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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト


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ニート、兎と蝙蝠を狩る

 目覚めは悪くなかった。

 昨日、無様に油断したことで奈落のように沈みそうな気持ちを、離れに戻って調理したシルバーラビットのから揚げをやけ食いすることで、なんとか誤魔化せたのかもしれない。

 今日はシルバーラビットとシャドーバットとホブゴブリンを時間の許すかぎり狩ろう。

 デュオサイズを装備して狩りにいく。

 けど、鉛の鎖に囚われているかのように、一歩が踏み出せない。

 また、油断して同じような失敗をしたら、自分に失望してしまいそうで怖くなる。

 心の中身を入れ替えるように深呼吸をして、重くなり続ける心を置き去りにして、強引に一歩を踏み出す。

 考える前にスキルが的確に起動する。

 意識を徐々に狩りへ没入させて、不安の足枷を振り切る。

 第一層に通じてる階段を目指して疾走する。

 途中、一度シャドーバットの群れと遭遇したけど、手間取ることもなく狩れて素材にした。

 階段を進んで第一層を目指す。

 より正確に言うなら単独のホブゴブリンを目指す。

 まだ、群れているホブゴブリンに挑む自信が持てないから、単独のホブゴブリンで経験を積む。

 ホブゴブリンの武器を回収すれば、性能の良いゴブリン鋼を手に入れられるから一石二鳥になる。

 第二層からの明かりが途切れて、徐々に暗くなって暗視と隠行のスキルを意識する。

 慎重に足を進めると、すぐにホブゴブリンの背中が見えてきた。

 距離は一〇メートル。

 まだ、こちらに気づいた様子はない。

 ……ホブゴブリンのシルエットに違和感がある。

 うーん、ああ、大剣じゃなくて槍を装備しているのか。

 相手の間合いが長くなって、難易度は多少上方修正されるけど、それだけだ。

 ホブゴブリンがゴブリンジェネラルやゴブリンキングに変化したわけじゃない。

 状況は対処可能なレベルの変化だ。

 なら、狩りを続行する。

 隠行を意識しながら、足音を立てないように足を進める。

 残り五メートル。

 どうするか。

 距離をもう少し詰めるか、ここから突進してデュオサイズで切り伏せるか。

 ……もう少し距離を詰めよう。

 四、

 三、


「ちっ!」


 デュオサイズを振りかぶったところで、ホブゴブリンに気づかれた。

 一閃。

 デュオサイズが空を切る。

 ホブゴブリンが前方に倒れこむようにして回避した。

 ホブゴブリンはすぐに起き上がって槍をこちらに構える。

 デュオサイズの一撃を大振りで放ったために、加速した得物を制御して二回目の攻撃を放つのは相手よりも確実に出遅れる。

 刹那の逡巡。

 デュオサイズを手放して、両手をフリーにするとコンテナブレスレットからデュオシックルと双魔の剣鉈を素早く取り出す。

 一瞬の装備交換、これがコンテナブレスレットをベテランも愛用する理由だ。

 胸に迫ってくるホブゴブリンの槍を双魔の剣鉈で迎撃する。

 剣鉈から伝わる感触に内心、舌打ちをする。

 ホブゴブリンの槍の柄はダンジョンウォルナットじゃなくて、大剣と同じゴブリン合金製。

 静止状態なら両断できるかもしれないけど、交戦中に武器破壊ができるとは思わないほうがいい。

 前進。

 ホブゴブリンが間合いを詰められるのを嫌って、距離を離そうとするけど、それをボクは許さない。

 さらに前進。

 アダマントコックローチの肘当てを、槍の柄を握るホブゴブリンの手にぶつける。

 防具越しに、指が潰れて、骨が砕ける感触を伝えてくる。


「グギャアアアァ」


 痛みで叫び声を上げて、ホブゴブリンの動きが止まる。

 気持ちはわかるけど、悪手だ。

 指が潰されるような劣勢で、動きを止めたらカモだ。

 デュオシックルを一閃。


「グウウガアアアァーーー」


 ホブゴブリンの両腕が槍ごと地面に落ちる。

 双魔の剣鉈を一閃。

 ホブゴブリンを首から血を噴出させるオブジェに変える。






「よし!」

 

