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第八十四話 キメラの忠告

第八十四話 キメラの忠告


 萌と揚羽の三人で異世界にやってきたが、ひょんなことから離れ離れになってしまった。じゃあ、今は一人かというとそうでもない。目の前に、さっき遭遇したばかりのやつが一人いる。


「一応聞いておくけど、二人は無事なの?」


「さてね。この洞窟は僕の意志とは関係なく成長しているから、何とも言えないな。彼女たちの安全を確保したいなら、早めにログアウトすることをお勧めするよ」


 何とも無責任な答えが返ってきた。あんた、メインプログラムだから、何でも知ってなきゃいけないんじゃないの!?


「……この仕掛けを作ったのは、あなたじゃないの?」


「いや、変に操作しないで、好きに成長させていたら、こうなっていたんだ」


 そんなことある訳ないと思いつつ、ストレートに聞いてみたら、とんでもない答えが返ってきたわね。


「この世界を始めとして、新しい異世界が続々と生み出されているけど、そっちも無関係なの?」


 まさかそんなことないでしょうけど。ていうか、こっちも異世界が勝手にやりましたなんて言おうものなら、ハイキックをかましてあげるわ。


「そうだよ。異世界が増えているのは、僕たちの仕業さ」


「どうしてそんなことを……」


 だんだん質問に熱が入って来たところで、またも横から水が噴き出してきた。これを浴びると、洞窟内のどこかにランダムで飛ばされるんでしたっけ? キメラと大人の話をしているのに、そんなことで邪魔が入るのは困るわ。


 若干反応が遅れたけど、ギリギリのところで、水を躱す。はい、セーフ……。と思った矢先、足元からも噴水してきて、それを浴びてしまった。


 しまった。避けたと思ったのに、地面からも噴き出してくるなんて……。


 鉄砲水に当たってしまった私は、洞窟内のどこかに強制テレポートさせられてしまう。


「会って早々で寂しいけど、離れ離れになっちゃうみたいだね」


 まだ話の途中なのに、キメラが涼しい顔でエンドを宣言する。く~、こいつには、まだ聞きたいことがあるのに。


 だが、私の体は洞窟内のどこかに、強制的に移動させられた。


 私もいなくなって、キメラに一人になった。誰も聞く人間がいない状況で、独り言をやつは呟いた。


「心配することはないよ。僕も君とは、まだお話がしたいから、こっちから出向いてやるさ……。だから、もう少し真白ちゃんたちにちょっかいを出すのは待ってくれないか?」


 キメラのすぐ後ろには、人形が落ちていた。





 気が付くと、周りには誰もいなかった。萌も、揚羽も、もちろんキメラも。


 キメラ。あいつには、まだ聞きたいことがあったのに、水なんかに邪魔されるなんて……。


 その水だけど、今は落ち着いているみたいね。キメラの話によると、定期的に噴き出したり、止んだりと繰り返しているそうだから、今は小休止しているところかしら。


 また噴き出してくるのも面倒なので、今の内に移動してしまうことにしましょう。


「萌ちゃん! 揚羽!」


 洞窟内を歩きながら、二人の名前を叫んでみたが、返事はなし。完全に離れ離れになってしまったようね。


 はぐれて寂しいということはないけど、大丈夫かしら。再会したら、記憶喪失でしたなんて展開は嫌よ。


「馬鹿キメラ!」


 どうせまた返事は返ってこないのだろうと思い、いたずら心も相まって、ふざけた感じで呼んでみた。


「馬鹿は余計だよ」


 来ないと決めてかかっていた返事のせいで、私はドキリとして、その場で飛び跳ねてしまった。私の驚く様子をおかしそうに眺めながら、キメラが近寄ってきた。


 キメラだ。


「やあ! また会ったね」


「会いに来たの間違いじゃないの?」


 さっき離れ離れになったばかりのキメラと、もう再会したということは、私はたいして遠くに飛ばされていないことになる。


「でも、ホッとしたわ。あなたとは、まだ話したりなかったから」


 あれで会話が終了しましたじゃ、寝覚めが悪すぎるわ。


「それは僕も同じだよ。今日僕がここに来た目的をまだ話していないからね」


 目的? ここには散歩で訪れていたんじゃないの?


