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第八十八話 追ってきた二人

第八十八話 追ってきた二人


 萌が眠ったまま、起きなくなってしまった。私だけでは手に負えないと判断して、牛尾さんに助けを求めたが、そこですごい話を聞いてしまった。


 今、私たちに危害を加えようとしている揚羽と、その仲間と見られる二人組こそが、私の体の元の持ち主である水無月くんを殺害していて、その処理を揚羽の親に頼まれていたというのだ。


 揚羽の親は子に甘い人間だったらしく、娘とその仲間が裁かれないように、いろいろと手を尽くしたとのことだ。自分を殺した犯人たちが裁かれないどころか、自分が死んだことが殺人事件としてすら、取り上げられることはない。水無月くんも無念だったろうな。


 何とも重く、且つ腹立たしい話で、気がすっかり滅入ってしまった。


「重要な話ではあるんでしょうけど、今の状況を打破することにはつながらなさそうですね」


 一つはっきりしたのは、揚羽たちに殺されたら、また同じように揉み消される可能性があるということだ。揉み消されなければ殺されても良いという訳ではないが、ますますぶちのめしたくなってきた。


 月島さんは刑事としての仕事があるので、あれから一時間ほどして帰っていった。


「アーミーやテケテケの時は、家に閉じこもるようにさせていたけど、今回は明確に気味がターゲットだ。一人でいさせる訳にもいかないし、美紀に頼む訳にもいかない。だから、しばらくはここで牛尾と暮らしてもらう。悪く思わないでくれ」


 悪く思う訳がない。


 ここなら、警備員も大勢配置されているし、防犯設備も行き届いている。やつらだって、迂闊には手を出せない筈だ。これ以上ないほどの配慮だ。



 ただ一つの懸念事項だった食事も、結構美味しかった。ここに泊まり込んでいる牛尾さんのことだから、大量のサプリメントを夕食と言って出されないか不安だったのだ。


 萌にも点滴を通して、栄養が補給された。どこも悪くないのに、点滴というのも、不思議な感じがしたが、自分で食事を取れない以上は仕方がないのだろう。


 点滴用の機材を片づけると言ったのだが、牛尾さんが自分が片づけるから、私は休んでいていいと断られた。彼女なりに、気を遣ってくれているのだろう。


 牛尾さんが部屋から出ていくと、私と萌の二人きりになった。部屋にはテレビやパソコンもあったのだが、利用する気にはならず、萌のベッドに近付いて、顔を寄せた。


 起きていると、うるさいくらいなのに、こいつも黙っていれば、端正な顔つきなのよね。言い寄ってくる男も多いでしょう。牛尾さんじゃないけど、気を抜いていると、あっという間に汚されちゃいそうね。


 顔を見てばかりいるのも何なので、眠ったままの萌に話しかける。今だけは、男の言葉は止めて、百木真白として話しかけよう。


「ねえ、あんた、どうしちゃったっていうのよ。大嫌いなお姉ちゃんが、こんなに顔を近付けているのよ。憎まれ口の一つ、叩きなさいよ」


 軽く挑発してみたが、萌は黙ったまま。眉一つ動かしはしない。


 反応がないのに、顔だけ見ているのにも飽きてしまい、ため息をついて顔を離した。


 このままじゃ気が萎えるだけだな。気分転換でもしようか。牛尾さんが戻ってくるのを待って、夜の空気でも吸おうと、ビルの外に出ることにした。外は暗いけど、ビルから離れる訳でもないし、危険もないでしょう。


 外に出ると、深呼吸しながら、体を伸ばして唸った。時間帯のために、人通りは少なくなっていて、夜風が気持ち良かった。


 自分が危険な状態にあることを忘れてしまうくらい、穏やかな時間だった。それで警戒心が緩んでしまったらしい。


 夜の空を眺めながら、ぼんやりとしていると、突然、右手と左足に付けられている手錠が音を立てて鳴った。


 え? これって、音が鳴るものなの!?