 ホブゴブリンを解体したら、胸から魔石じゃなくてローヒールポーションが出てきた。

 清浄のスキルで綺麗に血を落としてから、ポーションベルトにセットする。

 まだ、セットされているポーションは一つだけで、少し寂しいけど、徐々に増えるだろう。

 ホブゴブリンの槍をコンテナブレスレットに収納する。

 槍の柄までゴブリン合金製なのは、敵としてなら厄介だけど、素材としてなら嬉しい。

 回収したデュオサイズに装備を戻して、第二層に向かう。

 次にホブゴブリンが出現するのは、約三時間から六時間後。

 その間、シャドーバットとシルバーラビットを狩って素材を集める。

 シャドーバットの飛膜はすぐに活用できる予定はないけど、シルバーラビットの毛皮はそれなりの数が欲しい。

 ジャイアントラットの毛皮も悪くないけど、シルバーラビットの毛皮のモフモフを知ったら欲望を刺激されてしまう。

 あの暖かくて柔らかな感触に包まれて寝てみたいと。

 それに、シルバーラビットの毛皮で、いつでも寝るようになれば、微妙に芽生えたシルバーラビットへの苦手意識を払拭できるかもしれない。

 まあ、寝具が作れるほど安定して狩れれば、その前に苦手意識はなくなるかもしれないけど。

 第二層に戻ると、眩しい光に迎えられて目がチカチカする。

 同じダンジョンなら、暗いか明るいかどちらかに統一してくれと思う。

 個人的には、暗闇で統一してもらいたい。

 明るいと、暗視のスキルの熟練度が上がらないし、死体がフルカラーでグロさがモノトーンな暗視の世界よりも跳ね上がる。

 慣れたし、拒絶感はないけど、好んで見ていたいものでもない。

 遠見で四体のシャドーバットを確認。

 疾走。

 こちらに気づいたシャドーバットが衝撃波を放ってくる。

 迫る衝撃波を避けつつ、前進。

 跳躍。

 このシャドーバットの群れは勘がいいのか散開する。

 一閃。

 一体しか仕留められない。

 慎重に避けつつ、跳躍から一閃。

 また、一体しか仕留められないけど、問題ない。

 手間はかかるけど、一体一体確実に仕留めればいいだけだ。

 索敵に反応。

 シルバーラビットが二体。

 群れているわけじゃない。

 別の方向から近づいてくる。

 嫌なタイミングだ。

 シャドーバットを狩るのは時間の問題だけど、シルバーラビットと接触前に狩れるかと言うと微妙だ。

 ある程度、衝撃波の被弾を覚悟して強引に攻めるか。

 飛んでくる衝撃波を左のアダマントコックローチの籠手で防ぐ。


「アアアアァァァ!」


 予想よりも強い痛みに怯みそうになるけど、大声で誤魔化してデュオサイズを片手で強引に振るう。

 シャドーバットを両断する。

 後、一体。


「キュー」


 シルバーラビットの一体目が到着してしまった。

 装備をどうするか。

 デュオサイズはシルバーラビットと相性が悪いけど、シャドーバットは狩りやすい。

 デュオシックルや双魔の剣鉈だと、シルバーラビットには対処しやすいけど、空中を飛ぶシャドーバットは狩りにくい。

 …………デュオシックルと双魔の剣鉈でいく。

 群れているシャドーバットは脅威だけど、単体の衝撃波なら魔力感知の先読みで避けられる。

 シルバーラビットへの対処が先だ。


「キュー」


 シルバーラビットが首を傾げる。

 突進からの蹴りがくる。

 タイミングを見極めて、回避してから軌道にデュオシックルを重ねる。


「クソ!」


 行動をキャンセルして、強引に全力で回避する。

 至近を通り過ぎるシルバーラビットとシャドーバットの衝撃波。

 連携しているわけじゃないようだけど、片方に専念できない。


「キュー」


 シルバーラビットの二体目が到着した。

 焦燥が深層で産声を上げようとするけど、透明な専心が黙らせて意識を狩りに没入させる。

 シルバーラビットにカウンターを命中させるには、初動を見てからじゃないとダメだ。

 先に動いたら避けられるし、軌道を修正されて攻撃を当てられてしまう。

 回避。

 回避。

 回避。

 回避。

 回避。

 回避。

 シルバーラビットにカウンターを命中させたいけど、シャドーバットの衝撃波が邪魔をする。

 回避に専念すれば攻撃を避けられるけど、反撃する余裕がなくなる。

 シルバーラビットが一体だけ、あるいはシャドーバットがいなければ対処できるんだけど。

 黙々と回避して、回避して、さらに回避する。

 無心で延々と回避し続けて、ようやく色々なタイミングが見えてきた。

 立ち位置を修正して、相手の攻撃のタイミングを微調整する。

 シルバーラビットの攻撃とシャドーバットの衝撃波を大きく避けて、二体目のシルバーラビットの攻撃に備える。

 突進してくるシルバーラビットの体をデュオシックルが両断する。

 残りのシルバーラビットが背後から迫るけど、予定通りだ。

 倒れるように振り返って双魔の剣鉈を軌道に残す。

 シルバーラビットが内臓を撒き散らしながら崩れる。

 余韻に浸ることなく、迫る衝撃波を素早く横に避ける。

 デュオサイズに装備を変更する。

 跳躍から一閃。

 反撃を許さず、シャドーバットを落命させる。

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