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第六十話 能力の実験場

第六十話 能力の実験場


 異世界の住人であるティアラが、現実世界へとやってきた。話を聞くと、どうやら御楽に唆されて、連れてこられてしまったらしい。これだから人を疑うことを知らない箱入りのお嬢さんは……。


 とにかくこのままにはしておけないので、ティアラを元の世界に戻すために、動くことにした。


 ただこの事態を招いたのは御楽なんだから、こいつを締め上げるのが一番なのよね。小夜ちゃんのお兄さんに何か取引を持ちかけていたようだから、城で待っていれば、また会えそうだけど……。


 そんなことを意識の隅で考えていたら、運が良いのか、悪いのか、いきなり会えてしまった。


 どうせまたすぐに再会することになると思っていたけど、こうもあっさり会えるなんてね。ひょっとして、こいつ、私が来るのを見計らって登場しているんじゃないかしら。


「よお! 一日ぶりね、御楽!」


 向こうはお兄さんに用があるみたいだけど、先に私にも名乗らせてもらうわよ。そして、あわよくば、このままぶちのめされて頂戴な。


「げ! またお前かよ!」


 御楽は私の姿を確認すると、見る見る顔を曇らせた。


 何よ! こんな美少女と連日会えるっていうのに、そんな顔をするなんて失礼しちゃうわ。


「そんなはっきりと嫌そうな顔をしなくてもいいじゃない」


「嫌なものを見て、嫌な顔をして、何が悪いんだよ!」


 こいつ……、はっきりと私のことを否定してきたわね。


「大体、昨日キメラに手ひどくやられたばかりなのに、もう活動を再開しているって何だよ。せめて一日くらいは、家のベッドで泣いて過ごせよな」


「そんな女々しいことを出来る訳がないでしょ!」


 そりゃあ、ちょっと風呂で泣いたけどさ。そんなこと、こいつに話すことでもないから黙っておくけど。


「とにかく! ティアラをこの世界に戻してもらおうじゃない! あんたが現実世界に連れ込んだことは、もう割れているから、とぼけても無駄よ。断ったら、力づくでも首を縦に振らせるから!」


「お前の攻撃は俺に通用しないのに、どうやって力づくで通すつもりだよ……」


 む! あからさまに呆れているわね。でも、私は退かないわよ。どうするかは、これから考えるけど……。


「やれやれ。真白と話していると話が進まないな。なあ、ここはあんたが前面に出てきてくれないか? あまり社交的でないのは知っているが、少しはまともな話し合いが出来ると思うんだがね」


 私の挑発を受け流すように、御楽がお兄さんとの話し合いを提示してきた。お兄さんの方も、御楽に言いたいことがあるようで、異論はない様子だ。でも、そうなると、私が蚊帳の外に……。


「悪いけど、ここは退いてくれないか? あんたが退くのが苦手な性格なのは薄々分かってきたが、これは俺の問題なんだ」


 問題というのは、ティアラのことね。愛する人を勝手に連れ出されて、男として腹の虫が収まらないといったところかしら。


「あんたもこいつと因縁があることも知っている。昨日、俺と別れた後に、一悶着あったみたいだしな。でも、これだけは譲れない。俺にとっても、ティアラのことを放っておく訳にはいかないんだ」


 今まで他人とのコミュニケーションを面倒くさがって、避けていたお兄さんにしては、しっかりと私の目を見据えて言ってきた。……仕方がないわね。そこまで本気を見せられたら、私も鬼じゃないわ。出血大サービスで、ここは退いてあげようじゃないの。


 小さく私に礼を言うと、お兄さんは御楽と向かい合うように、前に出た。


「ふふん! 今まで、俺のことなんて眼中にもない様子だったのに、素直になったものじゃないか。あまり褒められたやり方じゃないけど、あんたの恋人を攫ったのが良かったかもしれないな」


 お兄さんが眉間をピクリと動かす。今にも青筋が浮き出るんじゃないかというくらいに、お兄さんが怒っているのが分かる。


 でも、御楽みたいなタイプに、感情の起伏を見抜かれるのは逆効果なのよね。こいつ、絶対に人を怒らせて楽しむタイプでしょ。エンドレスで、挑発されて、会話の主導権を握られる危険があるわね。


