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第九十二話 反撃会議

第九十二話 反撃会議


 キメラの仲間の一人、怒木揚羽の過去を、フードのお姉さんから教えてもらった。話自体は、偶然力を持ってしまった女の子が堕落していく人生という、あまり面白くもないものだったけど、驚くべき事実が交じっていた。


 私が自分の体を盗られる原因を作ったのは、揚羽だということだ。というのも、私の体を奪ったキメラに、その技術を伝えたのは、揚羽だというのだ。そのせいで、私は体を盗られる羽目になったと考えると、腸が煮えくりかえりそうになったわ。


 しかも、付けると怖がりになってしまうという手錠まで付けられて、ずいぶん醜態までさらす羽目になってしまった。もう解錠してもらっているから、問題はないけど。


 キメラの仲間ということで、ぶっ飛ばすリストには、無条件で名前を連ねていたけど、この事実が発覚したことにより、上位にランクアップしたわね。あいつら、絶対に許さない。


 連中への怒りを新たにしていたけど、ふと私と向かい合う形で、お茶を飲んでいるお姉さんの姿が目に入った。このお姉さんは、揚羽の姉なのだ。私に、揚羽のことを教えてくれたり、手錠を外してくれたりした恩人だ。


「いいんですか? 私の記憶を覗いたので、もうご存知かと思いますけど、私の知り合いには物騒な人が多いんです。妹さんもただでは済まないと思いますよ」


 そう言っている私自身、これから揚羽と生きるか死ぬかの喧嘩を始めようとしている。正直、揚羽に手加減しようとは思わないが、お姉さんの心境を想うと、複雑な気分になるの。


「構わん」


 だが、私の懸念をよそに、お姉さんの口からこぼれたのは、非情な一言だった。固まる私に、お姉さんは構わず話し続ける。


「妹のことは愛しているが、それとこれとは話が別だ。私は悪人が大嫌いでね。見つけたら、可能な限り、始末するようなことにしている。妹だからといって、手を抜くようなことはない。君がやらなくても、私が罰を下すつもりだ」


 お姉さんが悪人を処刑するのを見たことは実際に何度かある。他人は容赦なくやるけど、身内は大目に見るじゃ、筋が通らないものね。


 しかし、それを踏まえても、ここまではっきり言えるとは。


「私のことを軽蔑したか?」


 少しだけ自虐的な口調で、話してきたが、私はポツリと言った。


「いえ……。驚いたのは事実ですけど、そこまで自分の信念を貫けるのは、すごいとも思います」


「そうか……」


 私と同じようにポツリと漏らした後、お姉さんは黙ってしまった。そのあと、少し待ってみたが、お姉さんは黙ったままだった。おそらく話はもう終わりなのだろう。


 あまり長居するのも悪い気がしたので、もう帰ることにした。巫女さんがお代わりのお茶を持ってきてくれていたが、丁重に断る。


「私にも妹がいますけど、もし同じように悪事に手を染めたとしても、非常になりきる自信はないですね」


「それが普通さ」


 黙って会釈すると、私は現実世界へと戻った。




 さて。決意を新たにしたのはいいけど、これからどうするかしら。


 異世界で挑んでも、こっちに勝ち目がないのは明らかだわ。能力だって、私より強力なものが揃っているし、またあの手錠を付けれたりしたらたまらないものね。


 それなら現実世界で挑めばいいかというと、それも上手くいかない気がするわ。ここを襲撃してきた時にも感じたけど、あいつら、勝てる勝負しかしないみたいなのよね。戦うことよりも、自分より弱いやつをいたぶるのが好きなタイプかしら。まあ、好き好んで、いじめに手を出すような連中だから、今更驚きはしないけど、厄介だわ。


 たぶん正々堂々とは挑んでこないでしょうね。私だけの時をねらって、リンチを仕掛けてくるのが目に見えているわ。


 そういうのもあって、同じリンチを仕掛けられるなら、やはり異世界で受けて立ちたいのよね~。


 しばらく考えてみたが、良い結論が出ないので、大人に相談することにしましょうか。


 大人というのは、自室でパソコンと向かい合っている牛尾さんだ。声をかけるなというオーラが見えるような気がするけど、構わずに声をかける。


「牛尾さん。ちょっとお話があるんですけど」


「何だ?」


 パソコンの画面と睨めっこしていた牛尾さんは、迷惑そうな声を出しながらも、こっちに顔を向けてくれた。手は相変わらずパソコンのキーを叩いているけど……。まあ、耳をこっちに向けてくれるなら、それでいいわ。


