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第八十九話 『揚羽』からの殺害予告

第八十九話 『揚羽』からの殺害予告


 牛尾さんの機転で、二人組を撃退することに成功したが、気持ちは重かった。


 ほんの少しのつもりで、外に出たら、襲撃される始末。これでは、本格的にビルの中に引きこもらなければならないではないか。


 次に出る時は、連中と対決する時か……。その時には月島さんも一緒だろうけど、気が重いなあ。って、また月島さんのことを当てにしちゃっているわ。


 いくら不意を突かれたとはいえ、怯え過ぎよ、真白。あんなやつら、アーミーやグラコスに比べれば、大したことないじゃないの。揚羽にしたって、キメラの仲間だからって、どうしたっていうのよ。でかい顔を出来るのは、異世界限定なのよ。現実世界じゃ、パパに尻拭いをしてもらっているだけの不良娘じゃない。恐れるに足らないわ。……そう、怖くなんかない。


 怖くないを連呼している時点で、十分怯えているわよね。どうして、こんなに怯えているのかしら。私、気は強い方なのに……。


 私の様子を見かねた牛尾さんが声をかけてくれる。


「私な。これから風呂に行くんだけど、一緒に入るか? 狭いけど、二人くらいなら入れる。お前は男の体をしているけど、中身が女だから問題ないだろ」


 そこまで気をまわしてくれなくていいですと断ろうとしたのだが、手が震えていた。認めたくないが、これから自分に何が起ころうとしているのが怖いのだ。


「……お願いします」


 恥ずかしかったけど、首を縦に振った。


 畜生……。どうして私が怯えなきゃいけないのよ。これくらいで、ビビる私じゃないでしょ? アーミーや、グラコスの時だって、しっかり向き合って、立ち向かったじゃないの。




 風呂に入ってからも、震えは止まらなかった。ちゃんと温まった筈なのに、全然体温が上がらない。時間が経つごとに悪化しているようにも思えるわ。


 もう寝る時間だけど、萌の隣で寝てあげようかしら。それが萌を一人にしたくないという姉としての想いからなのか、単に怖くて一人で寝たくないだけなのか、分からないけどね。


 思わずため息をつきそうになったところで、スマホが振動した。過剰なくらいに怯えてしまっている私は、当然の如く心臓が口から出そうになるくらい驚いた。


 画面を見ても、表示されているのは、番号のみ。登録していない番号からの通知。知り合いからではない。


 いつもなら深く考えずに、電話に出るところだが、今は怖くて仕方がない。どうしよう……。牛尾さんに頼んで、側にいてもらおうかな……。


 って、何を言っているのよ、百木真白! 電話に出るくらいでビビることないでしょ。いざとなったら、電話を切っちゃえばいいじゃない。


 意を決して電話に出ると、やたら明るい声が響いてきた。普段なら、顔をしかめるところだけど、怯えきっている今の私には、とても羨ましいものだった。


「アハハハ、やっと話せたね。あなたとは何回もニアピンしているっていうのにね」


 私がもしもしと尋ねる間もなく、勝手に話し出した。誰かは知らないけど、人の話に耳を傾けるのは苦手なようね。


「どちら様?」


 とりあえず知り合いでないことははっきりしたので、電話の相手が何者なのか聞いてみることにした。


「私のこと、知らないの? キメラから話を聞いていると思うんだけど?」


 電話の向こうでは、いかにも心外という声が聞こえてきたが、知らないものは知らない……。ちょっと待って。こいつ、今キメラって言った?


「あなた、キメラの仲間なの?」


「そうだよ。四人いるキメラの仲間の内で、最も優れている右腕的存在なの」


 一番優秀とか言っているけど、こいつが四人の中で一番の小物のような気がする。おっと、一番の小物は御楽で決まりか。じゃあ、こいつはその次。


 私にこんな分析をされているとは、夢にも思っていないようで、電話の女は話を続けた。


「あの二人から、もう聞いていると思うけど、キメラに逆らった罪で、あんたには死んでもらうから」


 同じ仲間でも、御楽とは違って、かなり言動が過激だ。キメラによると、私はこいつと何回かニアピンしているらしい。今までの人生を覚えている限りで、総おさらいしたが、該当する声は存在しなかった。


「あんた……、誰なの?」


 心当たりがなかったので、観念して聞いてみると、驚きの情報が返ってきた。


「誰って、揚羽だよ」


 ふざけているのだろうか。私が一緒に異世界へ繰り出した揚羽とは、明らかに声が違う。紛れもなく別人だ。


 私を付け狙うキメラの仲間からの電話に震撼しているのもあるが、それ以上にあの揚羽が水無月くんをいじめていた訳ではないことが分かり、安堵してもいた。きっとこいつは揚羽の双子のお姉さんなのだろう。彼女の家の画用紙にも描かれていたし。あまりにも二人がそっくりなので、加住くんも、学校のみんなも、分からなかっただけに違いない。