「確認しておきたいんだが、ティアラを現実世界に連れ出したということは、その逆も可能なのか?」


「この世界にまた戻せるかということか? 当たり前だろ。連れ出した時と逆のことをすればいいだけだ。目を瞑っても、簡単に出来るよ」


 その言葉だけ聞けば十分というように、お兄さんがもう一歩前に出た。


「そういうことなら、俺の用件は一つだ。ティアラを戻せ!」


 私にしたように、御楽の首を絞めるかと思ったが、今度は怒鳴っただけだった。でも、その声は芯が通っていて、明確な怒りを感じさせた。


「やはり要求はそこか……。うん、分かりやすくていい」


 御楽がニヤリとする。


「君に提示した話を受けてくれるのなら、すぐにでも戻そう。それで構わないか?」


「……駄目だ」


 わずかに苦悶の表情が浮かんだが、お兄さんは御楽の要求を突っぱねた。


「おいおい! 愛する恋人の安否がかかっているんだぜ。強情を張っている場合じゃないだろ」


「駄目だ。ティアラと引き換えでも、……出来ない」


 さっきよりもはっきりと苦悶の表情が顔に出た。ティアラがかかっているのに、断るなんて。そこまで受け入れがたいものなの?


「なあ、あの兄ちゃんって、どんな要求を突き付けられてん?」


 瑠花に聞かれたが、私も知らないのだ。御楽かお兄さんにでも、聞けば良いのだが、昨日はキメラのことで、頭がいっぱいだったからなあ……。


「そんなに難しく考えるなよ。何も、この世界を全部いただくって言っている訳じゃない。半分だけ、新しい能力の餌食にさせてもらえればいいんだから。それでお姫様が戻ってくるんだぞ。安いものじゃないか」


「なっ……!?」


 新しい能力って、『スピアレイン』のことよね。昨日、私を異世界から強制ログアウトさせた、天から降り注ぐ暴君の槍。


「現実世界で例えれば、核実験場みたいなものかな。君の神様ピアスの力で、人が立ち入らないようにするだけでいいからさ」


「駄目だ! ティアラたちを騙すことになる!」


 時が止まったように、固まってしまった。そうか……、ティアラだけじゃない。お兄さん、この世界の人たち全員が好きなのね。


「……たかがゲーム世界の住人だろ。危害を加えると言っている訳でもない。のめりこみすぎなんじゃないか?」


 御楽の声が低くなる。こう着したままで平行線ばかりの状況に、だんだんイライラが募っているみたいね。


「なあ、御楽の言う通りやで。ここは素直に要求を受け入れようや。キメラに逆らっても、痛い目を見るだけなのは、あんただって分かるやろ?」


 瑠花までも、御楽の案に乗るように、諭してきた。私やお兄さんと違って、キメラに肯定的な人間なので、仕方ないと言えば、仕方ない。


 でも、お兄さんは首を縦に振ろうとしない。額には脂汗まで浮き出ている。もう意地なんだろう。


「嫌だ……。俺を信じてくれている人に嘘をつきたくないんだよ!!」


 いきなり叫ぶお兄さん。一体どうしたっていうの? いくら自分の異世界の命運がかかっているとは言っても、この反応は過剰だわ。


「そんなことをしたら、あいつと……、兄と同じじゃないか……」


「え?」


 お兄さんって、高級車を乗り回しているイケメンの人のこと? いきなり関係がないと思われていた人物が登場したことで、私は呆けてしまった。


「ああ、そっか。君、お兄さんに地獄に落とされたんだっけ。それで引きこもり生活を続けていたところに、神様ピアスを手にして、この世界で勇者をやれている。自分が人間として認めてもらえている世界だから、多少なりとも削りたくないのか」


「ち、違う!!」


 え? 地獄に落とされたって……。


「そういうことなら、首を縦に振ってくれないのも、頷ける。でも、だからといって、諦めることも出来ないのよね。キメラに怒られるから」


 御楽の声のトーンがどんどん落ちていく。急ピッチで、不味い展開になっていくのが分かるわ。


「そういう訳で、勝手に能力を使わせてもらおうか……」


 交渉は決裂した。ていうか、勝手に使わせてもらう? それって、ここで発動するってことなの!?


 「ちょっと待って」と言おうとしたところで、御楽の右手に、黒い泡が噴き出しているのを見つけた。


「『最終審判』……。とくと味わいな」


また18時台の投稿になってしまいました……。手を抜いているわけではないんですけどね。

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