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第九十一話 告白 後編

第九十一話 告白 後編


 現在、訳あって、命を狙われている状態だが、その様子を知った知り合いのお姉さんが、私に話があると助け船を出してきてくれた。


 アステカを模した神殿の中で、お姉さんは、私を脅かしている揚羽と言う人間について、話し出した。とはいっても、まだ始まったばかりで、ちんぷんかんぷんだけど。


「まず私の家族だが、揚羽が生まれたばかりの頃に、両親が離婚しているんだ」


 なるほど。揚羽は父親に引き取られた訳ね。以前、揚羽の家に行った時に、他の家族がいなかったのは、そういうことだったのね。でも、そうなると、話が矛盾してくるわね。


「でも、あの絵の揚羽は、幼稚園児くらいの見た目でしたよ?」


 お姉さんの説明通りなら、揚羽が物心ついた時点で、両親が離婚しているので、辻褄が合わない。


 私が疑問を口にすると、お姉さんはほんの少し悲しそうな顔をした。


「あれは、昔の揚羽が、両親が離婚していなかった場合のことを、想像で描いただけの絵だよ。妹は父方に引き取られたんだが、私と母に会いに、何度も遊びに来ていたんだ」


「そうなんですか……」


 その時の揚羽の気持ちを考えて、ちょっとブルーな気持ちになってしまった。私の場合は、母さんを早くに亡くしていて、揚羽と状況は違うけど、こっちも片親。気持ちは想像できた。


「妹を引き取っていった父親は、放任主義者でな。妹が私たちに会いに来ていることを知りながら、特に咎めるようなこともしなかったし、動きやすかったんだろ」


 揚羽の父親については、話は聞いている。私の印象では、放任主義者というより、過度に甘やかしているという感じだけどね。離婚して、母親がいないことへの後ろめたさもあるんでしょうけど、親としての教育を怠っていたのは否めないわね。


「最初の内は、それでも上手くいっていたんだ。母親も、妹に会いたがっていたし、うるさく言うやつもいなかったからな」


 一見すると、幸せな家族生活に聞こえる。でも、この話はこのまま終わらなかったことを、私は知っている。


「でも、異変は起きていた」


 失礼とは思いつつも、図々しくお姉さんの話に割って入った。そのことで気を害する様子もなく、お姉さんは黙って頷いた。


「あいつが目に見えておかしくなったのは、中学の頃だった。上手く言えないんだが、雰囲気的なものが徐々に変わっていったんだ。当時の私は、深く考えないで、思春期だからと片づけてしまった。今思うと、それが良くなかったんだな」


 わずかに後悔の混じった声色で、お姉さんが話し出した。


「言い訳になるが、住んでいる家が違うせいで、知るのが遅れた。いつの間にか、あいつはオカルトに傾倒しだしていたんだ」


「オカルト?」


 何か変な話になってきたわね。私も人並みに怖い話は好きで、肝試しに何回か言ったこともあるわ。心霊を否定するつもりはないけど、今話すことなの?


「占星術とか、コックリサンとか、一通りのものに手を出していてな。その中でも、あいつが特に傾倒していたのは、人形に、人の意識を移動するというものだったんだ」


「人形……」


 異世界で、足元にいつの間にか人形が転がっていたのを思い出した。怪しいとは思っていたけど、あれが揚羽のオカルト趣味のなれの果てなのだろうか。


「いかにも馬鹿げた話だが、妹はそれを実現させてしまったんだ。危ない遊びを覚えたあいつは、せきを切ったようにおかしくなっていった。実験と称して、同級生や知り合いの意識を交換して、困る彼らを見て、大いに楽しんだ」


 性格がハイスピードで歪んでいくのが想像できるわ。人間、過ぎた力を手にすると、あっという間に崩れるものね。そうやって、周りを恐怖に陥れながら、気が付いたら、学校の支配者になったと……。ここら辺は説明を受けなくても、容易に想像がつくわ。うん、だんだん話が見えてきた。


 でも、人間の意識を移動するなんて、こんな話、どこかで聞いたことがあるような……。他人事に聞こえないというか……。何か嫌な予感が急速に高まってきているわ。これ、最上級のネタばらしがくるんじゃないの?