「ははは。そんな訳ないよ。僕だって、ちゃんと目的を持って、動いているんだから」


 こいつの目的……。どうせろくなものじゃないでしょうね。


「そんな顔しないでよ。僕がここに来たのはね。君に忠告するためなんだ」


「?」


「最近、その体の持ち主。水無月くんって言ったっけ? 彼のことで、いろいろ嗅ぎまわっているみたいだけど、それを止めてほしいんだ」


 こいつ……。どうして、最近の私の行動を知っているのよ。


「僕には四人の仲間がいてね。その内の二人とは、もう会っているよね。御楽と哀藤だ」


 二人の顔を思い浮かべる。特に、御楽の顔はすぐに思い出せた。あまり会いたくないやつの上位に位置する相手だ。忘れたいのに、忘れられないのだ。


「残りの二人とも、会っているんだよ。君は気付いていないかもしれないけど」


 ! あなたの仲間と、もう会っているですって!?


 今までの交流関係を思い出してみる。確かに、中にはとんでもない人たちもいるけど、キメラの仲間が混じっていたですって!?


 そんなことを言って、私を疑心暗鬼にするのが狙いなんじゃないの? もし、そうだとしたら、そんな幼稚な手には引っかからないわよ。


「その一人がね。君を消そうと動き出しているんだ」


 私を? いきなり物騒なことを言うわね。


「でも、そいつってあなたの部下なんでしょ? あなたが止めろと一言いうだけで、問題は解決するんじゃないの?」


「ははは。真白ちゃん、一つ忘れてないか? 君と僕は、一応敵対関係なんだよ? そんな命令を下すのはナンセンスじゃないか?」


「ぐ……」


 痛いところをつかれて、言葉に詰まってしまう。


 でも、だとしたら、私に忠告をしに来たのも、ナンセンスじゃないの? その仲間の行動を妨害している訳でしょ?


「まあ、この体を使わせてもらっている借りもあるからね。今、水無月くんについて、調べるのを止めれば、執行猶予が付くから、伝えておこうと思って」


 執行猶予。どっちにせよ、将来は消されるってことじゃない。


「彼女のことを悪く思わないでくれよ。僕のことを想うあまり、敵対する君のことが大嫌いなんだ」


 自分を消そうとしているやつを悪く思わないなんて無理ね。私がそう言うと、キメラはそりゃそうだと低く笑った。


「じゃあ、僕はそろそろ自分の異世界に帰るよ」


 私の質問タイムはまだ終わっていないのに、自分の目的が済むと、キメラはさっさと戻るとか、言い出した。今に始まったことじゃないけど、強引なやつ。


 でも、そうはさせない。帰ろうとするキメラの手を引っ張って、押しとどめる。最後に一つ、聞いておきたいことがあったのだ。これだけはどうしても答えてもらう。


「ここのつるの成長には携わっていないと言っていたけど、もしよ。私があなたを外に連れ出して、例のつるを頭に巻かせたら、記憶喪失になったりするの?」


 さあ、どう回答する? 回答次第では、これからあんたを外まで引きずり出すことになるわよ。


「……分からないな。僕の記憶が奪われる可能性もあるし、何も起こらない可能性もある。さっきも言ったけど、この世界は好きに成長させているからね」


 キメラは真面目な顔で答えた。それ、回答になっていないわよ。でも、キメラはこれで満足だろとでも、言いたそうな顔だ。


 ちょっと待ちなさいって。私はまだあなたが帰ることを了承していないわよ。


 去っていこうとするキメラの肩に手を置こうとしたところで、何かを踏んづけた。人形だった。


「その人形はね。彼女からの警告だよ」


 彼女? 私を抹殺しようとしている、キメラの仲間の一人のこと?


「忠告はしたよ。僕の言葉に耳を傾けるか、それとも、無視して殺されるかは君次第だ」


 私が人形から視線を上げると、キメラの姿はもうなかった。


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