 すっかり油断していたので、全身が総毛立ってしまった。だが、本当の意味で総毛立つのは、それからだった。


 ふと、こっちを見ている視線があるのに気付いた。もちろん、夜とはいえ、人通りがある以上、私を見ながら歩き去る通行人がいない訳ではない。だが、それとは違うタイプの視線を感じたのだ。


「何であいつらがいるのよ……」


 不可解で、あり得ないことだった。


 紛れもなく、あの二人組だった。揚羽の指示で、異世界で私に絡んできたあの二人組だ。私に付けられている二つの手錠を付けたのも、あいつら。ということは、手錠が鳴ったのも、あいつらの仕業……。


 さっきまでのリラックスムードは一気に崩れて、代わりに緊迫した空気が流れた。


「あ、水無月二号だ」


「発見、発見」


 向こうも同じタイミングで、私を見つけたらしく、あの耳障りな会話をしている。


「何? お前ら、ストーカーまがいのことまでしているのか?」


「ストーカーじゃないよ。ただお前を付け回しているだけ」


「ん? それを世間ではストーカーっていうのか」


「じゃあ、いいや。ストーカーで」


 相変わらずごちゃごちゃうるさいやつらね。私を潰すために、ここまで来たんでしょ。それなら、さっさと行動に移しなさいよ。


 私の発する嫌悪の感情が伝わったのか、二人組も臨戦態勢になっていく。


「あらら。再会したというのに、俺たち、あまり歓迎されていないみたいだね」


「当然だろ。自分を潰しに来たやつを歓迎する奴なんて、いやしないよ」


「そりゃ、そうか。そうだよな」


「じゃあ、早速始めようか」


 二人組が、私のところに向かって来ようとする。気分転換のつもりが、バトルスタートなんて、信じられないわ。


 でも、こうなった以上、四の五の言っていられない。とにかくどうにかしないと。拳を強く握って、攻撃に備える。そこで……。


「そこまでだ、糞ガキども!!」


 牛尾さんの声が後ろから響いた。続いて、武装した警備員が一斉に飛び出してきた。


「牛尾さん!」


「よお! 最近のお前は、少し歩くだけで棒に当たっているからな。念のために後ろからつけさせてもらったが、警戒して正解だったぜ!」


 同じストーカーでも、こっちは大歓迎だわ。瞬く間に形勢逆転よ。


「おいおい。向こう、銃とか構えているぞ」


「ここは日本だぜ? 本物の訳がないだろ。モデルガンに決まっているだろ」


 そんな話をしている二人組の足元に、警備さんの一人が発砲した。乾いた音が夜の街にこだまする。


「あれれ? ひょっとして本物?」


「だって、ここは日本だぜ。そんなこと、許されるの?」


「ふふん! 私たちを甘く見るなよ!」


 狼狽する二人組に、胸を張って宣言する牛尾さん。豊満な胸がたぷんと揺れていたが、今は最高に頼もしい。


「不味いな……。俺たちが思っているより、やばい連中みたいだぞ」


「戦っても勝てないな。ここは退散に限る」


 意外に物分かりがいいようで、二人組はあっさりと退くことを決断した。


「そういう訳で、今日は退かせてもらうよ」


「でも、次は……」


 捨て台詞を遮って、二度目の威嚇射撃が地面に当たった。


「逃げるなら、とっと行けよ。でなきゃ、こっちから仕掛けるぞ」


「ぐ……」


 牛尾さんの凄みに圧されて、さすがの二人組もたじろぐ。


 悔しそうに私と向かい合った後、二人は素直に夜の闇に消えていった。


 二人組が見えなくなったのを確認すると、冷や汗が一気に噴き出した。心臓も、今頃ばくばくいっている。


「怪我はないか?」


 私に近付いてくると、まず怪我の有無を確認してきた。私が無事だと言うと、煙草に火を付けながら、警備員さんたちをビルに戻した。


「休憩のつもりで、ビルの外に出たら、いきなり襲われるとか、災難も甚だしいな」


「はい……」


 牛尾さんの言う通りだ。せいぜい十分にも満たない筈の休憩の瞬間を狙われるなんて。誰かが密告したのではないかと疑ってしまいそうなくらいのピンポイントだ。


「しかし、どうしてここが分かったんだろうな。ここにお前たちがいることは、一部の人間しか知らない筈だ。ましてや、糞ガキどもが知る訳ない」


「でも、あいつらはいました」


 どうやったかは知らないが、ここを嗅ぎつけたのは事実だ。


「恐らくこれが原因だと思います。あいつらが現れる少し前に音を立てて鳴ったんですよ」


「ふん、発信機付きの手錠か。それでお前の居場所は丸分かり。なかなか味なことをする」


 しかも、この手錠、結構頑丈で、破壊もままならない。発信機の役目をしていること間で分かっているのに、取り外せないなんて、口惜しいったら、ありゃしないわ。


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