 牛尾さんのプレッシャーに、ちょっとドキリとしつつも、口を開く。


「実はですね。今、異世界に行ってきたんですよ……」


 私が外出したという旨の発言をした途端、それまで座っていた筈の牛尾さんが、衝撃を受けてしまうくらい俊敏な動きで、距離を詰めてきた。


「お前……、さっき危ない目に遭ったばかりだろ。ふらふらと外に出ているんじゃねえよ」


 互いの顔がくっつきそうなくらいまで、接近して、どすの利いた声で説教された。何というド迫力なのかしら。


 外じゃなくて異世界なんですけどね。とりあえず、今回は迂闊に行動した私が悪いので、素直に謝罪したわ。これ以上、牛尾さんを刺激させたくなかったし。それでそのあとで、改めて、異世界でフードのお姉さんにされた話を伝えた訳よ。


「ふん。私がちょっと目を話しているすきに、いろいろ収穫があったようだな。手錠も外してもらったし、結果オーライだった訳か」


 まだ機嫌が悪いままの顔だが、牛尾さんは一服をしながら、話を聞いてくれた。


「それで? 揚羽を手下もろとも、ぶっ飛ばせばいいのは猿でも分かることだが、どうやって実行に移す気だ? 異世界で勝負を挑んでも、ダメージを与えることが出来ないから、現実世界で挑む気か?」


 さっきの私と同じことを聞かれたわ。みんな、そこが気になるものなのかしらね。私が異世界で迎え撃ちたいと言うと、牛尾さんは渋い顔をした。


「返り討ちにあうのが落ちだぞ。それとも、勝算でもあるのか?」


 勝算というほどのものでもないんだけどね。あくまで実現出来たら最高ってレベルなんだけど、ものは試しっていうしね。


「『魔王シリーズ』の能力を手に入れられないかなって。あれを使えば、キメラと戦う際にも役立つと思うんですよ」


 以前、御楽やキメラに使われた時のことを思い出す。万が一、揚羽もアレと同じたぐいの能力を持っているのだとしたら、対抗するために入手しておきたい。


「私も、あれば便利だとは思っていたよ。だが、入手方法が不明だ。あれはキメラが独自に開発した能力だからな」


「開発者の特権をフルに使って、能力を意図的に作り出すことって出来ないんですか?」


 むちゃくちゃなことを言っているのは自覚しているが、牛尾さんなら出来そうな気もする。すぐに否定されちゃったけど。


「そんなことができたら、とっくにやっているわ! でも、着眼点はいいと思うぞ。キメラたちに対抗する能力の開発か。面白そうではある」


 意外にも乗り気な牛尾さんに、私は一つのプランを提示することにした。


「今、いくつもの新しい世界がどんどん生まれているじゃないですか」


「ああ、お前と一緒に生まれるところに立ち会ったし、そのうちの一つにも足を運んだ」


 巨大花から、シャボン玉状の異世界が吐き出されるという、メルヘンなんだか、気持ち悪いんだか、よくわからない光景だが、あれを利用できないか考えていたのだ。


「キメラの話によると、その新しい異世界で起こっていることの中には、キメラ自身もコントロールできていないことがあるそうなんです」


「ほお?」


 牛尾さんが顔を寄せてきた。私の話に興味を持ってくれたらしい。


「つまりだ。新しく生まれた異世界を、辛抱強く調べていれば、キメラたちの寝首をかける糸口を発見できるかもしれないと?」


「その通りです! 場合によっては、『魔王シリーズ』クラスの力を入手できるかもしれません!」


 根拠はないが、今まで通り、キメラの管理下のもとで動き回るよりは、ずっとマシだ。


「一言で言うと、行き当たりばったりだな。仮に糸口があったとしても、その前にキメラ一派と遭遇する危険もある」


「でも、やる価値はあると思いますよ」


 このまま何もしないで、向こうから仕掛けられるのを待つのなんて、ごめんだわ。


 私の熱意が伝わったのか、それとも、牛尾さんのハートを刺激したのかははっきりしないが、私の案には賛成のようだった。


「確かに、やってみなきゃ見えてこないものもあるものな」


二日連続で投稿する時間が遅いな……。

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