの領域はシルバーラビットやシャドーバットの領域を越えた、左側に広がっている。

 運良く一度も交戦することなく、遠見で標的を確認できた。

 ゴブリン系のモンスターが六体。


 弓持ちの一体が、


『ゴブリンハンター』


 杖持ちの一体が、


『ゴブリンメイジ』


 剣と楯持ちの四体が、


『ゴブリンファイター』


 と鑑定で判別することができた。

 普段、名前ぐらいしかわからない鑑定だけど、見た目がほぼ同じで種類が違う上位ゴブリンを判別するのにはとても役立つ。

 初戦で同族を指揮するときに能力を向上させるゴブリンコマンダーがいないのは良かった。

 けど、このゴブリンたち、なかなか存在感がある。

 体格はホブゴブリンより少し小さいけど、身に着けている物が貫頭衣から革の鎧になっていて、武器を持った素人の群れから戦う部隊になったような印象を受ける。

 でも、ボクの視線はゴブリンメイジの杖に吸い寄せられる。

 ゴブリンメイジの持つ魔術用の杖を戦利品として手に入れれば、ようやくボクも魔術が使えるようになる。

 わき上がる灰色の雑念を深呼吸を繰り返しながら、ゆっくり削ぎ落として、眼前に存在する六つ命を狩ることに意識を没入させていく。

 ボクがいるのは草原、ゴブリンたちがいるのは森。

 近づくか、こちらに誘導するか。

 上手く迫れば奇襲になるし、草原に引き込めればデュオサイズを最大限活用できる。

 ……デュオサイズを収納して、デュオシックルと双魔の剣鉈を装備する。

 ゴブリンハンターの索敵能力を探るためにも、奇襲を試すのは悪くないはずだ。

 隠行を意識しながら、音を立てないように注意して、群れの後方から距離を詰める。

 群れまで、三〇メートル。

 ……変だ。

 ゴブリンたちにこちらを発見された様子はないのに、群れは常に周囲を警戒している。

 第一層のゴブリンの群れなら、注意力散漫で警戒なんてしていなかった。

 緊張のレベルを上げて、意識をより張り詰めさせる。

 油断しているつもりはなかったけど、心のどこかでどうせ強くてもゴブリンだろうという気持ちがわずかにあった。

 その慢心を今、消滅させた。

 二〇メートル。

 一九、

 一八、

 一七

 一六、

 ゴブリンハンターに表面上の変化はないけど、魔力の流れにわずかだけど変化があった。

 十中八九、こちらの存在に気づいた。

 やっぱり、斥候タイプのゴブリン、索敵能力はホブゴブリンよりも高い。


「グギャアア」


 仲間への注意喚起のためか、ゴブリンハンターは叫びながら振り返って、こちらに矢を放ってくる。

 魔力感知の先読みでわかっていたから、余裕を持って横に飛んで回避した。

 凶悪な風切り音を奏でながら、ゴブリンの矢がさっきまでボクがいた空間を貫いていく。

 狙いは正確、威力もアダマントコックローチの防具なら大丈夫だけど炭素繊維のツナギは危険かもしれない。

 少なくとも、ボクは試す気にはならない。

 ゴブリンの弓と言えば原始的な粗末な物をイメージするけど、ゴブリンハンターの弓は強力なコンパウンドボウ並みの威力がある気がする。


「「「「グギャア」」」」


 雄叫びを上げながら、四体のゴブリンファイターがゴブリンハンターとゴブリンメイジをかばうように前に出る。

 戸惑うこともなく連携する。

 連携する仲間もいないソロの身としては羨ましい限りだ。

 どうするか。

 足を止めて、四体のゴブリンファイターを迎撃する?

 なかなか魅力的な選択肢だけど、ゴブリンハンターの実力から推測して、ゴブリンファイターを四体同時に相手をするのは厳しい。

 そこにゴブリンハンターとゴブリンメイジの援護が加わる。

 困難に挑むつもりはあるけど、無謀を楽しむ気はまだない。

 疾走。

 ゴブリンファイターの壁を横に大きく避けて、後衛のゴブリンハンターとゴブリンメイジを襲うフリをする。

 ゴブリンファイターの内の一体が後衛の護衛に戻って、三体が追いかけてくる。

 どうやら足の速さは、ゴブリンファイターよりもボクに分があるみたいだ。

 でも、後衛の援護が届かない距離まで引き剥がそうとすると、ゴブリンファイターは足を止めて釣られてくれない。

 頭のいい嫌な相手だ。

 迎撃。

 飛んできた矢をデュオシックルで払い落とす。

 回避。

 身を反らして矢を避ける。

 回避。

 回避。

 連続して、デュオシックルで迎撃しにくい足を狙って矢が放たれた。

 急激な加減速で矢を避ける。

 疾走する足を止めにずに、ゴブリンハンターを観測する。

 この距離ならゴブリンハンターの矢への対処は可能。

 矢筒が空になるまで矢を放ってくれたら良かったんだけど、そんな間抜けのわけがないか。

 ゴブリンメイジの魔力が高まる。

 魔術か。

 抑えようと思っても、生で魔術が見れると思うと、どうしょうもなく興奮してしまう。

 シャドーバットの衝撃波?

 あれは魔術っぽい、なにか、でしかないからノーカンだ。

 魔力が火の玉に変化して飛んでくる。

 込められた魔力と速度は、シャドーバットの衝撃波を少し超える程度。

 シャドーバットの群れから放たれる衝撃波に比べれば、容易に対処できる。

 回避。


「クソ!」


 避けたと思ったら、火の玉は追尾してきた。

 タイミングを読んで、背後の木に命中するように避ける。


「チッ」


 回避中に矢が飛んできた。

 デュオシックルで矢を迎撃。

 まったく、嫌なタイミングで矢を放ってくる。

 こいつら、多分、下手な探索者より集団での連携が上手い。

 切実に、パーティーメンバーか、従魔が欲しい。


「グギャアアア」


 魔術と矢で回避を強制されている間に、ゴブリンファイターに追いつかれた。

 でも、三体はわずかだけどバラバラになっている。

 上手くやれば一体ずつ対処できる。

 ゴブリンファイターの頭を目がけてデュオシックルを振るう。

 デュオシックルの柄を通して強い衝撃が右の手首に伝わる。

 ゴブリン合金製の円楯にデュオシックルの刃が縁を切り裂いてめり込んでいるけど、ゴブリンファイターに手傷はない。

 見事に防がれた。

 迎撃。

 突き出されたゴブリンファイターの剣を双魔の剣鉈で弾く。

 ゴブリンファイターの足に、アダマントコックローチの脛当てを命中させるようにローキックを放つ。

 空振り。

 ゴブリンファイターが後ろに飛んで、ボクのローキックを避けた。

 他の二体のゴブリンファイターが追いついて、左右に展開する。

 混沌色の不協和音が、微かな動揺を大袈裟に騒ぐ。

 ゴブリンメイジの魔力が高まる。

 だけど、ゴブリンメイジとの射線にはゴブリンファイターがいる。

 なんだ?

 ゴブリンメイジは火の玉を上に放った。

 大きく弧を描いて頭上からボク目がけて落ちてくる。

 地面に命中するように、火の玉をギリギリまで引きつけて、避ける。


「グハアァ」


 避けた火の玉が地面に命中する前に破裂した。

 ダメージは小さい、けど衝撃で動きを止めてしまった。

 首を射抜こうと飛んでくる矢は、強引に割り込ませたアダマントコックローチの籠手が不吉な乾いた音を立てながら防ぐ。

 三体のゴブリンファイターが武器を構えて前進してくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