「もう感づいていると思うが、キメラに人の体を乗っ取る方法を教えたのは揚羽だ。君の父親の要請があったんだ」


「…………」


 最悪な話だ。それのせいで、私が体を盗られる羽目になったのか……。湧き上がってくる感情がどうにも止まらないわね。とりあえず、この台詞だけ……。


「何をやらかしているのよ。お父さんの馬鹿~~!!」


 おそらくお父さんにとっても、寝耳の水の事態だったことは分かるが、そのことで私は人生を狂わされかけているのだ。言いたくはないが、怪しげな力に手を出したお父さんを、声高で非難してやりたい気分だわ。


 こうなったら、キメラの拠点の地下で眠っているお父さんを、意地でも叩き落として、文句を言ってやらなきゃ気が済まないわ。


「ショックを受けると思ったが、逆に闘志が漲っているようだな」


「当然です!!」


 ますます揚羽に殺される訳にはいかなくなったわ。ていうか、私がこうなったのは、みんなあいつのせいじゃない。絶対にお礼をしてあげる!!


 散らばったパズルのピースが思わぬところではまった。だが、爽快感は一切なく、ひたすら気分の悪いものだった。まさかオカルトの類まで動員していたなんて。節操がないわね、『神様フィールド』……。


「じゃあ、記憶を失っていなかったら、揚羽にあった時点で、この真相を知ることが出来たってことですか?」


 記憶を吸い取るつるの存在が改めて鬱陶しく感じられるわ。この件が解決したら、駆除してやらなきゃ。


「いや、記憶があろうと関係ない。あれは揚羽が作り出した、人工の人格だ。揚羽が別の体で遊ぶために、体を留守にする時に、揚羽の体を管理するために生み出された存在だ」


 へ……? 人格なんて、そんな簡単に作れるものなの? それが出来たから、私は体を盗られた訳だけどね。


「あの子は最初から記憶を吸い取られていなかったのさ。少しは吸い取られたかもしれないが、彼女には、元々大した記憶がなかったから、大差なかった」


「じゃあ、記憶を戻そうと奔走したのは無駄足だったんですか?」


 それに巻き込まれて、萌は意識を失ったのに……。


「ちなみに、揚羽は今どこにいるんですか?」


「自分の体に戻っているよ。少し前まで私の体に入っていたけどな」


 前回、お姉さんと会った時、最後の方で台詞がおかしかったのは、揚羽が話していたからか。ようやく話がつながったわ。


「じゃあ、私と仲良くしていた『早坂揚羽』はどうしたんですか?」


「人形の一つに意識を動かされたよ。必要のない時は、いつもそうしている」


 勝手に作られて、もの扱いか。聞いていて、気分が悪くなるわ。


「君の妹さんも、人形の一つに意識を幽閉されている」


 萌が意識を失った時に、足元に転がっていた人形のことか。必要ないと思って、その場に置いてきたけど、今にして思えば、回収しておくんだったわ。知らなかったとはいえ、痛恨のミスだわ。


 まあ、いろいろあったけど、お姉さんの話は、私にとって大変有意義なものだった。でも、一つ腑に落ちないものもあったわ。


「どうしてこんな話を私に?」


 言っちゃなんだが、私はお姉さんとは赤の他人だ。個人的な付き合いもないし、ここまでしてくれる理由が分からない。


「君が襲われていたからだ」


 お姉さんの回答は、この上なくシンプルなものだった。


「今ので説明不足と言うのなら、君を見殺しにするのが忍びなかったからだ。君の今の体の元の持ち主を一度揚羽に殺害させてしまっているからな。また見過ごすわけにはいかない」


 妹への愛情を、自信の信念が上回ったということね。お姉さんらしいわ。


「あと、それからな」


 近寄ってくると、私に付けられている手錠を二つとも開錠してくれた。


「この手錠は特殊な力を持っていてね。現実世界に戻っても、解除されないばかりか、発信機の機能も持っているんだ。加えて、付けられている人間の精神に作用して、恐怖を増大させることも出来る。いつもに比べて、怯えるようになったと思わなかったか?」


 言われるまでもなく、心当たりは無数にあった。自分が怯えやすくなっていたのは、これが原因だったのね。


 こんなもので、精神を乱されていたのね。調子がおかしくなっていたと実感していたけど、こいつのせいだったのね。こんなもののために、たかが不良共に怯えていたなんて、悔しいわ。牛尾さんにも泣きついて、お風呂まで一緒に入ってもらう始末だし、ああ、もう、恥ずかしい!!


 恥ずかしいやら、悔しいやら、顔から火が出るほど、感情が昂ぶったが、もうこれで安心。あとはあいつらをぶっとばすだけだわ。


 頭に浮かぶのは、どうやってあいつらを叩きのめすかについてのみ。怯えはあまりなし。これでこそ、百木真白だわ。晴れて、完全復活よ!


 お姉さんには、また借りが出来ちゃったわね。しかも、今回は貴重な情報まで教えてもらったし、お世話になってばかりだわ。


いろいろなネタばらしのある回でした。話もだいぶつながってきましたね。

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