 そして、今電話で私と話しているこいつが、全ての元凶……。全く関係を持ちたくない相手だけど、やっと話せたという思いは、私も同じだ。まさか、向こうから接触してきてくれるとはね。私の番号をどこで手に入れたのかはともかく、直接対決ってのは、嫌いじゃないわ。


 とにかく、まずは揚羽を騙るのを止めさせないと。本人だって、こいつの濡れ衣を着せられるのは、迷惑だろうしね。


「あんたが何者か知らないけど、揚羽を騙るのは止めなさいよ。他人に成りすますなら、もっと上手くやることね」


「? 意味が分かんないなあ。揚羽は私一人だよ。成りすますとか、意味分かんない」


 もうばれているというのに、まだ他人の振りを続けるつもりなの?


「本人だって、あんたと間違われて迷惑しているんだからね。堂々と自分の名前を名乗ったらどうなの?」


「だから、名乗っているってば。あなた、馬鹿?」


 駄目だ。埒が明かない。ここまでしらばっくれるとは。仕方ないから、話題を変えるか。揚羽を名乗るのを止めさせるのは、とっちめた時にやればいいや。


「あと、私に死んでもらうとか言っていたけど……」


「そうよ。私の愛するキメラの邪魔をする憎いあなたを、この世から抹殺してあげる」


 ずいぶん物々しい台詞を吐いてくれるものね。しかも白々しい。最初は冷静に話していたけど、だんだん腹が立ってきたわ。どうしてこんなやつに、私がビクビクと怯えていなきゃいけないのよ。


 元々、私は血の気が多い人間なので、我慢の限界に達しようとしていたのは、自分でも分かっていたわ。今回のケースでは、これ以上我慢する必要がないことも、同じくらいに分かっている。


「来られるものなら、来てみなさいよ。返り討ちにしてあげるわ。あなたが何者か知らないけど、一方的に言い寄られて迷惑しているのよ」


 もし来たら、あの二人組ごと、返り討ちにしてあげるわ。


「アハハ! 強気だねえ。さっきはあの二人に襲撃されて、めっちゃビビっていたくせに! そうか、あのおっぱいの大きなお姉ちゃんに守ってもらうからか~。守られてる存在っていいね。何とでも言えるから」


「ぐっ……!」


 こいつ、さっきのことをもう聞いているのね。しかし、こいつ。私が気にしていることをずけずけと……。


 屈辱に震える私の様子を想像でもしているのか、揚羽と名乗る女子は楽しそうな笑いを上げていた。


「絶対に、絶対に返り討ちにしてあげるんだから……! あんたの性格が変わるくらいに痛めつけてやるんだから。二度と揚羽の名前を騙ることが出来ないようにしてあげるんだから」


 向こうには苦し紛れの台詞にしか聞こえなかったのだろう。馬鹿にしたような笑いが漏れ聞こえてきた。


「何を言っているのか、本当に分からないよ。怒木揚羽は私一人だよ。それに、お前ごときが、私を倒すなんて、天と地がひっくり返っても無理よ」


 舐めきった声で一笑されると、電話は切られてしまった。


 通話が終わった後も、私はスマホを耳に当てたまま、怒りのせいで動けないでいた。ここまで馬鹿にされたのは、久しぶりだわ。


 怒りが収まらない私は、近くの壁を力任せに蹴りつけた。


「何が、私は揚羽よ! 偽物のくせに!!」


 そう叫んだところで、おかしなところに気付いた。


 あいつ、確か『怒木揚羽』って言っていたような。それを言うなら、『早坂揚羽』じゃないの? それにしても、『怒木』って名字、他にも知り合いにいたような気がするな。


 その時、またしてもスマホが振動した。揚羽が伝え忘れたことがあって電話してきたのかとも思ったが、表示されていたのは、別の番号だった。今度はあの二人組のどちらかかしら。


「もしもし?」


「やあ、私を覚えているかい?」


 覚えているかって? そんなことを急に言われても……。あ!


「フードのお姉さん!」


「怒木だよ」


 ちゃんと名前を覚えてほしいと苦笑いされた。私も変な覚え方をしてしまい、照れ笑いで返した。そうそう、この人もさっきの揚羽と同じ怒木という名字なのよね。


「突然で悪いが、今から会えないか?」


「え?」


 本当に突然だ。時間はもう日付が変わろうとしている。お姉さんから重要な情報を知らされることをまだ知らない私は、時計を見ながら、固まってしまった。


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